13.ソラ、召喚する
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拙い文章ですみません。
「なっ……!」
「あれ~? ユアとはキスしても僕にはしてくれないの?」
口を尖らせたままでルヴァンは、私の顎を持つ。容姿と行動のギャップにめまいがしそうだ。大体こっちは、「キス」という単語だけで顔が赤面しそうになるというのに……。
「な、なんであなたが、知ってるの?」
動揺した私の言葉に、ルヴァンは後ずさった。
「え”……僕、今、冗談で言ったんだけど……」
絶句して言葉の出ない私を尻目にルヴァンは、わざとらしく口元を両手で覆いまくし立てた。
「いや~。2人の様子を見て『もしかして!?』とは思ったけど、マジで?
さすがの僕でもも引くわ~。だって、ソラちゃん、魔界に来てまだ2週間くらいでしょ? もう男を二人も誑し込んでるなんて引くわ~。リュカ、ああ見えて嫉妬深いからユア処刑されちゃうかもよ」
「なっ、そんなこと」
大体、リュカだってシャリアという正妃候補がいるのに、私を寵姫にしてるじゃないか。そんな男女差別がいくら魔界だからと言って許されていいのか――いやいや……そういう問題じゃなくって。私は頭が混乱して思考が追いつかない。
「じゃあ、内緒にしたかったら僕にもチューしてよ」
「……あのねぇ。いい加減、ふざけてると本気で殴るわよ」
「あ、ソラちゃん目がマジで怖い……」
「まったく……あなた一応、四天王なんでしょ? もうちょっと威厳のある振る舞いしたらどうなの?」
「だって、魔界だと皆四天王って言うと怖がったり、畏まったりで面倒なんだも~ん。だから、普通に話せる子が出来たのが嬉しくって!」
よく分からない理屈だが、ルヴァンが私をからかっているのだけは確かなようだ。
「ま、ユアとの事はいいや。でも、リュカが嫉妬深いって話は本当だから気を付けた方が良いよ」
そう言うと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
ただの無邪気な少年のように見え、私は怒りのやり場に困る。ルヴァンはクルリと戯けるように回り、自分の唇に人差し指をあてた。
「あと、残念だけど僕の召喚獣と契約方法は、君のチュー位じゃ教えてあげられないよ。
獣魔の召喚は戦いの中で、重要な切り札でもあるからね。フォルみたいなのは特別。君も契約した獣魔の事を他所でペラペラ喋らない方が身のためだよ」
ルヴァンはふざけた口調だったが、その目は真剣だ。私は自然と、首を縦に振った。
「それじゃあ、次のレッスンは獣魔の具現化だね。これは契約した時と同じで、具現化の言葉を唱えるんだ。この契約の言葉は、獣魔との契約した種類によって変わるから気をつけてね」
その後、ルヴァンは割と真面目に召喚方法について私に教えてくれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「う~ん。困ったね……」
しかし1時間後、召喚獣――アセスの具現化は成功せずルヴァンはため息を付いていた。
「『真名』が間違ってないなら、後は教えた手順で、呼び出せるはずなんだけどなぁ……。どっちかっていうと、契約を結ぶ方が成功率低いんだけどね」
ルヴァンのぼやきを聞きながら、私は魔力を込めて具現化の言葉を詠唱するが、何も起きない。心の中でアセスにも必死で呼びかけるのだが、やはり成功しなかった。
もう数十回は繰り返しているだろうか。傍目にはただ詠唱しているだけだが、魔力は放出されているので精神的にはフラフラだった。身体は動かしていないのに、体中が汗だらけで気持ちが悪い。
「どうしたらいいかな……僕もあんまり時間が無いから、そうそう付き合ってもいられないし……」
