第二十三話 ニコル、納税に同行する
七月に入り一週間が過ぎ、例年通り父さんと二人、人頭税の小麦を領主様へ納めに村を出た。
「ヒヒーン!」
今年は実家にいる村共有の馬は使わず、シャルロッテに馬車を引いて貰った。
勿論、シロンも同行している。
「久しぶりの遠出で、嬉しいって言ってるニャ」
「プラーク街のダンジョン以来だな。でもシロン、後ろには父さんがいるんだ。人語は、気を付けて使えよ」
「分かってるニャ」
荷車は乗用の箱型なので、御者台との間には壁があった。
小声なら聞こえないと思うが、用心に越した事はない。
僕達は父さんに気を使いながら、リートガルド伯爵領の領都に向けて街道を進んだ。
◇
いつもだと片道五日掛かるのだが、シャルロッテは普通の馬よりスピードもスタミナもあり、三日と半日で領都に到着する事ができた。
父さんは、僕が《転移魔法》を使える事を知っていたが、それを利用しようとは考えなかった。
ちなみに、他の家族には内緒にしている。
「随分、早く着いたな」
「そうだね。シャルロッテが、頑張ってくれたからね」
「だけど、この馬車での移動中も夜営も、ストレスを感じなかったな」
「自分の馬車だから、かなりいじってあるよ」
「信じられないくらい揺れが小さいし、トイレが付いていて椅子もフカフカでベッドにもできるんだもんな」
「《結界》を張れば安心して寝むれるし、宿の心配をせずどんどん先に進めたね」
「ニコルと旅をすると、快適でいいな」
「《転移魔法》だったら、一瞬で着いたけどね」
「あれは、便利過ぎる。村の連中にバレたら、大変だぞ」
「そうだね。今もぼろが出ないよう、馬車で移動してるしね」
「王都に行く時も、気を付けろよ。時々、母さんが探してるからな」
「分かってるよ。でも、そのうち仕入れた商品が無くなるから、また旅に出ないとまずいね」
「母さんに、また泣かれるな」
「ハハッ」
◇
早速、僕と父さんは人頭税の小麦を収めに、領主の敷地にある保管倉庫へ訪れた。
そこには、いつもの税務担当者がいた。
「おお、エシャット村のジーンよく来たな。お前達は、盗賊に出くわさなかったのか?」
「はい、今年も大丈夫です。その言いようだと、誰か被害に会ったのですか?」
「ああ、ゴルド村が昨日やられた。生憎、死人は出ていないがな。今、兵を出して討伐に出てる」
「そうですか。奪われた物が、戻ってくるといいですね」
「そうだな」
僕は税務担当者と父さんの話しを、黙って聞くだけだった。
その後、僕は魔法袋から小麦俵を取り出し、小麦の保管場所に置いた。
父さんは村の住民一覧表を税務担当者に渡し、抜き取り検査で小麦俵の重量と品質の確認に立ち会っていた。
「今年もいい品質だな。重量も規定通りある。俵の数も申告表通り。合格だ」
納税した物に問題は無く、父さんは《納税証明書》を受け取った。
「ありがとうございます。それでは失礼します」
「ああ、気を付けて帰れよ」
僕達は、領主の敷地にある保管倉庫を後にした。
◇
「今年も、無事に人頭税を納める事ができたね」
「ああ。だが、また盗賊に襲われた村があったな」
「まったく、性懲りも無く現れるよね」
「ニコル、今年もやるのか?」
「そうだね。できる範囲でやるよ」
僕はここ数年このような情報を聞くと、盗賊を捕まえ奪われた物を取り返し、盗まれた人に返してあげていた。
しかし、盗賊を捕まえに行く前に、馬車を何とかしなければならなかった。
シャルロッテが僕の操車じゃないと嫌がるので、今日泊まる宿まで移動し馬車を預ける事になった。
元々一日だけ、領都に宿泊する予定だったのだ。
だが、シャルロッテを厩舎に入れるのに、一騒動が起きた。
厩舎には、牡馬がいたのだ。
シャルロッテに、《消臭魔法》と《変装魔法》を掛けて何とか厩舎に入れた。
その後、シャルロッテの回りに《結界》を張り、ようやく落ち着いてくれた。
「それじゃ、盗賊を捕まえに行ってくるよ。シャルロッテは、大人しくするんだぞ。シロンは、シャルロッテの面倒を見てくれよ」
「ヒヒーン!」
「ニャー」
「ニコル、気を付けてな。俺は繁華街で、仕入れをしてるぞ」
「うん。分かった」
僕はそう返事をすると、人気の無い場所に移動した。
◇
「よし、まずは検索だ」
僕は『ゴルド村の奪われた人頭税』で、検索をしてみた。
「あった。魔法袋ごと、奪われたんだな。ここから、結構離れてるぞ」
奪われた魔法袋は、この場所から三十キロ程離れた森の中だった。
「さて、さっさと終わらせて買い物をして、明日はエシャット村に帰るかな」
そう呟くと、僕は領都の壁の外に転移した。




