第一話 帰郷
2020/11/01 《万能調教》の《念話》のくだりを、修正しました。
2020/09/03 ジーク兄さんの嫁の名前を変更しました。
僕達は《ノースブルム大峡谷の砦》を後にし、約二ヶ月掛けて《エシャット村》の近くまで来ていた。
「もう直ぐ、エシャット村に着くぞ!」
「やっと、着くニャ!」
「ヒヒーン!」
僕がエシャット村を旅立ったのが四月の初めで、今はもう十二月の下旬だ。
七月に一度、納税に行く父さんの護衛をする為に戻ったけど、約九ヶ月間旅に出ていた事になる。
戦争の方は、《ガーランド帝国軍》が正攻法では攻めきれず、一昨日約二ヶ月で撤退した。
そして驚く事にそのタイミングで、《影の英雄》という称号が、僕のステータスに追加された。
その《影の英雄》の称号には特典があり、戦闘時に全てのステータスが二倍になるそうだ。
『どこかの誰かが、僕に戦闘をさせたいんじゃないか?』なんて、勘ぐってしまう。
それと、これは秘密にしている事だが、ステータスの職業を《ダンジョン探索者》に変えた時、固有スキルを一つ取得している。
その増えた固有スキルは《万能調教》なのだが、これは生物をテイムできる能力だった。
スキルレベルによって、《テイムできる生物》や《能力の効果》は変わってくるみたいだ。
ラノベの異世界物では、テイマーなら《念話》が定番である。
二人(二匹)と契約するか迷ったが、その結果僕に《服従》する事になり、《元人間》という事もあって言えなかった。
◇
そして、長い行商の旅を終え、久しぶりにエシャット村へ帰って来た。
「ニコルちゃーん! お母さん、寂しかったよー!」
母さんが僕を真っ先に見付け、馬車の御者台に駆け寄り、きつく僕を抱き締めた。
「もう、どこにも行っちゃイヤッ!」
母さんは、未だに子離れできないでいた。
恥ずかしい台詞を、人目を憚らず僕に向かって言ってくる。
『知らない人が見たら、いったいどう思うのだろうか?』そんな事を考えてしまう。
「母さん、落ち着いて。僕は行商人になったから、そういう訳にはいかないんだよ」
「イヤッ! ニコルちゃん、行っちゃダメー!」
母さんは駄々を捏ねながら、涙目になってしまった。
「母さん。しばらく村にいるから、泣くのはよそうね」
「しばらくって、どのくらい?」
「さあ、どれくらいだろうね」
「うえーん!」
母さんは、なかなか納得してくれなかった。
そうしている内に、村の女性達も集まって来て、てんやわんやだった。
◇
騒ぎが収まり、母さん以外の家族にも顔を合わせた。
すると、僕のいない九ヶ月の間に、家族構成が一部変わっていた。
だからと言って、弟か妹ができた訳じゃない。
ジーク兄さんが結婚して、お嫁さんが家にいたのだ。
そして、兄さんからお嫁さんを紹介された。
「ニコル。俺、ルチアナと結婚したんだ。今はここに住んで、店の手伝いをしてる」
「えっ、そうなの? おめでとう」
「ニコル君、久し振り! これからは、私も家族だから。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします。これからは、ルチアナさんを『姉さん』って呼ばなきゃね」
兄さんもルチアナさんも二十歳で若いが、この世界ではこの年齢での結婚は普通である。
ルチアナさんは、昔から知っている健康的で愛嬌のあるお姉さんだ。
以前から結婚するとは聞いてたが、僕がいない間に済ませたらしい。
とは言っても、村人は一般的に結婚式というものはしない。
互いの家族が集まって、小規模な宴会をするだけだ。
「ニコル、お帰り。お土産、買ってきてくれた?」
「う、うん、買ってきたよ」
実は、お土産を買ってなかった。
この時、『仕入れた服や下着を、お土産すればいいか』なんて事を、思い付いた。
「やったー!」
エレナ姉さんは、相変わらず元気である。
今は、実家のスーパーで働いていた。
「おお、ニコル。無事に帰って来たな」
「うん、ただいま」
「どうだ。収穫はあったか?」
「うん。いろいろ、あったよ」
「ああ、そうか。父さん、ちょっと忙しいから後でな」
父さんは、村長とスーパーの仕事を兼任していて、忙しくしていた。
◇
その後、シャルロッテを厩舎に入れに外に出た。
「シロン、シャルロッテ、お待たせ」
「気にしなくていいニャ」
「ヒヒーン!」
シャルロッテは僕の顔を見ると、顔を摺り寄せてきた。
頭を撫でてやると、気持ち良さそうにした。
僕は馬車を倉庫まで誘導し、シャルロッテを荷車から外す。
「シャルロッテ。厩舎に行くぞ」
僕が厩舎の方へ手綱を引くと、シャルロッテは嫌がって歩こうとしない。
こういった行動は、今までも何回かあった。
それは、決まって牡馬がいる時だ。
シャルロッテは牡馬に異様にモテルが、決して近付けさせない。
「そう言えば、家の馬は牡だったな。シャルロッテ、気付いたんだ」
シャルロッテは、厩舎と反対の方へ逃げようとした。
「なあ、シャルロッテ。今日は、我慢してくれないか?」
「ヒヒーン!」
シャルロッテは、首を激しく横に振った。
「しょうが無いな。シャルロッテ専用の厩舎を作るから、それでいいな」
「ヒヒーン!」
シャルロッテは首を縦に振って、納得してくれた。
僕はシャルロッテの為に、急遽厩舎を作る事になった。
だからといって勝手に作る訳にもいかず、父さんの許可を貰う必要があった。
「じゃあ、シャルロッテ。厩舎の場所を父さんに相談してくるから、大人しく待ってるんだぞ」
「ヒヒーン!」
シャルロッテは、嬉しそうに頷くのであった。