謝罪の言葉を口にしようとしたが、喉も焼け付くように乾いて言葉にならなかった。
「あ! 僕良いこと考えた」
目を輝かせながら、ルヴァンは跳ねるような足取りで近づき、私の右手を取った。
「多分さ。ソラちゃんがこの前、契約に成功したのは命の危険があったからじゃないかな? あの獣王に殺されかかったんでしょ? 人間界で言う所の『火事場の馬鹿力』っていうやつ!」
「……確かに、あの時はかなり切羽詰まった状況だったけど」
「ね! だから、今も切羽詰まればいいんだよ」
「それって、どういう……」
私が答えるよりも早く、ルヴァンは私の右腕の付け根を軽く触れた。
「……っつ!!」
焼け付くような痛みが腕に走ったかと思うと、私の右腕は宙に舞った。痛みとショックで声が出ず、欠損した箇所を抑え崩れ落ちた。右腕が床に落ち、血が飛び散り辺りを赤く染めた。
――痛い。痛い。熱い。痛い。熱い。熱い。熱い。痛い。
「ね? これでもう一回やって見ようよ! ダメだったら次は左腕ね」
私は、思わず後ずさった。ルヴァンは、まるで良い事をした後のようなにこやかな笑みを浮かべている。
その顔はまるで……
「なに? その顔。僕のこと、『悪魔』だとでも思った? そもそも僕、魔族で四天王だし~」
泣きたくないのに、痛さで涙が溢れてくる。ルヴァンの言う通り、ここは魔界だ。私が暮らしていた人間界とは常識が違うんだ。あどけないと思ったルヴァンの顔が、今はただただ憎たらしく見える。
ぶん殴って一言言ってやらなければ気が済まない。息を吸うと、
「ソラ様!!」
異常に気が付いたのか、ユアが部屋に駆け込んできた。
「――!! それは!」
ユアは私の傷を見ると文字通り宙を飛んで駆け寄ってきた。すぐに私の肩を抱きかかえる。
「ルヴァン様! これはどういう事ですか?」
ユアは今まで見た事が無いほど激しい形相で、怒りの声を上げた。返答を待たず、暗器の短刀を取り出し、ルヴァンに向ける。
「ありゃ。君の騎士が来ちゃったみたいだね。それじゃあ、これでレッスンはお終いかな?」
ルヴァンは残念というように、両手の平を上に上げた。
「いいアイデアだと思ったんだけどなー。ま、腕は僕がすぐに治してあげるよ。僕、こう見えても職業は司教だからさ。こんなの秒で治せるからね」
「待って!」
私は出せる限りの声を振り絞り、ルヴァンを制止させた。
「ソラ様、動いては傷が広がります」
「ありがとう、でも大丈夫」
私はユアの手を払い立ち上がり、ルヴァンを睨みつける。心中は怒りと屈辱と後悔であふれていた。魔界に連れられてから、何で毎回毎回、四天王に気軽に傷つけられなければいけないのか。
「ルヴァン! このクソ四天王!」
「うわぁ。めっちゃ怒ってるぅ!」
「当たり前でしょうが!」
「もう一回召喚をやるかたら、あんたはそこで最後まで見てなさい!」
「え~。でも、痛くないの? それ。腕、めっちゃ千切れてて……見た目グロいしぃ~」
「あんたがいきなり吹き飛ばしたんでしょ! これ痛いわよ! めっちゃくちゃ痛いわよ!! だって、腕飛んでってるんだから! 血もいっぱい出てるし! もう訳分かんなわいよ!」
「うわっ、ソラちゃん、めっちゃキレてて怖いし」
「あんたの性格の方が100万倍怖いわ!! でも、痛いだけで終わらせるのは嫌! これじゃあ、やられ損じゃないの! だから、ルヴァンもユアもそこで見てて!」
私は息を吸って心を落ち着かせる。
傷口は相変わらず焼け付くように痛い。ルヴァンへの怒り以上に、ここが魔界であることを忘れた自分自身にも怒りを感じていた。
いざとなれば、洞窟の時のように、リュカやユアが助けてくれるという甘えがあったのも事実だ。私は、客としてここに来たんじゃないし、今は『カルアを助ける』という目的もある。こんな所で挫けてたまるか。これじゃあ、魔族と果敢に戦った父にも顔向けできない!
