第九話 ノーステリア大公爵領で買い物
ゴーシュさんの店を後にし、午後のまだ明るい時間なので、僕達は繁華街を馬車に乗りながら見て回った。
馬車を走らせると、遠くに立派な城が見えた。
それは領都の中心に位置し、ノーステリア大公爵の城だという事が窺えた。
「でかい城だな。王城みたいだ」
「凄いニャ」
「ヒヒーン!」
他の領都にはでかい屋敷はあったが、城は無かった。
そんなせいで、『この領地は、力と金があるんだな』なんて事を考えてしまった。
まわりを見ると、この街はとにかく建物が多かった。
人口が、一番多いというのも頷ける。
これだけの人口の食料を、維持できる事にも感心した。
そして、店も多く立ち並び凄く賑やかだ。
「たしかに、この様子じゃ露店を出すのは無理だな」
そんな言葉を、思わず口にした。
◇
繁華街を進むと、食品を扱う店が多く集まる場所で、目に留まる物があった。
「あっ、牛乳とたまごの店が並んでる。ちょっと、見て行こう!」
ケーキやお菓子作り用に欲しかったけど、エシャット村にいる時は隣街に行かないと買えなかった。
値段も村人からすると、割りと高かったせいもある。
今の僕なら、少し位高くても買えちゃうんだけどね。
僕は馬車を止め、シロンとシャルロッテに留守番を頼んだ。
牛乳の販売店には、冷蔵用の魔道具の棚に一リットルと二リットルの瓶に入った牛乳が、ずらりと並んでいた。
「随分、安いぞ。他の街の半額位じゃないか?」
僕は、その値段に驚いた。
「すみません。二リットルの瓶を百本欲しいんですけど」
「お兄さん。それはちょっと買いすぎよ。他のお客さんが、買えなくなるじゃない。でも、お兄さんイケメンだから、五十本なら売るわよ」
「ありがとうございます。それじゃ、五十本売ってください」
「はいよ」
一リットルの牛乳が千五百マネーで、二リットルが三千マネーだった。
瓶を店に持ってくれば、一リットル瓶は五百マネー、二リットル瓶は千マネーを返金してくれる仕組みだった。
瓶自体も、結構高額だ。
昔の日本も牛乳パックが出回る前は、牛乳瓶を回収し洗って再使用してたと聞いた事がある。
二リットルの牛乳が一本三千マネーで、五十本購入するので十五万マネーを店員に支払った。
僕は店員から牛乳を受け取ると、次々と魔法袋にしまい込んだ。
「イケメンのお兄さん。魔法袋なんか持ってて、いいとこのお坊ちゃんなのかい?」
「農家の次男坊ですよ。僕は、行商人になったんですけどね」
「うちの娘を、貰わないかい? 私に似て、美人だよ」
「いやいや、そういうのは間に合ってます」
「そうかい。残念だね」
僕は二リットルの牛乳を五十本受けると、挨拶をしてそそくさと店を出た。
隣のたまごの販売店では、一個二百マネーで売っていた。
この店も、他の街の半額である。
店員に『千個ください』と言ったら、牛乳店と同じ事を言われた。
結局、二百個だけ買う事ができた。
近くにチーズとバターの店があり、そこに寄ったらやはり半額近くで売られていた。
もちろん、店員がいいと言う最大量を買った。
今度は、野菜の販売店を覗いた。
「栗がある! これがあれば、モンブランケーキが作れるぞ!」
以前から探していた栗を見つけ、僕は興奮した。
季節物だけに今しか買えないので、ここでも店員に文句を言われながら上限の数まで買ってしまった。
◇
僕達はまだ日があるうちに、借家に辿り着いた。
借りた家には、厩舎と併設された場所に車庫があった。
荷車を車庫に入れ、シャルロッテを切り離し馬具を外してやる。
「シャルロッテ、お疲れ様。長旅で、疲れただろう。ブラッシングをしてやるよ」
「ヒヒーン!」
シャルロッテは、嬉しそうに鳴いた。
まずはブラッシングの前に、蹄のゴミを取り、全身を水タオルで拭いた。
その後、丁寧にブラッシングをしてやると、シャルロッテは気持ち良さそうな表情をしだした。
「終わったぞ」
「ヒヒーン!」
そう言うと、シャルロッテは僕に頬ずりをしてきた。
「ご主人、シャルロッテばかりずるいニャ! シロンもブラッシングしてニャ!」
「ああ、そうだな。夕食の後で、してやるよ」
「夜のお楽しみニャ!」
シャルロッテを厩舎に入れ、食事と水を用意してやった。
床に敷いてあった藁は新しかったので、そのまま使う事にした。
「それじゃシャルロッテ、僕たちは家に入るけど、何かあったら呼んでくれ」
「ヒヒーン!」
いつもこういう場合、一人にしてしまい心配になる。
シロンに『寂しいだろうから、一緒にいてやってくれ』と、言った事があるけど、はっきり断られた。
家の間取りは1LKの風呂トイレ付きだったが、思いの他広くて綺麗だった。
ベットが三つあり、綺麗な布団が敷かれていた。
夫婦と子供一人位だったら、充分滞在できるだろう。
しかも、魔道具が備え付けてあって、キッチンにはコンロと蛇口があり、風呂には湯と水が出る蛇口とシャワーが付いていた。
トイレは水洗でシャワートイレが付いていて、紙質はいまいちだが専用の紙も置いてあった。
各部屋の明かりにも、魔道具が使われていた。
「この家は、至れりつくせりだな。自分の魔道具を出さずに済むなんて、初めてだ」
ちょっと、今までの宿と格段に差がある。
もちろん値段は一割引で十万八千マネーもしたが、これだけの設備だし安く感じた。
一週間借りたと言ったが、この世界は一週間が六日間なので実質五泊六日である。
◇
夕食の後、シロンに言ってみた。
「ブラッシングしてやる代わりに、今日はシャルロッテと一緒に寝てくれないか?」
「そんニャー」
「こっちのお願いを聞いてくれないなら、ブラッシングはしてやらないぞ」
「分かったニャ。今日は、シャルロッテと寝るニャ。だから、ブラッシングしてニャ」
「交渉成立だな」
シロンをブラッシングしてやると、気持ち良くなったのかそのまま寝てしまった。
「だが、約束は約束だ」
僕は、シロンを抱きかかえた。
「シャルロッテ、寂しいだろうからシロンを連れて来たぞ」
「ヒヒーン!」
僕は寝ているシロンを、シャルロッテがいる厩舎に連れて行き、シャルロッテの横で寝させた。
「それじゃ、おやすみ。シャルロッテ」
「ヒヒーン!」
「ご主人も、ここで一緒に寝るニャ!」
僕が厩舎を去ろうとすると、シロンがそんな寝言を言った。
『こいつ、起きてるんじゃないか?』と思ったが、シロンは寝ていた。
僕は家に戻り、ゆっくり風呂に入った。
その後はベッドで、明日の予定を考えながら寝てしまった。




