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3 ソラ、四天王の2人と会う


――魔界・ゼルディアに連れ去られてから1週間が経った。


 初めに想像していたよりも、正直魔界での生活は快適といっても過言ではなかった。

 衣食住は十分、保証されていたし、食事の質も悪くはない。


 幸いなことに、魔族と人間の味覚もあまり変わりがないようだ。

 人間界で聞いていたおとぎ話では、元々魔界と人間界は一つの世界が分かれたものだと伝えられていたけれど、実際に魔界に来てみると生活様式や暮らしている人たちの価値観や性格、国の在り方など、共通していることが多い。あながち、人間と魔族の先祖は同じというのも絵空事の伝説ではないのかもしれない。


 世話係のユアを話し相手に魔界での色々な知識を得ることができた。


 私が今いるこの城は魔界の中心にある王都「ゼルガルディオン」。この城下には街があり魔族の大半はここで暮らしている。魔族の王国は、「ゼルガルディオン」のみでその国の王がそのまま魔界の王=『魔王』となる。その点はいくつもの王や国家が乱立している人間界と違い、至ってシンプルな図式だった。


 そして、父が魔王・アドラメイダスを倒してから、魔界では四天王の他に2つの勢力が力をつけ、次期魔王の座を狙って3すくみの状態であるということだ。


 一つ目の勢力は、『獣人族』と呼ばれる種族で、この種族については私も馴染みがあった。父と共に魔王を倒した仲間に獣人族の戦士がいたからだ。幼い頃に何度か遊んでもらった記憶がある。

 獣人族はの容姿は人間や魔族と酷似しているが、その名の通り動物の尻尾や耳を持つ者たちだ。魔力は少ないが力と素早さに長けていて狩猟にも適している。


 なんでも、元々獣人族は魔界に住んでいたが何百年か前に、一部の少数部族が人間界に渡り住んだと言われている。魔界にも獣人族がいるというのは驚きだった。


 魔界では獣人族はゼルガルディオンからさらに西に数百キロ離れた森で、獣人族だけの村を作って暮らしているらしい。森は魔族が暮らすには過酷な環境らしい。


 そして二つ目は、かなり特殊だ。

 4代前の四天王だったという女性――アルタミラ。彼女は3百歳は超えているらしい。力も人望も絶大で、魔族だけでなく獣人族からも人望に厚く『アルタミラを次期、魔王に』という声もあるとのことだ。


 私がさらわれた事と、魔界の3すくみ状態が関係しているかは不明だが、魔界の状況を知ることができたのは大きな収穫だった。


 魔界の知識を得ると同時に、この一週間でユアとは相当親密になった。ユアは魔族とはいっても話しやすく、いつも私の気持ちに寄り添ってくれるので一緒にいて居心地が良かった。村には同年代の女友達は居なかったが、もしいたらこんな感じだったのかも知れない。


「ソラ様、起きていますか?」


 ちょうどノックと共に、ユアが部屋に入ってきた。


「起きてるよ。今日も中庭に行くの?」


 最近は、軟禁状態の私を気遣って、日に一、二度外に連れ出してくれた。

 太陽が出ない魔界でどういう仕組みで光合成をしているか分からないが、中庭には色とりどりの花が咲き乱れていて美しかった。


「いえ……本日は、リュカ様がソラ様にお会いするそうです。ご準備をお手伝い致しますね」


「げっ……マジで?」


 この1週間、私を寵姫にするとふざけた事を言ったリュカとは一度も顔を合わせて居なかった。てっきりあの場限りの思い付きの発言だと思っていたが、ユアの話ではどうやら本気のようだ。四天王は多忙らしく、ずっと不在だったが城に戻ってきたようだ。


「ちなみにそれって無視するとどうなるの?」


「……ソラ様」


(たしな)める口調のユアに、私はため息を付いた。この1週間、ユアには穏便に過ごすように何度もくぎを刺されていた。


「分かってるよ。行くわよ」


「大丈夫だと思いますが、粗相のないように注意してくださいね。間違ってももう一度、一矢報いようなんて考えてはダメですからね」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ユアと共に階段を何度も上り下りし、長い廊下を歩いた先にユアが連れられて来たのは玉座の間だった。入り口には黒いガーゴイルの像が2体並んでいて重々しい雰囲気を出していた。


