第十二話 新たなダンジョンの街③
僕達はパーティーで《ダンジョン探索者試験》を受け、見事合格した。
今回、武器や防具は全て僕が用意した。
高性能の武器や防具を使って、実力を勘違いさせると困るので、一般的な仕様にしてある。
その他にも、この旅で掛かる費用は、全て僕が負担する事になっている。
その代わり、ドロップ品は全て僕が貰う事になっていた。
講習会を受けて分かった事は、このプラークのダンジョンは地下一階だけで、平面に広がっていた。
階段を降りると、外側から中心に向かって、右回りの渦の形をしていた。
ダンジョンは十五のブロックに区切られていて、中心に近付く程強い魔物がいた。
入場料は一人三千マネーで、エーテルのダンジョンに比べ安かった。
そして、出口の手前でドロップ品の買取りをしてくれるなど、ダンジョン探索者に優しかった。
ドロップ品が溜まったら、売ってまた戻れるので、入場料の節約ができた。
◇
翌日になり、僕達はダンジョンへ入場した。
「ニャー!」
シロンは、僕達と一緒に歩けて上機嫌だった。
実はミーリアが職員に確認してくれて、犬くらいの大きさまでの動物なら、連れても大丈夫という事が分かった。
一方シャルロッテは入場できないので、《亜空間農場》で待ってて貰った。
「よーし、やってやるぜ!」
「サジ! 気を付けろよ。調子に乗ってると、怪我をするぞ」
「分かってるよ。でもよ、興奮が治まらないんだ!」
一階の通路を突き当りまで進み、地下一階だけのダンジョンにしては、結構深くまで階段を降りた。
そして、一ブロック目に入ると、皮付きの《トウモロコシ》がぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「何だ、これ」
そう言いながら、サジが剣で真っ二つにしたら、淡い光と共に一本のトウモロコシになった。
注意して見ると、砂粒のような魔石も転がっていた。
「サジ、やったな。このトウモロコシも、ちゃんとした魔物だ。初収穫、おめでとう」
「初収穫って、馬鹿にしてるだろ。いいさ、今に見てろよ」
この後、他のみんなも収穫を始めた。
どうやら、こいつは跳ねるだけで、攻撃はしてこないようだ。
《鑑定》すると、名前は《トウモローコシ》という名で、甘くて美味しいらしい。
三十本ほど集まったところで、サジが話し掛けてきた。
「なあ、ニコル。こんなんじゃなくて、もっとつえーのと戦いたいぜ!」
「サジ、舐めてると死ぬぞ。ダンジョンでは、慎重さが大事だ」
「それは、分かるけどよー」
「サジが言いたい事は、分かってる。今は、準備運動だ。もう体がほぐれた事だし、先に進もう」
だがこのブロックは、ずっと野菜しか出現しなかった。
キュウーリ・ナース・トマート・ピーマーン・ニンジーン・ジャガイーモ・レタース・キャベツー・カボーチャ等の野菜系の魔物を、収穫するだけだった。
◇
昼食時になり《亜空間農場》に入ると、僕に気付いたシャルロッテが近付いてきた。
「僕はシャルロッテに食事を与えるから、みんなはこの中から取り出して、先に食事してていいよ」
そう言って、食糧が入った魔法袋をミーリアに渡した。
ドロップ品は、また別の魔法袋に入れて、僕が持っている。
既に、僕が複数の魔法袋を持っている事は、みんな知っていた。
「数に限りがあるから、昨日みたいに食べ過ぎは駄目だよ」
「うん、分かった。ウェンディが、食べ過ぎないように気を付ける」
「ちょっと、ミーリア。何で、私だけなのよ!」
「一番、食べてたじゃない」
「うー!」
そんな会話をしながら、みんなは家に入っていった。
一方シャルロッテの方はというと、寂しかったらしく凄く甘えてきた。
充分に撫でた後、食事の用意をしてやった。
今回はいつもの食事に加え、ドロップしたトウモローコシを、皮ごと与えてみた。
「ヒヒーン! ヒヒーン! ヒヒーン!」
「何これ、凄く甘くて美味しい。もっと頂戴って、言ってるニャ」
「そんなに美味しいのか? 僕も食べてみるか」
僕は《調理》能力で、茹でた状態にしてみた。
そして、それを口に運んだ。
「あっ、甘い。何だこれ。美味しいぞ」
シャルロッテにも、茹でた状態にしたのを与えた。
「ヒヒーン!」
「さっきより甘くなったって、言ってるニャ」
「そうか。今度からは、茹でた状態にした方がいいな。シロンも、食べてみるか?」
「食べるニャ」
「ちょっと、待ってろ」
僕の食べ掛けのトウモローコシから粒を取って、皿の上に置いた。
「ほら、ほぐしてやったぞ」
「やったニャ。ご主人の食べ掛けニャ。もぐもぐ。甘くて美味しいニャ」
「何が『やった』なのか分からないけど、シロンの口にも合うようだな」
ここのダンジョンの食材は、昨日の肉といい侮れなかった。
シロンにもちゃんとした食事を与え、僕は《焼きトウモローコシ》を作ってみた。
そして、人数分を皿に盛って、食堂に向かった。
「食欲をそそる、いい匂いがするー」
食いしん坊のウェンディが、焦げた醤油の匂いに反応した。
「シャルロッテが美味しそうに食べてたから、早速調理してみた」
「これ、さっき倒した魔物なの?」
「そうだぞ」
「私、それ食べたい!」
「食べていいぞ」
僕はそう言いながら、皿をテーブルに置いた。
ウェンディは、一本手に取って口にする。
「何これ、美味しい。甘さと醤油の香ばしさが、たまらない」
「「何っ!」」
それに反応したのは、肉を食べていたサジとスギルだった。
そして、焼きトウモローコシを手に取り、口に運んだ。
「うめー! こんなに美味いなら、もっと狩っときゃ良かった」
「村のトウモロコシより、断然甘いんだぜー!」
二人も、気に入ったようだ。
そして、クルートとミーリアと僕も食べた。
「うん、美味しい。茹でただけのより、こっちの方がいいや」
食事の後、午後から戻ってトウモローコシを収穫するか、先に進むかでみんなで話し合っていた。
「先には、もっといい物があるかもよ」
だが結局、僕の一言で先に進む事になった。
お読みいただき、ありがとうございます。
作者の都合により、投稿ペースを落とさせていただきます。
週末を中心に、週に三本から五本を目指します。




