第十八話 商品の売り込み
僕は一ヶ月振りに、王都のダニエル商会支店に来ていた。
《トランプ》の《遊戯マニュアル》が完成し、そろそろトランプとセットで売り込もうと考えている。
遊戯マニュアルは、分かり易くイラスト解説入りである。
新作のグラスの方はどうなったかというと、昨年の十月から既に卸している。
今までの色に濃淡のグラデーションを付けて芸術性を増した結果、現行品より五千マネー高い二万五千マネーになった。
売れ行きの方は、高額になったにも関わらず好調だった。
また、ボックスティッシュの売れ行きも良く、貴族の屋敷で必需品になりつつあった。
卸した商品の代金を受け取り、僕はいよいよトランプの売込みを始める。
「メゾネフさん。今日は新商品を、お持ちしました。ご覧になっていただけますか?」
「ええ、勿論です。ニコルさんの商品なら、喜んで拝見しますよ」
メゾネフさんは、にやりと笑う。
僕は魔法袋から商品を取り出し、テーブルの上に置いた。
「こちらは、《トランプ》という名の遊戯を目的としたカードです。遊戯方法はいろいろあり、こちらの《遊戯マニュアル》と言う本にまとめました」
そして、カードを箱から出して、一枚一枚テーブルに並べた。
スペード・ハート・ダイヤ・クラブ各十三枚とジョーカーを二枚。
まずはカードの種類の説明をし、遊戯方法を実際に遊びながら説明していった。
そして、『勝敗でお金を掛けて遊ぶ事もできますが、のめり込むと破産する危険性をはらんでます』と説明した。
そこまで聞くと、メゾネフさんは『ごくり』とつばを飲み込んだ。
「まあ、《賭け事》をするしないは、本人の責任ですがね。本来は、《楽しく遊ぶ》ものです」
「まだ、遊戯方法も含めて理解が及びませんが、何やら売れる気配がします」
「これは預けますので、実際に遊んでみてください。そうしないと、売る時大変でしょうから」
「そうですね。おっしゃる通りです」
この後、トランプと遊戯マニュアルの預り証を受け取ってお暇した。
◇
「丁度、昼飯時だな。《御食事処やまと》に、寄って行こうか」
店に入りテーブル席に着くと、ギョーザとチャーハンを頼んだ。
しばらくすると、店主自らチャーハンとギョーザを運んで来た。
「よー、兄ちゃん久しぶりだな。元気そうで、何よりだ」
僕は店主の顔を見て、ある事を思い出した。
「ええ、お陰さまで。ところで店長さん、《一味唐辛子》の原料の《唐辛子》を、まとまった量収穫できたんですけど欲しいですか?」
そう会話をしながら、話しとは関係無い《ラー油》を魔法袋から取り出した。
これは、今から食べる餃子用のものである。
「勿論だ。手に入るんだったら、多少高くても買うぞ。って言ってるそばから、また何か出しやがったな!」
「ああ、これはラー油と言って、餃子用の醤油に数滴垂らして使うんですよ。一味唐辛子と数種類の調味料と油を、混ぜたものです」
「おいおい、また俺の感が疼いてるぜ。これを、食わなきゃならねえと。兄ちゃん、餃子一皿やるから食わせてくれ!」
「またですかー。しょうがないですね」
前世の食堂のように、自由に使える調味料は、客のテーブルには置いてない。
この世界で調味料は貴重なので、醤油は予め小皿に出された。
僕はその醤油の小皿に、専用の極小スプーンで掬ったラー油を垂らす。
そして、箸を持って待ち構えている店主に勧めた。
「どうぞ、食べてください。その代わり、餃子一皿お願いしますよ」
「ああ、もう作らせてる。それじゃ、いただくぜ」
店主はラー油の混ざった醤油に、餃子を付けて口に運んだ。
「かれー! でも、うめーぞ。すげー餃子と合う。もう一個くれ!」
「いいですよ。あと、二個までなら」
皿には元々、大ぶりな餃子が六個乗っていた。
「かたじけねー。もぐもぐ、カーッ、ビールが欲しくなるぜ!」
すると、店主はビールをコップに注ぎ、飲み始めてしまった。
『この人、大丈夫なのか? これくらいじゃ酔ったりしないだろうけど、『店主が客から料理を貰って、ビールを飲んでる』なんていう、悪評の方が心配だ』
そんな僕の心配を他所に、店主は餃子をもう一個食べて、ビールを飲み干した。
「プハー! こりゃ、ビールが進むぜ。食事が終わったら、声を掛けてくれ。俺は、調理場にいるからよ」
「はい」
今更だが、『もう少し、落ち着いて食べたかったなー』と、心の中で思った。
食事が終わると、店主を呼んで貰い商談が始まった。
その結果、一味唐辛子を一月に一キロずつ卸す事になり、金額は二十万マネーでまとまった。
以前売ったのが、百グラムで十万マネーなので、今回はその二割の額である。
それでも、店で採算が取れるのか、こっちの方が心配になった。
商談が決まった事もあり、お近づきの印にラー油を小瓶に入れ分けてあげた。
ついでにレシピも渡し、アレンジした《食べるラー油》の情報も教えてやった。
「兄ちゃん、ありがとな。これで、考えていた新作料理をメニューに増やせるぜ」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました。また、一ヶ月後に来ます」
「おう、待ってるぜ」
そして、僕は店をお暇するのだが、店主は今回も御代をただにしてくれた。