 それにしても、ユアに無理やり着せられたドレスが重い……。いつも動きやすさ重視の軽装だったのでなおさら動きづらく感じた。あれほど王国の華やかな生活に憧れていたのに、窮屈過ぎて二度と着たくないと思ってしまう。


 扉が開かれると、広々とした空間の床の真ん中に鮮やかな赤い絨毯が敷かれていた。壁には私の背丈の3倍はありそうな大きな鏡が埋め込まれていた。天井を見上げると、美しいシャンデリアが4つ規則正しくぶら下がっている。


 奥には空席の王座が一つ鎮座していた。おそらくそこが不在である魔王の玉座なのだろう。

 王座の左側にリュカが、一人憮然とした顔で立っていた。会うのは2回目だが相変わらずの仏頂面だった。


「来たか……小娘」


 リュカの声に、私は顔を上げた。


「俺が怖いか?」


 私は返事の代わりにキッとリュカを真正面から睨みつけた。

 リュカは不敵に笑うと、私に近づき顎を持ち上げた。


「そのドレスも首輪もなかなか似合っているな」


 からかうように言うと、


「ユア、ご苦労だったな。下がっていいぞ」


 後ろに控えていたユアに声を掛けた。


「かしこまりました、リュカ様」


 ユアが深々と頭を下げた。


「ソラ様、くれぐれも穏便にして下さいね」


 ユアは去り際に何度目かの警告を小声でし、王座の間を去って行った。自分でも情けないが、ユアが退出したことに心細さを感じてしまった。


「さて、小娘」


「――ソラ」


 私はそう呟くと、リュカの手を思いっきり振り払ってやった。


「私には『ソラ』っていう父が付けてくれた立派な名前があるの!

あんたに『小娘、小娘』言われる筋合いは無いわよ!


 一気にまくし立てると、リュカは茫然とし――愉快そうに笑いだした。


「やはり面白いな。小娘――ではなくて、ソラか。

――では、お前も俺のことは『リュカ』と呼んでもらおうか」


 リュカは私の体を引き寄せ肩を掴んだ。驚くほど冷たい手触りに身体が強張る。


「ソラ、何か勘違いしているかも知れないが俺はお前の父を殺そうとしている訳ではない」


「そんな話信じられると思う?」


「信じる信じないはお前の勝手だ」


 リュカは愉快そうに笑った。


「ちょうど、お嬢様育ちの令嬢の相手にはウンザリしていたのだ。勇者が来る前までの一興だ。

ソラ、俺の傍にいて楽しませろ」


 目の前の傲慢(ごうまん)過ぎる男に何と言ったら通じるのだろうか。そもそもこいつは先日、散々人のことを踏みつけたのを忘れているのか?


「言っておくけど私に何かしようとしたらこの場で舌を噛み切ってやるからね!

あんたを倒せなくったって、そのくらいは出来るんだからね!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「――とても寵姫との甘い会話とは思えないね」


 聞きなれない声に振り返ると、そこには白い鎧の騎士と少年の2人が並んでいた。


「お前たち何しに来た?」


 リュカの不機嫌そうな声に少年は、


「リュカが勇者の――しかも人間の娘を寵姫にしたって聞いたから、どんな美人かと思ってわざわざ見に来たんじゃんか」


 そう言って私を見ると、


「ふ~ん。なんでこの子? シャリアの方が美人だし胸もあるじゃん!」


 少年は失礼極まりない言葉を発しながら、私にさらに近づいてきた。


「あ~、でもこの子の赤髪は確かにリュカの好みかもね」


 サラリと私の髪を持ち上げた。思わず後ずさりした私を見て、少年はにこっと笑った。


「あ、自己紹介がまだだったね。

僕の名前は、ルヴァン。ルヴァン=マルティネスだよ。四天王の一人だよ。魔王様、崩御後に四天王に入ったから、君の父親――勇者に恨みは無いよ。安心してね」


 ルヴァンと名乗ったのは、魔族というには神秘的――という言葉が似合う容姿の少年だった。

腰まで伸びた銀髪に、左目が碧色、右目が紅色のオッドアイを持っている。服装は純白のローブに金 色の刺繍が施されたマントを羽織っている。教会の司祭に見える格好だ。12、3歳位に見えるが魔族の年齢と容姿が一致しないので、あてにならない。


