第十六話 帰宅の報告
母さんは僕を充分堪能し、ニコニコしている。
そして、幾分肌艶が良くなったように見えた。
普段から実際の年齢より若く見えるのだが、一層若返ってしまった。
「久し振りに、ニコルちゃんを堪能できたわ。母さん、満足よ」
「母さん。晩御飯、僕のとシロンの分も頼むね」
「今日はニコルちゃんが帰って来たから、ご馳走にするわね」
母さんはそう言うと、ウキウキしながらキッチンへ向かった。
◇
僕は母さんから解放され、父さんのところへ向かった。
「父さん、ただいま」
「ニコル、お帰り。みんな、無事に帰って来たのか?」
「うん、無事だよ。みんな、成長して帰って来た」
「おお、そうか。それは、良かった。それにしても、ニコル以外に魔法使いが三人もいるとはな。今でも、信じられんぞ」
「今まで、魔法使いの資質を確認する方法も、魔法を学ぶ環境も無かったからね」
「これからは、定期的にやっていこうな。ニコル、頼んだぞ」
「うん、任せて。それで、みんなの仕事の事なんだけど、どうしようか?」
「ニコルの言ってた、村の警備の事だよな」
みんなをダンジョンに連れて行くので、農作業への支障と彼らの給料の事を父さんに相談していた。
その際、彼らの才能と村の警備の事を打ち明けている。
「うん」
「あいつらに、言ったのか?」
「いや、まだ」
「どうしたものか。今までこの小さな村に、専任で警備を置く余裕なんて無かったからな」
「それじゃ、保留だね」
「そうだな。だが、ダンジョンの経験を活かして、狩猟班に移るって手もあるぞ」
「そうか。それじゃ、それとなく聞いとくね」
「ああ、頼む」
「あと、今回ダンジョンで、魔物の肉を手に入れたんだ。他にも、野菜や果物もあるよ。どれも、凄く美味しかった」
「それらは、スーパーで売るのか?」
「うん。でも、売れ行きが良かったりすると、直ぐに無くなっちゃいそうなんだ」
「そうか。だったら、毎日は売らないほうがいいな」
「そうだね。週一ペース位が、いいかもね。後で、手に入れた食材のリストを渡すよ。ダンジョンの買取り価格も、載せとく」
「ああ、済まんな」
僕はその後、スーパーへ向かった。
◇
スーパーは、丁度店仕舞いをしてるところだった。
そこには、ロッシとニーナがいたので声を掛けた。
「ロッシ、ニーナ、仕事はもう慣れたか?」
「ニコルにーちゃん、お帰り。僕はもう、大丈夫だよ」
「私も、大丈夫。スーパーのお仕事、楽しい」
「それは、良かった。二人には、お土産をあげるよ」
「「やったー!」」
僕は魔法袋から《モーモ》を二つ取り出し、二人に差し出した。
「ほら、一つずつやるよ」
「「わー、いい匂い」」
そこへ、エレナ姉さんがやって来た。
「あー、二人にだけお土産あげてるー。ずるーい!」
「エレナ姉さんの分も、ちゃんとあるよ」
「そうなの? なら、今直ぐちょーだい!」
「はい、はい」
僕はそう言いながらモーモを魔法袋から取り出し、エレナ姉さんに渡した。
「やったー!」
姉さんは子供の様に喜んでいるが、既に十八歳である。
八月の十九歳の誕生日には、嫁ぐ事も決まっている。
「エレナ姉さん。もう少し、大人になった方がいいんじゃない?」
「ムッカー! ニコルの癖に、生意気!」
「もうすぐ、結婚するんでしょ」
「そんな事、ニコルが心配しなくても大丈夫よ! ありのままの私を、受け入れてくれるんだから!」
「良かったね。相手の家族が寛大で」
「当たり前じゃない。生まれた時から、私の事を知ってるんだから」
「そうだったね」
エレナ姉さんには、『嫁ぎ先の家を、大きく建て替えてよ!』なんて事を、以前言われた。
しかし、今は断っている。
手加減した錬金術で家を建てるのは、結構面倒臭いのだ。
増築くらいだったら、してあげようと思っている。
「それじゃ、僕達帰るね」
「ニコルにー、バイバイ。お土産、ありがとね」
「ああ。二人共、気を付けて帰れよ」
「「うん」」
ロッシとニーナは、お土産に上機嫌になりながら帰っていった。
「そう言えば、ルチアナ義姉さん見ないね」
「ルチアナさん、悪阻が酷いみたいなのよね」
「えっ! おめでたなんだ。良かったね」
「ニコルも、叔父さんね」
「そう言うエレナ姉さんだって、叔母さんだよ」
その僕の言葉に、エレナ姉さんの表情が変わった。
「私を、『叔母さん』って言うなー!」
「そんなの、理不尽だ」
エレナ姉さんは、『叔母さん』と言われた事に腹を立ててしまった。
この後、ダンジョンでドロップした《メーロン》をあげたら、機嫌を直してくれた。
その日の夕食は、《ミノタウロス》のステーキだった。
僕が久し振りに帰って来たので、母さんが高級食材を振舞ってくれた。




