第十九話 小麦の収穫
六月になり、小麦が実って収穫の時期になった。
昨年までの収穫は、鎌で小麦を刈る人・小麦を束ねる人・小麦束を運ぶ人・小麦束を干す人に分かれ、村人総出で行っていた。
小麦は僕達の主食でもあり、領主様に収める税でもあり、一大行事となっていた。
だが、今年は今までと違い、多くの村人が見物人となっていた。
その理由は、僕が齎した《乗用収穫機》の魔道具が活躍しようとしていたからである。
今から僕は操作を実演して、村人達に操作方法を教えるところだった。
村人達は一様に、僕が操作する乗用収穫機を見守っている。
「それじゃ、いくよー!」
僕は手を振りながら大きな声を張り上げ、みんなに開始のアピールをした。
「頑張ってー、ニコルちゃーん!」
「ニコルお兄ちゃん、頑張れー!」
「ニーニ-、がんばれー!」
みんなからは、黄色い声援が上がった。
僕はそれに応える事無く、乗用収穫機を小麦畑の右端に突っ込む。
すると、突っ込んだそばから小麦は刈られ、一定量が溜まると一つの束になり、小麦畑の右側の通路に放り出されていく。
「すげー。小麦がどんどん刈られて、束になってくぞ」
「なんじゃありゃ、魔道具とはこれほどのものなのか?」
「一人で、百人分働けるんじゃないか?」
「今年から、腰を痛めずに済むぞい」
「やったー! 小麦刈りを、手伝わなくていいんだー!」
「ウェンディ姉ちゃん、嬉しそうだね」
「当たり前じゃない、クルート。小麦刈りって、凄く疲れるの知ってるでしょ」
「良かったわね、ウェンディ。これも、ニコルちゃんのお陰ね」
「ニコルっち、良くやったわ。褒めてあげる」
この光景を見ていた村人は、みんな感心していた。
乗用収穫機の性能は、前世のコンバインのような、《脱穀》までできる高性能にはしなかった。
そこまですると、面倒な事になりかねないと思い自重したのだ。
今回は乗用しながら操作ができ、小麦を狩ってその束を紐で縛るだけのものである。
小麦の束を縛る構造は難しいのだが、人の手で行うと結構手間なので、ここは自重しなかった。
ここでは、乗用収穫機の他に《乗用荷車》も活躍した。
既に野菜の収穫にも使っているので、村人達は上手に乗りこなしている。
「あははっ、こりゃ小麦の収穫も楽になるね。あんた達、小麦束を早く積んじゃいな!」
「分かってるよ。もっと、ゆっくり走ってくれ!」
「お前ばっかり楽して、ずるいぞ!」
乗用収穫機で刈った小麦束は、収納が無いので地面に放り出されてしまう。
その為、人力で回収しなければならなかった。
そのうち乗用収穫機を改良して、荷車と連結させて小麦束の積み込みもできる構造にする予定だ。
この後回収した小麦束は、村人達の手で専用の竿に掛けられ、一週間程天日干しされる。
◇
実演を充分行ってから、村人に操作方法を説明し運転を代わった。
僕はその様子を近くで見ていたが、問題なく操作できていた。
「ひゃー。らくちんだー!」
操作している村人からは、そんな感想がこぼれた。
「村の外には、便利な物が沢山あったんじゃのー」
「年寄りには、大変じゃったから助かるわい」
「これも、ニコルのお陰じゃ。魔道具バンザーイ!」
乗用収穫機はもう一台あるので、そちらも同様に指導した。
そのお陰で、昨年まで村人総動員して五日掛かった収穫と天日干しが、四十人程の人員で二日で行えるようになった。
◇
小麦束を天日干ししてから一週間が経ち、小麦の乾燥具合は丁度良かった。
早速、《脱穀機》の魔道具で脱穀が行われた。
「これ、凄い楽だわー。麦束を乗せるだけで、どんどん脱穀してくれる」
「本当ね。足踏み式が現れたときも驚いたけど、これは桁違いだわ」
「これも、イケメンのニコル君のお陰ね」
足踏み式での脱穀は、結構体力を使う。
自動で脱穀が行えるようになり、ここでも大変喜ばれた。
脱穀された籾付き小麦は、俵にそのまま詰められた。
これは、《人頭税》で領主様に収める分である。
使われた俵は冬の間村人が作った物で、魔法袋に入れて保管されていた。
村で食べる分の小麦は、時間経過のある魔法袋に保管された。
時間経過の無い魔法袋にしない理由は、小麦は収穫してからある程度時間が経った方が、《熟成》して美味しくなるからである。
そして、脱穀作業も二台の脱穀機を使い三日で終わった。
エシャット村では脱穀が終わると、《収穫祭》が行われる。
とは言っても、収穫した小麦でパンを作り、普段食べてるような料理を食べるだけの質素なものだ。
そこで僕は、行商で仕入れた物を収穫祭に提供し、みんなに喜んで貰おうと考えていた。




