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11.ソラ、決意する

 洞窟から無事に生還した翌日、私は城内にあるリュカの私室を訪れた。


「来たか」


 リュカが私の姿を見て立ち上がった。今日はいつものローブ姿では無く、赤いシャツに黒いズボンと随分、ラフな格好だった。こうして見ると、いかにも魔界の魔族風ではなく普通の青年に見える。服装の効果は大きいと変なところで感心した。


 私が部屋に入ると案内してくれたメイドが一礼後、ドアを静かに閉めた。 部屋は豪華絢爛かと思っていたが予想外に質素だった。とりあえず、中央に置いてある対面式のソファに腰かけた。


 ――き…気まずい……


 考えたらリュカと一対一で会うのは、玉座の間以来だ。


「……ってなんで、そこに座るの!」


 真横に座ったリュカに抗議する。


「なんだ? 寵姫になることを了承したのでは無かったのか?」


 リュカが心外だというように、渋い顔をした。がそんな事は知ったことか。私は出来るだけ離れた場所に身体を移動した。こちらが警戒しているのがバレバレだが、仕方ない。人にいきなりあんな事をしておいて……と私は洞窟でのリュカとのキスを思い出して顔が爆発しそうになるくらい赤くなるのを感じた。


「って、今度は何なのよ!!」


 いつの間にか、隣にいたリュカが私の髪をひと房つかみ上げ、しげしげと眺めている。


「――やはりあの方と似ているな」


 呟くようにリュカが言った。


「あの方って?」


 リュカは私の問いを無視し、立ち上がり真正面から私の顔を両手で掴んだ。またキスされるのかと思い身体が強張ったが数秒後、あっさりと手を離した。


「昔、お前に似た赤髪と青色の目を持った(ひと)だった。お前のように、勝ち気でどんな状況でも決して屈しない方だった。そして、彼女もまた召喚士(サモナー)だったのだ」


「それって……」


「彼女の名前はエラファ姫。前魔王の一人娘だ。勇者が現れる3年ほど前に、病死された。赤髪は魔界では王族に連なるものしか持たないと言われている……もしかしてお前は彼女の、」


「ちょっと待った!!」


 思わずリュカの言葉を遮った。


「もしかして、私がずっと前に亡くなった、そのエラファって女の人に容姿と性格が似てるからって理由で、寵姫にしたの!!??」


「そうだが……お前たち人間は欲しい獲物があれば、手に入れようとは思わないのか?」


 全く悪びれず、むしろ不思議そうに肯定するリュカに殺意が沸いた。こんな奴にファーストキスを奪われるなんて悔しい。私はわざとらしく大きなため息を付いてやった。


「……普通は順を追って、相手と自分の事を色々話してお互い相互理解してから、その……恋人とかになるんじゃないの? 大体、相手の事を『獲物』とか失礼過ぎるでしょ」


 魔界の恋愛事情は知らないし、知りたくも無いが女性を『獲物』発言する時点で、だいぶ察することが出来る。魔族全体が女性軽視なのかこいつが特別なのか……それもどうでもいいけど。


「そういうものか」


 リュカは、なぜか感心したように頷いた。


「そうよ! ……多分」


 最後は小声になる。だって、私には恋愛経験が無いのだから仕方ない。


「では、ソラ」


 リュカは私の隣に座り、手を取った。


「人間の様式に合わせて『色々話す』ことから始めようか」


 意外な提案に戸惑い、返事が出来ない私にリュカはニヤリと笑い、言葉を続けた。


「ただし、『相互理解』出来たら、お前は身も心も完全に俺の物になるんだ」


「だ、だからそういうのはいいから!」


 慌てて迫ってくるリュカの顔を押しのけた。


「なんだ。つまらん」


「そんな事より! アセスを召喚できる方法を教えてくれるって言う約束は!?」


「あぁ、そうだったな」


 リュカは興味無さ気に頷いたが、とりあえず私からは離れてくれた。


「ルヴァンを覚えているか?」


「ルヴァンって、この前会った四天王の?」


 魔界の四天王と言うには似つかわしくない容姿をしていた少年を思い出した。


「あいつなら魔導全般に詳しいから、おそらく召喚方法についても何かしら知っているだろう」


「そうなんだ!」


「ルヴァンは今、城を離れているが明後日にでも帰ってくる。そしたら引き合わせてやろう」


「分かった! ありがとう!」


 意外にも協力的なリュカにお礼を言った。


「さぁ、では話し合いの続きだ」


 リュカは再び私の横にぴったりと座った。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「それで……」


 私は呆れた口調になるのを抑えることが出来なった。


「なんで、またその恰好なの?」


 リュカの元から帰った後、私はユアに相談があると言って、部屋に来てもらうように言付けていたのだ。私が驚いたのは、ユアは暗殺者の装いでは無く、メイド服を着て現れたからだ。どこからどう見ても美少女メイドに見えるのが腹正しい。仮に魔界に美少女コンテストがあれば、私は絶対に勝てないだろう。


「この城では、私の正体を知っている者は少ないですから」


 ユアは、「それが何か?」というように平然としている。


 ――本当はただその姿が気に入っているだけじゃないのか?


