第十二話 突然の報せ
僕は領都に滞在期間中、毎日買物に明け暮れた。
生産者から直接買う方が安く買えるのだが、この《ノーステリア大公爵領》ではできなかった。
みんなギルド経由で、販売先が決まっていた。
それに、食品を長期に渡り保存できる技術もあった。
また、この領の各ギルドに所属していれば、いろんな融資を受けられたり、魔法袋等の魔道具を僅かな利子で分割販売してくれた。
それを聞いて、『この領は、恵まれてるな』と思った。
しかも、この領都は大都市なのに物価が安い。
大量生産と大量消費を、自領で行えている。
一方、武器や防具や魔道具等を他領に売り、しっかり外からのお金を稼いでいた。
この領地は、他領とは違う技術や経済の進化を遂げているようだ。
知れば知るほど、この領地の凄さが分かる。
◇
六日目の朝、ノーステリア大公爵領の領都を発つ日がやってきた。
欲しいものが大量に買えたので、満足している。
《転移魔法》でいつでも来れるので、ゆっくり観光しても良かったが、王都にいる時に行商人らしい事をあまりしなかったので、今回は頑張った。
結局、アレンさんを題材にしたと思われる《光の英雄伝説》の演劇は、見なかった。
《エシャット村》に帰って、落ち着いたら一人で来ようと思う。
その時まで、上演している事を願うばかりだ。
そして、商業ギルドで借家の鍵を返していると、とんでもない報せが飛び込んできた。
「大変だ。《ガーランド帝国》が、十万の兵で行軍してきたぞ。三日後には国境の《ノースブルム大峡谷の砦》まで到着するそうだ」
「「「「「何だってー!」」」」」と、それを聞いた人達は、僕を含めみんな叫んでいた。
「おい、それは本当か?」
「本当だ。今、軍の方でも準備を進めてる。今日明日中に、この領からも行軍するはずだ」
「あと三年もしないうちに魔王が来るというのに、何で戦争なんか仕掛けてくるんだ。くそっ!」
そんな会話を聞いて、僕はこの後の事を考えた。
「この国が負けて、奴隷なんて事になったら嫌だな」
僕と家族だけならどうにでもなるけど、エシャット村のみんなを抱えては逃げられない。
「よし、国境に行こう」
僕は戦争に加わりたくないが、戦況を見て判断する事にした。
◇
領都内には、もう知れ渡っているようだった。
それでも領都の門は、まだ通る事ができた。
僕達は、来た時とは反対の北門から出た。
移動速度を上げる為、途中から荷車をしまい僕はシャルロッテに騎乗した。
「シャルロッテ、速いな!」
「ヒヒーン!」
シャルロッテは、飛んでしまいそうな勢いで駆けた。
「シャルロッテ、前に馬車がいる。速度を落とすんだ!」
「ヒヒーン!」
「馬車を飛び越えるって、言ってるニャ」
「シャルロッテ、駄目だ止めろ!」
「ヒヒーン!」
次の瞬間、シャルロッテは馬車を飛び越えた。
「うわっ、何だ。馬が、飛んできたぞ!」
「すみませーん! 急いでるんです!」
「ふざけんなー!」
「シャルロッテ、怒られただろ! 横に通れるスペースあるのに、馬車の上を飛び越えるなんて非常識だぞ!」
「ヒヒーン!」
「ご主人に、いいところを見せたかったと、言ってるニャ」
「人に迷惑を掛けるから、もう駄目だぞ!」
「ヒヒーン!」
「ごめんなさいと、言ってるニャ」
◇
三日後の昼前、僕達は切り立った山脈の麓まで辿り着いた。
その山脈が二つの国を分け、山頂をなぞった線が国境となっていた。
山脈の中間には峡谷があり、そこには《エステリア王国》の砦が建っていた。
砦の手前にはノースブルムと言う名の街があり、常時三万人程の軍関係者が滞在している。
そして周辺の領地からも、徐々に兵士が集まり始めていた。
山脈は険しくて、シャルロッテの足でも厳しかった。
ここからは、僕の《目視転移》で登る事にした。
「シャルロッテ。ここからは、僕の魔法で山を登る。じっとしてくれないか」
「ヒヒーン!」
「それじゃ、行くぞ」
僕は山の中腹まで、一気に転移した。
「ヒヒーン!」
シャルロッテは、初めての《転移魔法》に酷く驚いていた。
「驚かして、ごめんな。あと数回、我慢してくれ」
《目視転移》を繰り返し、僕達はガーランド帝国を見渡せる場所にいた。
「どうやら、まだガーランド帝国軍は到着していないようだ」
「ご主人、どうするニャ」
「分からない。ここまで来て言う事じゃないけど、本当は戦争なんて関わりたくないんだ」
「でも、ご主人は強いニャ」
「強くても、人を殺したくない。何をするかは、状況次第だ」
こうして僕達は、戦争が始まるのを待つ事になった。