「で、こっちがロイム。ロイムは勇者がぼっこぼっこに倒した四天王の生き残り。だから、ロイムは君のことを殺したいくらい憎んでるかもね」


 悪戯っぽい笑みをで青髪の騎士が紹介された。思慮深げな顔をしていて、落ち着きのある雰囲気だ。

 左肩に銀色の甲冑を付け、髪の色と同じ青いローブを着ている。律儀で生真面目そうな顔をしていた。背はかなり高く立っているだけで絵になった。


「ロイム=ラルだ。ようこそ――魔界・ゼルディアへと言うべきかな」


 ルヴァンの言葉と違い、ロイムの私を見る目に憎悪は感じなかった。

 父と対峙したことのある四天王――。

 四天王の生き残りということは、父にも会ったことがあるのだろう。

 私は自分の立場も忘れ、ロイムと(わか)かりし頃の父の話を聞いてみたいと思った。


「私は――ソラと言います」


 気が付けば私は、自分から名前を名乗っていた。


「あ、ちなみに生き残りのもう一人の四天王はあいにく不在だけどね。僕とロイムは勇者の娘を一回、見てみたくて来たんだ」


 ルヴァンは人懐こい笑みを浮かべながら付け加えた。『四天王』というからには当然、あと1人いるのだろう。


「んぅ~~~???」


 好奇心が隠せないというように、私の周りをグルグル回っていたルヴァンが、首を傾げながら私に顔を近づけた。宝石のような碧と紅色の瞳に見つめられ、私は柄にもなく顔が赤くなるのを感じた。


「ねぇ、君の赤髪と眼の色って本物?」


「へっ?」


 確かに私と同じ赤髪は村でも城でも見かけたことが無く珍しがられた。ただ、母も赤髪だったし父も冒険中に赤髪を持つ人を何人も見ていたと言っていた。

 まして、私の名前の由来になっている(そら)色の瞳など珍しくも何ともないありふれた色だ。それとも、魔界では赤髪と空色は珍しいのだろうか?


 ルヴァンの問いの意図が分からず私が戸惑っていると、


「なるほど。娘だけあって、勇者(セイン)に似ているな」


 ロイムがスッとルヴァンと私の間に入ってきた。

 

「勇者の髪は黒色だったが、顔はよく似ている」


「そうなんだ。ちぇっ、ロイムばっかりズルいなぁ。僕も勇者と戦いたかったのに~」


 ルヴァンはむくれ顔で言った。

 容姿に似合わず、好戦的な性格らしい。


「リュカ、人間の娘を寵姫にするというのは本気なのか?」


 ロイムがリュカに訊ねた。非難している口調にも聞こえる。


「そうだが? お前には関係無いことだろう」


 ロイムは呆れたようにため息を付き、


「……何を考えているかは知らんが、これ以上の勝手な行動は慎め。そもそも、勇者は本当に魔界(ここ)に来るのか?」


「娘が囚われているのだ。来ない理由は無いだろう」


 ロイムは、他にも何か言いたそうにしたが、私の顔を一瞥(いちべつ)しそれ以上は言及しなかった。

 どうやら私をさらったのはリュカの独断らしい。いい迷惑だが、もしかしたらこの城を逃げだすきっかけを作ることができるか知れない。


「ユア、入れ」


 リュカの言葉に、すぐにユアが王座に入ってきた。


「邪魔が入った。ソラを部屋に戻せ」


「かしこまりました」


 気のせいか、安堵したような表情だ。きっと私が何か騒動を起こさないか、扉の前でハラハラ待っていたのだろう。

相変わらずの下手糞で見苦しい文章ですみません。

自己満足のために書いています。完結するまでには、もう少し上手になりたい……です。

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