第十四話 それぞれの動向
《ガーランド帝国》は三年の歳月を掛け、岩山に二つのトンネルを密かに掘っていた。
その理由は、《ノースブルム大峡谷の砦》の守備が、強固だからである。
壁の高さは約五十メートルあり、さらにその外側には《魔法障壁》が張ってあった。
魔法障壁は物理攻撃にも魔法攻撃にも強い耐性があり、壁を崩すのは困難とされていた。
《攻城塔》を用い壁を越えて攻めるにも、過去の戦いで多くの犠牲が出ていた。
できれば少ない犠牲で砦の門を開き、《エステリア王国》に攻め入ろうと画策していた。
そして今回の侵攻で、満を持してトンネルを使った奇襲作戦が実行された。
◇
その奇襲作戦を実行したガーランド兵達は、仮面の男が放った《光玉》のせいで、エステリア王国軍が来るのも時間の問題だと考え焦っていた。
「くそっ、作戦は完全に失敗だ。この責任、どう取ればいいんだ。トンネルの結界は、まだ破壊できんのか!」
「はっ! 試みておりますが、未だ破壊に至っておりません」
「それなら結界を避けて、新たなトンネルを掘るというのはどうだ?」
「結界が、広範囲に張られております。岩山という事もあり、結界の外からだと時間が掛かります」
「いったい、どうすればいいんだ。この人数では、砦を攻め切れんぞ。向こう側のトンネルの兵と合流したいが、状況は分かったか?」
「いえ、《光玉》しか見えません。最悪の場合、こちらと同じ状況かと思われます」
「打つ手無しか」
「大隊長。このままだと、エステリア王国軍に見つかってしまいます。ここは諦めて、この場を離れませんか?」
「分かっている。結界の破壊が無理なら、もう潮時だな。この人数では、まともに交戦してもじり貧だ。一旦身を隠し、機を見て奇襲を仕掛ける。すぐ、ここを離れるぞ」
「分かりました」
ガーランド兵達はこの場所を離れたが、この後エステリア王国軍に見つかる事になる。
◇
一方、トンネル内に残ったガーランド兵達も、結界の破壊を試みていた。
「ツルハシもハンマーも魔法も、びくともしねえ。誰か、結界を破壊できる奴はいないのか!」
しかし、外にいる者達同様、破壊できないでいた。
◇
そして、エステリア王国軍も《光玉》に気付き、動き始めていた。
「おいっ! あそこで、何か光ってるぞ!」
「本当だ。隊長に報せてくる」
その後、ガーランド帝国軍の侵攻に気付き、交戦する事となる。
◇
ガーランド帝国軍本体は、トンネル部隊からの奇襲攻撃の合図で、《攻城塔》を用い壁を越え砦を攻める準備を整えていた。
だが、その合図が無いので、上層部はイラついていた。
「まだ、トンネル部隊から奇襲の合図は無いのか!」
「はい、閣下。エステリア王国の方で強力な光が発生しましたが、我が軍の合図はありません」
「まさか、失敗したのか?」
「申し上げにくいのですが、その可能性も考慮しなければなりません」
「糞がっ! 長い年月を掛けて準備したというのに、全部無駄になろうとしているのか!」
「今、偵察に行っております。数刻もすれば、戻ってまいりましょう。それに何かあれば、向こうからこちらに報告に来るはずです」
「そうか。だが、万が一の時の為に、他に手立ては無いのか?」
「はい。一つ、ございます」
「何だ、言ってみろ!」
「ダンジョンでドロップした《爆弾》を使います」
「爆弾だと! あれは殺傷能力はあっても、魔法に比べてそれ程有効とは思えん」
「その通りです。ですので、今回は大渓谷に切り立つ岩山に、多数の爆弾を仕掛けます。それらを同時に爆破し、崖崩れを起こし奴らの頭上に落とすのです。そうすれば、多少の被害と混乱を招く事になるでしょう」
「お前が考えるように、上手くいくのか?」
「お任せください。実験済みです」
「岩山は登れるのか?」
「はい。訓練した者が複数おります。二日もあれば、爆弾を仕掛けられるでしょう」
「では、そちらの準備を進めておけ。偵察の報告次第では、実行に移す」
「分かりました」
◇
そして、二日後の昼過ぎの事である。
「ご主人、人の気配がするニャ!」
「また、ガーランド兵か?」
「分からないニャ!」
「そうか。それじゃ、案内してくれ。シャルロッテは、静かに待ってるんだぞ」
シャルロッテは、静かに首を縦に振って応えた。
「シロン、ちょっと待ってくれ。念の為、変装しないとな」
僕は魔法で変装し、仮面を着けた。
シロンは、安易だが黒猫にした。
「黒くなったニャ」
「シロン、その姿の時は《クロン》と呼ぶぞ」
「分かったニャ」
その後シロンに案内され、人の気配がする方へ向かった。




