第十三話 新たなダンジョンの街④
昼食後、充分に休憩しダンジョンに戻った。
先へ進むと、そこは《果物》ブロックだった。
サジ達は飛び跳ねて動き回る果物の魔物を、剣で切り裂き魔法の杖でボコ殴りして倒した。
魔石は野菜と同様砂粒程しかなく、売り物にも魔道具に使う事もできず回収しなかった。
そして、この場所では、ちょっとした困った事が起こった。
「これ、凄く美味しいよ」
手に入れた果物が美味しくて、ウェンディのつまみ食いが止まらなかった。
◇
夕食の時間が近付いたところで、三ブロック目に辿り着いた。
《亜空間農場》に戻る前に、次は何の魔物か確認したところ、そこにいたのは《鶏》そっくりの魔物だった。
「鳥がいるぞ」
「今度は、肉だぜー」
「でもこんな鳥、見た事無いよ」
「この鳥、飛ばないのかな?」
「一羽くらい、捕まえようよ」
みんなは、鶏の事を知らなかった。
養鶏の利権を持った領地の街や村で飼育されていたが、エシャット村にはいなかった。
だが、僕が《ノーステリア大公爵領》で大量に買い込んだ加工肉なら、村で既に売られていた。
「これは村のスーパーでも売ってる、鶏の魔物みたいだ。一羽だけ、捕まえて行こうか」
魔物を《鑑定》すると、《ニーワトリ》と言う名前だった。
やはり、美味しいらしい。
その後、みんなはニーワトリを追い掛けたが、逃げ足が速く捕まえる事も倒す事もできなかった。
「そんなんじゃ、夕食の時間が遅くなるぞ」
そう言いながら、僕は剣でニーワトリの首を切り落とした。
すると、淡い光りの中から、大きな葉っぱに包まれた物体と直径五ミリ位の魔石が現れた。
葉っぱの中身を確認すると、首と足先と羽の無い状態の肉の塊りが現れた。
「やったー! お肉ゲットー!」
ウェンディが、それを見て凄く喜んでいた。
◇
僕がシャルロッテとシロンに食事を与え家に入ると、ミーリアが夕食を作っていた。
せっかくだし、ダンジョンでドロップした食材を、味わってみようという事になったのだ。
そこでミーリアは、『最近、料理の勉強をしてるの』と言って、料理を買って出てくれた。
ウェンディが勉強してる理由を訊ねると、『ニコルちゃんの為』という答えが帰ってきた。
「ミーリア、僕も何か作るよ」
「ニコルちゃん、手伝ってくれるの。やったー!」
僕は今まで、錬金術の《調理》能力を彼らに見せてない。
今更だが、知られたら面倒な事になる気がしたのだ。
特にウェンディが、以前スーパーで売ってるケーキを僕が作ったと知って、もっと作れとしつこかった。
なので、ここでも能力は使わない。
前世の記憶で、作れる物を作るだけだ。
◇
料理ができあがり、みんな食卓に着いた。
「この茶色いのなーに?」
「これは、鳥の魔物の肉で作った《唐揚げ》という肉料理だ。王都で食べたのを、まねしてみた。美味しいぞ」
「本当に? それじゃ、早く食べよ。いただきまーす」
「「「「「いただきまーす(だぜー)!」」」」」
ウェンディの掛け声で、食事が始まった。
ミーリアが作った野菜料理もあったが、みんな初めて見る唐揚げに、真っ先に手を伸ばした。
「「「「「美味しいー(だぜー)!」」」」」
みんな、夢中になって唐揚げを貪り始めた。
僕は試食をしたので、ミーリアが作った野菜スープと野菜サラダを食べた。
「うん、美味しい。みんな、野菜も美味しいから食べろよ」
「でもよ、この肉うめーぞ!」
「何よこれ。何でこんな美味しい物を、隠してたのよ!」
「兄ちゃん、美味しいよー!」
「だぜー!」
「ニコルちゃん。今度、作り方教えてね」
「うん、教えてあげるよ」
山盛りに作ったから揚げは、直ぐに無くなってしまった。
その後に食べたミーリアの料理も、みんなに好評だった。
◇
夕食後の自由時間、僕はこっそり一人でダンジョンに向かった。
日中はみんなの為に、手出しをしなかったのだ。
「ふー、こんなもんかな」
超高速で二時間位動き回り、野菜や果物を大量に収穫した。
特にシャルロッテが気に入った《トウモローコシ》は、三百本手に入れた。
それと、《素材の買取り場所》に行って、地図を買って来た。
地図にはブロックごとに生息する魔物の名前や特徴、そして買取りの標準価格等が書かれている。
朝、その存在に気付いたが、『《鑑定》すれば分かるし、僕には必要ないな』なんて思って買わなかった。
だけど、ダンジョンに入ってしばらくすると、『みんなに魔物の名前を説明するのに、必要だったな』と後悔した。
《検索ツール》や《鑑定》の事は、みんなに内緒にしてるのだ。
◇
《亜空間農場》の家に戻ると、玄関の外にサジがいた。
「おい、ニコル。どこに行ってたんだ!」
サジは僕を見つけるなり、問い詰めてきた。
「えーと、ダンジョンに行ってた」
「何で俺達を、誘わないんだよ!」
「そりゃー、たくさん野菜や果物を確保したかったからだ」
「俺達がいたら、邪魔だって言うのか?」
「サジ達じゃ、僕の移動に付いて来れないよ」
「ニコル、俺達を舐めてるな。いったい、どれだけ収穫したってんだ!」
「えーと、君達の二倍はあるかな」
「ウソだろ。この短い時間で、俺達の二倍だと」
「これが、ダンジョンで力を手に入れた人と、そうでない人の違いさ」
「くそっ! 俺も直ぐに、追い付いてやるからな!」
「頑張れ」
僕はダンジョンで力を手に入れた訳では無いが、『ダンジョンで頑張れば、こうなれる』と、サジに発破を掛けた。
ダンジョン帰りに彼らのステータスを確認したら、一日を通してレベルが上がった者はいなかった。
野菜や果物は経験値が極端に低く、一ポイントにも満たないようだ。
僕は彼らのレベル上げの為にも、明日からは経験値の事も考えながら先に進む事にした。




