第九話 目的の為に
2020/09/04 一部内容の修正をしました。
僕は転生する時、『異世界でも、食べるのに困らないように 』という理由で、職業に《錬金術師》を選んだ。
ラノベで言うところの、《異世界のんびり生活》が理想だ。
だけど、それを実現する為には、生まれた村は貧しくのんびりできるような状況じゃなかった。
何とか一日に二食は食べる事ができたので、決してひもじい訳ではない。
だが、二十五年の日本人として生きた記憶が、《改善要求》をしてくる。
家族や村人達は、貧しくてもみんな優しく働き者だ。
はっきり言って、この村の人達が好きだ。
神様から授かった《チート能力》で、僕一人が良くなってもしょうがない。
だから、《村ごと改善する》事にした。
僕の《異世界のんびり生活》は、村を少し裕福にしてから始めようと誓った。
僕はその気持ちを、父さんにぶつけた。
「父さん。僕は神様に授かった能力で、村人の生活を少しでも楽にしたい」
「父さんも村長だし、お前と同じ気持ちだ」
「それで、僕の作った魔道具や生活用品を、村人達に配ってもいいかな?」
父さんは、少し考えてから話し出した。
「ふむ、そうだな。我が家の生活は、ニコルが作った魔道具のお陰でだいぶ楽になった。相変わらず貧しいがな」
「・・・」
「魔道具は、大きな街で高額で取引きされているらしい。しかし、世の中には悪い人間は幾らでもいる。そういった人間に、ニコルの能力を知られたら、どんな手を使ってでも手に入れたいに違いない」
「・・・」
「幸いこの村の者は善良な者ばかりだが、魔道具を配ってどこから情報が漏れるか分からない。ニコルや家族、そして村人を悪意ある者から守る術を父さんは持ってないんだよ」
「父さん」
「父さんは、世の中の事をそれほど知っている訳ではない。狭い村で、ずっと育ったからな。しかしそれでも、ニコルの能力は神の身技だと分かる。その能力で村を良くするのなら、慎重に事を進めよう。せめて、ニコルが成人するまで」
「分かったよ父さん。父さんと一緒に、慎重にだね」
「分かってくれたか。ところで、ニコルは何ができるんだ?」
家族に全ての能力を、明かしている訳ではない。
どこまで、本当の事を言うか考える。
「魔道具を作る他は、土を煉瓦にしたり、森の木を材木にしたり、石を鉄や銀や金にもできるよ。以前渡したやつだと、土を皿やコップに石から銀のスプーン・ナイフ・フォークにした。農具や魔法薬も作ったね。たぶん、武器や防具も作れると思うよ」
「凄いな。まあ、いろんな物をこの目で見ているんだ。今更驚くのは変だな」
「うん。だけどね、父さん。僕が一番改善したいのは、食事なんだ」
「家のご飯、そんなに駄目か?」
「硬いパンに、薄い塩味の野菜と肉微量のスープ。我が家は僕の錬金術を使ってまだマシだけど、他所の家は殆どそうだ」
「そんな物だろう。昔からだぞ。まー、塩や肉は高くて、あまり買えないのだがな。ハッハッハッ」
「それだよ父さん。美味しい食材を街で手に入れられるよう稼ぐとか、狩りの効率を上げる方法を考えようよ」
「街で売れる物といったら、農産物しかないな。ニコルが作る物も売れるが、今はやめた方がいい」
「じゃー、畑を増やそうよ。僕の能力で開拓もできるし、今ある畑の土も良くできる。水遣りに便利なように、水路を作ったり井戸だって掘る。便利な農具だって作るよ!」
「ニコルは、本当に五歳なのか? 随分、大人っぽい意見がでるな」
「それは、神様のおかげだよ」
「そ、そうなのか? そんなに、直ぐに大人にならなくていいんだぞ。お母さんに、もっと甘えてあげてくれないか?」
「分かったよ父さん」
こうしてこの日から、父さんと村を改善していく日々が始まった。




