第十七話 エシャット村の仕事
朝食後、母さんとシロンに子供達の相手を任せ、僕は厩舎でシャルロッテのブラッシングをしながら考え事をしていた。
「ニーニー、あそんでー」
「ああ、うん」
ブラッシングをしていても、子供達はお構いなしにやってくる。
久し振りに子供達の顔を見れて、僕も嬉しいので嫌という訳ではない。
「それじゃ、シャルロッテのブラッシングが終わるまで、少し待ってくれるか?」
「「「「「わかったー!」」」」」
「シャルロッテ。そういう訳で、簡単に済ますぞ」
「ヒヒーン!」
シャルロッテは子供達に気を使って、素直に頷いてくれた。
◇
ブラッシングが終わり、今は子供達の相手をしている。
「「じゃんけんぽん。あいこでしょ。あっちむいてホイ!」」
「やったー。かったー!」
「兄ちゃん、負けちゃったー」
実は、僕はわざと負けている。
子供達が勝ったら、次の子に交代する事になっていた。
「こんどは、わたちー!」
「よし、やろう。いくぞ」
「うん」
僕は子供達が飽きるまで、遊びに付き合った。
◇
子供達は昼になると、ご飯を食べに一旦家に帰った。
僕もシロンとシャルロッテと昼食を済ませ、ゆっくりする時間ができたので、また考え事を始めた。
その考え事とは、エシャット村の店や仕事の事である。
エシャット村には、店が実家のスーパーしか無かった。
職業の方も、狩猟班の十人と農作業をする人と行商をする僕だけである。
そんな事もあって、村に店や工房や職業を増やしたいと思っていた。
取り敢えず思い付くのは、パン工房・お菓子工房・服飾工房・飲食店・喫茶店・大工・鍛冶師・陶工・医師・薬剤師・教師である。
この内のいくつかは、僕が表と裏でこなしている。
だが、将来の事を考えれば、村の人達の手でいろいろできた方がいい。
他にも必要な店や職業はあると思うが、村の人口は二百三十人しかいないので、増やすにも限度があった。
今のところ魔道具の導入で、農作業をする人の手が何人か空くのを見越していた。
「やっぱり、パン工房は作りたいよな。家庭で作るより買った方が楽だし、工房の方が美味いパンを作れる」
「飲食店も、欲しいよな。パスタやピザを、流行らせてもいいかもしれない。でも、食材や酒の安定供給は、僕が頑張らないといけないな。それに、客の絶対数が少ないのも問題だ」
「服飾工房も、欲しいな。欲を言えば生地作りもできると、価格を抑えられるんだけど」
「ミーリアが服を作るって言ってたから、服飾工房に興味あるか聞いてみようか?」
「いろいろ始めるにも、結局人材がいないと駄目だな。どこかから専門職の人を連れて来たり、修行に出せれば手っ取り早いんだけど、どうするか?」
その後もしばらく、考えを巡らせて独り言を呟いていた。
◇
「ニコルちゃん、入るよ」
ミーリアが、僕が一人でいる《図書室兼教室》にやって来た。
「ああ、いいぞ」
ミーリア達はダンジョン出発から一ヶ月休みを取っているので、今日も休みだ。
「独り言が聞こえたけど、どうかしたの?」
「えっ、聞こえたのか?」
「内容は、分かんなかったけどね」
「そうか。実は村の新しい仕事を、考えてたんだ」
「ふーん、そうなんだ」
「ミーリアは、何かやりたい仕事は無いのか?」
「えっ!」
僕の質問に、ミーリアは考え込んでしまった。
「えーと、考えたけど、よく分かんない」
「だったら、服作りはどうだ?」
「服作りかー。趣味レベルでしか作れないけど、私にできるかな?」
「やる気があるなら、協力するぞ」
「どうしようかなー」
「そんな、直ぐに決めなくていいよ。興味があったら、言ってくれ」
「うん、分かった」
無理に勧めて続かないと嫌なので、ミーリアが自発的にやりたいと言うまで待つ事にした。
「おーい、ニコルいるかー」
ダンジョン組の残りの四人も、やって来た。
「こっちに、いるぞー」
「おっ、いたいた」
「ミーリア、もう来てたのね」
「うん」
「私はこのお金で、ケーキをいっぱい買うんだー」
ウェンディは、握り締めていたお金をミーリアに見せた。
「良かったね。でも、使い過ぎると、おばさんに怒られるよ」
「大丈夫。お金はお母さんに半分だけ渡して、残りの半分は内緒にしてるもの」
「そんなの、いつかばれるよ」
「みんなが、黙ってれば大丈夫だって」
「おいらは、全部母ちゃんにやったんだぜー」
「僕もー」
「俺は、まだ持ってるぞ」
「スギルとクルートの親から、ウェンディの親に伝わるのも時間の問題だな」
「えっ! それは、拙いわ。でも、これは私のお金。私には、これを使う権利があるのよ!」
ウェンディは、結局ケーキの誘惑には勝てなさそうだ。
この後、四人にも仕事の事を話したら、サジとスギルが狩猟班に興味を示した。
ウェンディとクルートは、今まで通り農作業でいいらしい。
よくよく考えたら、二人の魔法は農業との相性が良かった。
この事は、後で父さんに報告する事にした。
やがて、ご飯を食べ終わった子供達がやって来て、また賑やかになった。




