第十話 英雄ですか?
僕は朝起きて、思った。
「店で買う数に制限があるなら、毎日買いに行けばいいんじゃないか!」
僕達は、朝食を済ませ街に出た。
今回は馬車ではなくフットワークを軽くする為、シャルロッテに騎乗した。
《消臭》の魔法も掛けたので、牡馬を心配する必要もない。
シロンは、僕の股の間に騎乗して少し興奮していた。
「ヒヒーン!」
「シャルロッテは、ご主人に乗って貰って、嬉しいって言ってるニャ」
「そうか。たまには、騎乗してやったほうがいいのかな?」
「ヒヒーン!」
「毎回でもいいって、言ってるニャ」
「それはちょっと、期待に応えられないな」
「ヒヒーン!」
「残念って、言ってるニャ」
「ははっ」
僕は、笑う事しかできなかった。
◇
昨夜、この街の事を《検索ツール》で調べてみた。
中央に城があり、その周りに貴族の屋敷が立ち並んでいた。
王都程ではないが、小さな貴族街ができていた。
貴族街と平民街は壁で仕切られていて、やはり一般の平民は入れないようになっている。
貴族街の周りには、比較的裕福な平民の住居があった。
そして、中心地から東西南北に大きな通りが伸び、その突き当たりには外壁の門があった。
それらの大きな通りには、多くの店が立ち並んでいた。
その中でも南側は大規模商業地区になっていて、商業ギルドはこの地区にある。
北側には、軍の施設が集中している。
《エステリア王国》の北に位置する、《ガーランド帝国》との有事を想定しての事だ。
そして、北の外壁から少し離れた場所には、軍人と傭兵専用のダンジョンも存在している。
西側の壁の外にも、ダンジョンの街があった。
そのダンジョンの素材を目当てに、西側には鍛冶屋や魔道具工房等が集中していた。
東側は住宅街になっていて、僕達が借りた家もこの地区にある。
最初にどこに行こうか迷ったが、今いる東地区の繁華街に向かった。
「何あの人、凄いイケメン」
「本当だ。馬に乗って、王子様みたい」
「お忍びの貴族の子弟かしら?」
「足の間に、猫を乗せてるわよ」
「私、猫と代わりたーい!」
困った事になった。
僕が騎乗すると、女性の視線が集まってしまう。
「目立つのは、嫌だな。でも、シロンとシャルロッテを見られてるし、今更変装しても遅いか」
僕は諦めて、そのまま行動する事にした。
◇
僕はシロンとシャルロッテを待たせて、繁華街の店を歩いて回っている。
「凄いぞ! 牛乳やたまごだけじゃなく、肉も安い。これなら、エシャット村でもギリギリ売れる」
店を見て回ると、鶏肉・豚肉・牛肉が隣街の三割位の値段で売っていた。
当然僕は、限界まで買い漁った。
一通り買い終わると、今度は北地区へ向かった。
北地区は、軍人とその関連施設の多さが目立った。
だが、そんな事よりも、買い物の方が大事である。
この地区にも同じような店が立ち並び、ここでも買い漁った。
お昼が近くになり、少し早いけど昼食を取る事にした。
「二人には悪いけど、僕は食堂で地元の物を食べてくるよ」
「しょうがないニャ。待ってるニャ」
「ヒヒーン!」
僕は魔法袋からシャルロッテとシロンの食事を取り出し、先に食べさせた。
二人(二匹)が食べ終わってから、食堂に行く事にした。
「ご主人のご飯は、美味しいニャ。幸せニャ」
「ヒヒーン!」
「ハイハイ。ありがとね」
◇
二人(二匹)がご飯を食べ終わり、僕は気になった定食屋に一人で入った。
店に入ると込んでいて、相席になった。
メニューを見ると全体的にリーズナブルで、僕は鳥のから揚げ定食を注文した。
『なんだか、《御食事処やまと》のメニューに似ている』なんて事を思っていた。
そして、相席したおじさんに話し掛けた。
「この辺りは、軍人が多いですね」
「ああ、そうだな。兄ちゃん、他所から来たのかい」
「ええ、そうなんです。ずっと南の領から、行商で初めて来ました」
「そうか。なら、分かんねえよな。軍人が多いのは、ガーランド帝国がこの国を狙ってるからだ。向こうは内陸で、砂漠になった土地も多いと聞く。万年、食料不足なんじゃないか」
「食料不足ですか」
「この辺りは、食物が豊富だからな。羨ましいだろうさ」
「へー」
「八年前にも、帝国の侵攻があってな。その時は一人の英雄のお陰で、大きな戦になる前に帝国が引いたんだ」
「英雄ですか」
「ああ。物語になって、劇場でも上演されてるぞ」
「見てみたいですね」
そんな話しをしていたら、から揚げ定食が運ばれてきた。
米のご飯と野菜スープが付いている。
「うん。美味しそうだ」
人の目もあり、今回は一味唐辛子を控えた。
僕は、そのままから揚げを食した。
『鶏肉が新鮮なんだろうか?』そんな感想が出るほど、ぷりっぷりで美味しかった。
食事を終えお金を払って店を出ると、シロンとシャルロッテは大人しく待っていた。
そんな二人(二匹)に、『待たせたな』と言って撫でてやった。
「気持ちいいニャ」
「ヒヒーン!」
二人(二匹)共、気持ち良さそうにしていた。
その後西地区に行き、同じように買い物を済ませた。
魔道具の販売店を覗いてみたら、商品の取り揃えが良く、値段も王都より二割五分程安いような気がした。
だが、自分で作れるし持っているので、買う事はなかった。
最後に南地区へ行くと、ある看板の絵に目が留まった。
「あれっ、これってアレンさんに似てるな」
僕は、他人の空似かと思った。




