第十六話 お前ら全員、ぶっ飛ばす!
僕は展開した《防御壁》の上に、《目視転移》をした。
「《亜空間収納》」
そして直ぐに、《亜空間収納》を開いた。
「《防御壁》上の物を、回収!」
次の瞬間、《防御壁》の上で広範囲に転がっていた岩や塵が、全て消えた。
「できた! なんとなく、できるような気がしたんだよね」
《防御壁》上にある物全てを、一つの物として解釈した。
人目に付く可能性もあったが、緊急を要しているので、《亜空間収納》を使ってしまった。
「仮面をつけているし、人に見られても大丈夫だよね」
僕はそう言いながらも、少し心配になった。
「まだ爆発の余波で落石の危険があるし、《防御壁》はしばらくこのままだな。次は、爆破を起こした連中でも捕まえに行くか!」
僕はジャンプを繰り返し、崖を登った。
《転移魔法》を一回使ってしまったが、これも人目に付きたくなかったので二回目は使わなかった。
◇
崖崩れを起こした場所に行くと、近くには男が五人いた。
「なっ! 崖が崩れたばかりだというのに、どうやって登った!」
「そんな事、どうだっていいだろ!」
「こいつ、報告にあった《仮面の男》じゃないか?」
「そう言えば、トンネルを塞いだ奴が、仮面を着けてたと言ってたな」
「お前が、落石を防いだのか? こっちは狼煙を見て、段取りが終わってないのに、計画を早めたんだ!」
「それは、お前らの都合だろ! それこそ、どうだっていい!」
「チッ! みんな、こいつを殺るぞ!」
「「「「おうっ!」」」」
五人の男は、ダガーナイフを構えた。
僕は戦争とはいえ、無差別殺人を起こそうとしたこいつらに、だんだんと怒りが込み上げてきた。
「お前ら全員、ぶっ飛ばす!」
「「「「「うっ!」」」」」
次の瞬間、僕は超高速で五人に近付き、《腹パン》を食らわせていた。
「お前らは、人を殺めようとしたんだ。その逆の覚悟も、できてるんだろうな!」
僕の《威圧》スキルはレベル1だったが、奴等に向かって放った。
「「「「「ひいっ!」」」」」
充分、効果はあったようだ。
『バシッ!、バシッ!、バシッ!、バシッ!、バシッ!』
今度は顔面に、パンチを食らわせてやった。
その結果、全員吹っ飛びながら意識を失った。
その後、武器や爆弾を取り上げ、魔法で縛り上げてシロンの元に戻った。
◇
「ただいま、《クロン》。何か変わった事はあったか?」
せっかく《黒猫》に変装しているので、その名前で呼んでみた。
「大丈夫ニャ! こいつら、まだ眠ってるニャ」
「そうか。僕は爆弾を回収してくるから、こいつらを見張っててくれ」
「分かったニャ!」
「その前に、やる事があるな」
最初に捕まえた奴等の武器や爆弾を回収し、念の為十人全員に《睡眠》の魔法を掛け、岩壁の爆弾の回収に向かった。
「ただいま」
「ご主人、早いニャ!」
「まだ、全部仕掛け終わってなかったみたいだからな。こいつら、早く軍に引き渡しちゃおう」
「賛成にゃ!」
◇
シロンにはシャルロッテのところに戻って貰い、僕は十人の爆弾魔を連れてトンネルの近くに転移した。
そこには、ガーランド兵を警戒したエステリア王国軍が、見回りを強化していたからだ。
「ここに置いて行けば、エステリア兵が見付けてくれるだろう。そうだ、これを使うか!」
早く見付けて貰う為、爆弾魔の持っていた狼煙を使った。
『崖崩れの犯人』という書置きも、ちゃんとしてある。
この後、爆弾魔は思いのほか早く発見され、僕はこの場を後にした。
「これだけの騒ぎがあったんだ。そのうち、山の上に人が来そうだ。もう、あの場所から離れないといけないな」
僕はこの時、場所を移して戦争の終わりを見届けるか、戦争の終わりを見ずにエシャット村に帰るか考えていた。




