第十五話 ダンジョンの街プラークからの帰宅
僕はダンジョンにいる間、二日目以降もみんなの目を盗んで《亜空間農場》を抜け出した。
そして、夜な夜な魔物を狩って食材を確保した。
サジ達が獲得した食材だけでは、スーパーに並べるには数が少なかったのだ。
一番多く手に入れたのは、シャルロッテの好物のトウモローコシで五千本以上ある。
野菜や果物の魔物の狩りはそこそこにして、肉をドロップする魔物を中心に狩った。
鶏の魔物の《ニーワトリ》・烏骨鶏の魔物の《ウーコッケイ》・兎の魔物の《ホーンラビット》は、小型の為か丸々一羽ドロップした。
しかし、山羊の魔物の《ヤーギ》・羊の魔物の《ヒツージ》・豚の魔物の《ブータ》・猪の魔物の《ボア》・牛の魔物の《ウーシ》は、丸々一頭とはいかず部位ごとだった。
ヤーギの肉は二キロ程だったが、ブロックを先に進むにつれ肉の大きさも増していった。
そして、ヤーギやウーシがドロップした物の中には、チーズや瓶に入ったミルクなんかもあった。
今回のように夜遅く頑張らなくても、エシャット村に帰ってから《転移魔法》でいつでもダンジョンに行けたのだが、この魔法の事はみんなに内緒にしている。
じゃないと、サジが『また、連れて行け』と煩そうだし、それ以前に他人に知られたくなかった。
スーパーの在庫の多さをサジ達に指摘されたら、『毎晩、こっそり一人でダンジョンに行ってたんだ』と、言ってやるつもりだ。
でも、いつまでもこの言い訳は通用しないので、肉の供給方法をいつか確立したいと思っている。
◇
そして、僕達は今ダンジョンの街プラークから、エシャット村に向かっていた。
既に、今日中に村に着くところまで来ている。
「シャルロッテ、村はもう直ぐそこだ。そんなに、飛ばさなくてもいいぞ」
「ヒヒーン!」
シャルロッテがとばすので、帰り道は六日で着いてしまう。
十日間も《亜空間農場》にいたので、ストレスが溜まったのかもしれない。
僕達はエシャット村に到着する前に、最後の休憩をとった。
そして、僕からみんなに《小遣い》を配った。
「ニコル、十万マネーも貰っていいのか?」
「みんな、一ヶ月近く仕事を休んでたから、給料貰えないだろ。頑張ってたし、少し色を付けといたぞ」
「むふふっ。このお金で、ケーキがいっぱい買える」
「おいらは、母ちゃんに全部あげるんだぜー」
「僕も、お母さんにあげよう」
「私は服を作るのに、生地を買おうかな」
みんなは、突然の収入に喜んでいた。
「ニコルっち。最後に、《モーモ》が食べたい」
「ウェンディ、今回が最後だぞ。ダンジョンで手に入れた物は、スーパーの売り物にするんだ。今度から、買ってくれよ」
「分かってるって」
前世の記憶にある桃より二回り程大きいモーモを、切り分けて皿に出した。
「やったー、モーモだ。これ、甘くて美味しいよね」
モーモは僕も好きだし、みんなにも大人気だった。
僕はシロンとシャルロッテにも、切り分けてあげた。
「ニャー、ニャー」
「ヒヒーン! ヒヒーン!」
二人(二匹)も、美味しくて上機嫌だった。
◇
日が沈み掛けた頃、僕達はエシャット村に到着した。
そして、みんなの家を順番に回り送り届けた。
「ニコルちゃん、ありがとう」
「ああ。また、明日な」
最後に、隣りの家のミーリアを送った。
自宅に到着すると、シャルロッテを荷車から外し厩舎に入れた。
「シャルロッテ。今日はもう遅いから、魔法で綺麗にするけど勘弁してくれないか?」
「ヒヒーン! ヒヒーン!」
「残念。でも、しょうがないって、言ってるニャ」
「ごめんな」
僕はそう言いながら、シャルロッテの体を《生活属性魔法》の《清浄》で綺麗にしてやった。
いつもは、僕の手でブラッシングや蹄の手入れをしている。
その後、シャルロッテに食事と水の用意をした。
お気に入りのトウモローコシも、二本添えてやった。
「長旅、ご苦労だったな。食事が済んだら、ゆっくり休むんだぞ」
「ヒヒーン!」
美味しそうに食事をするシャルロッテの背中を、優しく撫でてやった。
「さて、実家に行くかな。シロンも付いておいで」
「ご主人、ママさんと久し振りだから大変ニャ」
この後僕は、母さんを相手にしなければならなかった。
◇
僕の顔を見た母さんは、思いっきり抱き付いてきた。
「ニコルちゃん、やっと帰って来てくれた。母さん、寂しかったよー」
「母さん、ただいま。子供達の相手、一人で大丈夫だった?」
「うん。みんな良い子だから、大丈夫よ」
「それはそうと、母さん抱きつくのは、もうそろそろいいんじゃないかな?」
「駄目よ。まだ、ニコルちゃんの補充が、終わってないもの。もう少し、このままにさせてね」
母さんは、なかなか僕を離してくれなかった。




