第十話 新たなダンジョンの街①
母さんが僕の家によく来るようになり、自然と子供達の面倒を見てくれるようになっていた。
その代わりロッシとニーナが、スーパーのアルバイトとして雇われる事になった。
二人共見込みがあるので、『成人したら、このまま正式な従業員になってくれたらな』と思っている。
その一方僕は、これからの《村の防衛》の事も考えていた。
エシャット村が発展すれば、余所から人が来るかもしれない。
そして、その人達が善人だとは、決して限らなかった。
ワン太達に村の警護を任せているが、『やはり村人にも、力を持った者がいた方がいい』と、思っていた。
僕は真意を伝えず、ダンジョンや魔法に興味のある若者の中から、実力者を選抜して鍛えていた。
《少し遡ったある日》
「ヤーッ!」
『カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!』
「くそっ! ニコル、お前強すぎだぞ!」
「サジ、頑張れ。お前、剣の才能があるぞ。ダンジョンに行きたいなら、弱音なんか吐くなよ」
「やってやるよ! 俺は、もっと強くなるんだ!」
『カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!』
この後サジは、ダンジョン選抜に選ばれた。
「ニコルちゃん、どお?」
「凄いぞっ! ミーリアには、《聖属性魔法》と《生活属性魔法》の適正があるよ」
「本当? 私、嬉しい」
僕は《魔法適正》を検出する魔道具を作り、村人達に使った。
「これなら、魔力操作と呪文を唱える練習をすれば、いずれ魔法が使えるぞ」
「ニコルちゃん。私、頑張るから教えて」
この後ミーリアは、頑張って魔法が使えるようになった。
◇
五月になり、僕はダンジョン選抜に選んだ村人を連れ、二つ隣りの領地のダンジョンの街 《プラーク》に来ていた。
エシャット村からは、シャルロッテの引く馬車で九日掛かった。
僕は先月、既に十六歳になっていた。
身長もいつの間にか伸び、去年の誕生日より五センチ高く、今は百七十五センチある。
僕がプラーク街のダンジョンを選んだ理由は、初心者向けで一番近くにあり、ダンジョンに入れる年齢も十三歳以上だったので都合が良かった。
それに、食料を百パーセントドロップするという美味しい情報を知って、俄然行く気になった。
大量に獲れたら、『スーパーで、売ってもいいかな』なんて考えている。
道中は宿に泊まらず、テントで済ませた。
僕がいない時、自分達で行くと言い出しかねないから、旅の厳しさを少しでも知って貰いたかったのだ。
だけど、彼らは思ったよりも苦にせず、楽しそうにしていた。
僕がいろいろと、世話を焼いたからかもしれない。
「ニコル。上手そうな臭いが、あちこちからするぞ。何か、食わせてくれよ」
そう言うのは、《剣士》で十五歳男子のサジ。
もう直ぐ十六歳になるので、僕と同じ歳だ。
「兄ちゃん。腹減ったよー」
ちょっと甘えた感じで僕を兄と言うのは、《土属性魔法》使いで十三歳男子のクルート。
「腹が減ったんだぜー」
無理に語尾に『だぜー』を付けて、キャラを立てようとしているは、《盾役》で十六歳男子のスギル。
「私も、私も、すっごいお腹空いたー!」
空腹を強調するこの娘は、《水属性魔法》使いで十三歳女子のウェンディ。
「ニコルちゃん。みんなお腹空いてるし、ご飯にしよ」
そう言うのは、《聖属性魔法》と《生活属性魔法》使いで十四歳女子のミーリア。
以前にも触れたが、この娘は僕の嫁候補である。
「そうだね、僕もお腹空いた。でも、馬車だから屋台で我慢して。その代わり、好きなだけ買っていいよ」
「「「「「やったー(だぜー)!」」」」」
僕は彼らにお金と籠を渡し、買い物するのを馬車で待った。
「ご主人、シロンもちゃんといるニャ。このまま、終わるかと思ったニャ」
「そうだったな。最近、シロンの出番が少なかったな」
「この後、出番あるのかニャ?」
「さあ、それはどうだろうな」
「ヒヒーン!」
「シャルロッテも、出番が欲しいって言ってるニャ」
「ここまで、僕達を運んでくれたじゃないか」
「ヒヒーン!」
「このままでは、忘れ去られると、言ってるニャ。それには、シロンも同意するニャ」
「ダンジョンに、しばらく行くんだよな。シャルロッテは、留守番だな」
「ヒヒーン! ヒヒーン!」
「一人で何日も待つのは嫌、ご主人と一緒にいたいって、言ってるニャ」
「シロンが、一緒にいてやってくれよ」
「嫌ニャ! ご主人に、付いてくニャ」
「困ったな」
「ヒヒーン!」
「ご主人なら何とかなるって、言ってるニャ」
「そんな事、言われてもなー。最悪、《亜空間》に入れて連れて行けるけど、皆に能力の事を打ち明ける必要がある」
僕は無言で、どうするか考えた。
「今回のメンバーなら、いいかな? 打ち明ければ、ダンジョンでも使えるしね」
「結論が、出たのかニャ?」
「うん。シャルロッテには、《亜空間農場》に入ってて貰う。ご飯や休憩の時だけは、会いに行ってやるよ」
行商の旅の途中、《亜空間農場》に建てた家に何度も寝泊りしていた。
シロンもシャルロッテも、その存在を知っている。
「ヒヒーン!」
「ありがとうって、言ってるニャ」
「ああ。僕も、シャルロッテの気持ちを考えてなかった。ごめんな」
僕はこの後、みんなになんて説明するか悩んでいた。