 そんな考えが頭をよぎる。


「それに……さすがに男の姿で寵姫の部屋に入るのは(はばか)れますしね」


 モラルがあるんだか無いのだか謎の答えだった。ただ、ユアが全快しているのは嬉しかった。本当にその点だけはリュカに感謝だ。


「それで、ユア様からお話というのは?」


「うん。聞いてくれる?」


「もちろんです」


 ユアはうやうやしく頭を下げた。


「えっと……私の村の話ってしたっけ?」


「少しだけ……緑に囲まれた自然豊かな場所だと」


「あはは。まぁ、ど田舎で何にもない場所でさ。ついでに年寄りばっかりで同い年の子供も全然いなくって、私『友達』っていうのにすごい憧れがあったんだよね。だから、あなたが男性だっていうのもすごくショックだったの。初めて女友達が出来たと思ったから」


「ソラ様、騙していたことは……」


「それはもういいの。今もあなたの事、友達だと思ってるわよ。男のだけどね」


「……カルアとは1週間しか一緒に居なかったけど、私は友達になれたと思っているわ。もちろん、カルアは私の事をどう思ってるか分からないけどね。でも、友達って片方がそう思っていてもいいんでしょ? だったら、カルアは私の友達。そして、友達が悪者にさらわれたんだったら……何が何でも助けにいかないと」


「ソラ様」


「ね。だからもう一人の友達のユアに聞きたいの。私はカルアを助けるために何をしたらいいかな?」


「分かりました」


「あ! でも人間界に帰るのを諦めた訳じゃないからね! カルアを救ったら絶対、元の世界に帰るからね!」


 必ずカルアは助け出す。その為には私はもっと力を付ける。魔界を脱出するのはその後だ。ユアは微笑んで私の言葉に頷いた。


「では私からも私自身についてお話します」


 ユアは自分の胸に右手を添え、真っすぐな視線を私に向けた。端整な顔は本当に女性のように美しい。


「ソラ様、私は人間界で生まれました」


 突然のユアの告白に驚き言葉が出なかった。

 ユアは私の返事を待たず続けた。


「私は10歳の時、人間界の封穴に落ち魔界に迷い込みました。子供が一人、異世界で――生きていける訳がありません。そんな時、ロイム様に命を救われたのです。私は命の恩人であるロイム様の力になりたい――その為に生きて来ました。

 だから、同じように人間界から来たソラ様と一時と言えども普通に話したり笑ったり出来たのは、私にとっても貴重な時間でした。今更何を言っても信じてもらえないかも知れませんが、私があなたに接した言葉や態度は全て私の本心です。私は――あなたの味方です」


 私はユアの気持ちが嬉しく、泣きそうになるのを我慢しながら頷いた。10歳の時に魔界に一人ぼっちで来たなんてどんなに心細くて不安だっただろう。


「ただ、一つだけあなたに嘘を付いていたことがあります」


 ユアは私の前に(ひざまず)き両手を取った。


「私はあの洞窟で『友達』からと言いましたが、私があなたの力になるのは『友達』だからではありません」


「えっと……」


「これが私の気持ちです……でも、嫌でしたら拒否してくださって構いませんから」


 ユアは私の両肩を掴むと、ゆっくりと顔を近づけ――唇を重ねた。


「ななななななんななんなん!!!!」


 あまりの不意打ちに、驚き過ぎて身をのけ反った瞬間、私は椅子から派手に転げ落ちた。


「ソラ様、大丈夫ですか?」


 慌てて私を抱きかかえるが、私はユアの顔がまともに見えない。


「ちょ……い、いま何を!!」


 顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。リュカもそうだったが、なんで魔族は相手の意志を確認しないでいきなり行動するのか。そういう属性なのか!? しかも嫌なら止めるって言う位なら私のうろたえっぷりを見て判断して欲しい。


 男性と付き合った経験も無いのに、連日違う男とキスしているだなんて、父と母が知ったら卒倒してしまうだろう。特に過保護を絵に書いて、焼き印でスタンプを押しまくったような父がこの事を知ったらショックで闇堕ちしてしまいそうだ。というか、私は立場的には四天王の寵姫なのだが、ユアの立場的にこんな事をして大丈夫なのだろうか?


「ソラ様……そんなに混乱されてはさすがの私も傷つきます」


 ユアは目まぐるしく変わる私の顔を見て呆れたようにため息を付いた。


「私の気持ちはお伝えした通りです。

 ソラ様はリュカ様の寵姫……でも、出来る限りの時間、どうか私を傍に置いてください」


 にっこりと笑うユアをどんな顔をして見て良いのか分からない。私は目を逸らしながら、


「そ、それで!!

 カルアを救うために私は何をしたら良いと思う!!??」


 口調が不自然になってしまうのは仕方ない。


「はい。残念ながら今のソラ様の力ではカルアさんをお救いするのは無理です」


 私は素直に頷いた。悔しいがあれだけの圧倒的な力の差を見せつけられては否定のしようがない。


「しかし、ソラ様には召喚士(サモナー)の力と、お父上の勇者に教わった剣技と魔法、そして……勇気があります。力を付ければ、十分にあの獣王とも渡り合えると思います」


「でも、どうやって?」


「ここは魔界の中枢であり中心部の魔城ですよ。魔界最強と呼ばれる四天王様がいる場所」


「四天王様達に教えを乞えば良いのですよ」


「……本気(マジ)で?」


本気(マジ)です」


 ユアはにっこりと微笑み頷いた。


<<第一章完>>

読んで頂きありがとうございます。

ようやく1章が完成しました。

直したい箇所や加筆したい箇所は沢山ありますが、とにかく話を進めることを優先しました。完結させたら大幅修正したいです(汗)

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