――『主獣の誓い』の契約に従い
――我、『ソラ=クリステル』の名において
――我の力になれ
――出でよ!
――『アレクシウス』
一瞬、静寂が広間を包んだ。
(また……失敗?)
焦燥した瞬間、目の前の床に魔法陣が浮かび、地面から銀色の美しい毛が見えた。
「アセス……! 良かった!」
成功した事と、アセスの懐かしい姿に胸がいっぱいになり、私はまた涙が出そうになる。
このままずっと召喚に成功せず、アセスをカルアに会わせてあげられなかったらどうしようかと不安にもなっていのだ。
(ソラ、ありがとう)
アセスの柔らかい感謝を込めた言葉が頭に響く。
「あれ? あなた、怪我が治ってるの?」
あれだけの瀕死のケガを負っていたアセスだったが、見た目には傷ひとつ付いていない。
「獣魔は召喚士が死なない限りは無敵だからね。ただ、怪我したり疲労すると一度引っ込んである程度の時間は必要だよ」
ルヴァンが横から説明してくれた。
リュカの言う通り、悔しいがルヴァンは本当に博識だ。しかし、性格的には本当に最悪最低のクソ野郎だという認識に変わりはない。
「ソラ様、良かったですね」
「僕のお陰だね」
ルヴァンが恩着せがましく口を挟んでくる。
「ルヴァン様、」
ユアがルヴァンの前に進み出た。とても目上の者に言うとは思えないほど、強い口調だ。
「はいはい。分かってるよ~だ」
ルヴァンは、いつの間にか千切れた私の右腕を持っていた。まるでボールを投げるようにこちらに放ると、呪文を詠唱した。
右腕と体の付け根が淡く光ったかと思うと、私の腕は元通りになっていた。
「すごい……」
思わず感嘆の声を出した。痛みも全く感じない。。
こんなすごい治癒魔法は聞いたことも無いし、もちろん見るのも初めてだった。
「ね。だから、すぐに戻せるって言ったじゃん」
ルヴァンは得意げだ。
しかし、あれだけの傷を一瞬で治せるのなら、人を傷つけることにも抵抗感が薄いのも無理が無いのかも知れない。
「大丈夫ですか?」
ユアは、心配そうだ。
傷よりも、いきなり腕を吹き飛ばされた私の精神的外傷を心配している素振りだった。
「うん。大丈夫! 心配してくれてありがとう」
私の言葉にユアはやっと安堵の表情に変わった。
前から薄々気づいていたが、ユアは過保護な一面があるようだ。
「ルヴァンもありがとう」
「え、」
私の感謝の言葉がよっぽど意外だったのか、ルヴァンは意外だという表情を見せた。
「あのやり方には色々と文句を言いたいこともあるけど、これでアセスを召喚することが出来たし、カルアを助けるのに少し前進出来たわ」
「ふ~ん」
ルヴァンは少し考えるような仕草を見せた後、
「君、本気で獣王のところからその娘を助けるつもりなの?」
疑うような――少し心配しているとも思えるような口調で、突然訪ねて来た。
「もちろん。だって、カルアは私を助けてくれたんだから私も彼女を助けたい」
「へぇ。君もずいぶん、お人好しなんだね」
今度ははっきりと呆れたという口調で言った。
「ま、僕がリュカに頼まれた役目は済んだし、もう帰るね」
「あ、ユア。僕がソラちゃんの腕、吹っ飛ばしちゃったのはリュカにはナイショにしといてね~」
「承知しております」
ユアは先ほどの態度とは違い、恭しく頭を下げた。
「良かった! じゃあ、僕はこの辺で。その獣魔の戻し方は大丈夫だよね? その内、また会おうね。ソラちゃん!」
そう言うと、ルヴァンは広間から出て行った。
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