9 ソラ、絶対絶命
文才の無さに絶望しながらも何とか執筆しました。一度完結させたら色々書きなおしたいです(T_T)よろしければ、ブックマーク&評価をお願い致しますm(__)m
「アセス!!! アセス、お願い目を開けて!」
カルアと違い、アセスの傷は明らかに致命傷だ。回復魔法を使えない私ではとても助けることが出来ない――そうだ! ユアなら私を治療してくれたように、回復魔法を使える筈だ。もしかしたら一命を取り留めることが出来るかも知れない。
「ユア! お願い、アセスを」
私の声より早く状況を察したユアがアセスに駆け寄ろうとしたが――
「おっと、お前はこいつと遊んでもらおうか!」
ガヴィンが右の手の平に爪を立て、自らの血を地面に数滴たらした。血のシミの場所から黒いガヴィンと同じ背格好の生き物が出て来たかと思うと、瞬時にユアに襲い掛かった。
「くっ……!」
ユアがとっさに取り出した暗器で攻撃を防ぐが、そのまま黒いガヴィンと戦闘に入ってしまった。このメンバーの中で一番戦闘能力が高いと察したのか。それとも、回復魔法を使わないでアセスを見殺しにする為、もしくはその両方なのか。
「はっはっはっ! 踊れ! せいぜい楽しませろ!」
ユアは、もつれ込むように天井の岩に激突する。ユアが目を狙ってナイフを突き刺した。が、痛みを感じないのかそのまま力ずくで壁に叩きつけられた。正面から力で押されると暗殺者であるユアには明らかに不利な戦いだ。とてもアセスの回復を頼める状態ではない。
ガヴィンがカルアをさらおうとする目的は分からないし、ユアの言った通り私が敵う相手では無さそうだ。だが、このまま何もしないでいる程、私は大人しい性格ではない。剣を握り、ガヴィンの隙を狙う。
「ソラ!」
声にハッとカルアの方を振り向いた。
「私の事はいいから……アセスを……お願い……」
初めて聞くカルアのと懇願する声と、ガヴィンの狂ったような笑い声が響く。
私は頷きアセスに駆け寄る。息をするのも苦しいのか目をつぶったままだ。時折、聞こえるか細い呼吸音で、まだ命を取り留めているのが分かる。
(……アレク…シ…ウス)
今にも消えそうなアセスの声が頭に響く。
「アセス?」
(ソラ……ワタ……シト……)
「何? どうしたの? 私に何かして欲しいの?」
アセスは私に何かを訴えようとしているのだろうか、頭に響いていた、か細い声は消え舌を口外に出したまま動かなくなってしまった。急いで鼓動を確認する。かすかに音が聞こえる。
私はどうしたら良いのか分からない。このままでは、アセスも私もユアも、カルアも、皆この残忍な獣王に殺されてしまう。四天王のリュカと一人で対峙した時よりも辛い。
こんな時……こんな時、もし父が居てくれたら……全員を助けるにはどうしたら良いんだろう。
ユアを見ると、黒いガヴィンと善戦しているようだった。何度も影の爪に捕まえられそうになるが、紙一重のタイミングで避けていく。ただ、防戦一方で攻撃まで手が回らないようだ。影の動きは素早くとても私にサポート出来る相手ではない。下手に魔法を放てば、ユアに当たってしまいそうだ。
「こいつは影だが俺の半分の力を持っている。お前なかなか強いぜ。褒めてやるよ。それに……お前が敵わない敵に逃げずに戦い続けるのを見るのは初めてだぜ」
ユアの健闘ぶりにガヴィンが感心したように呟いた。
「それに……お前が敵わない敵に逃げずに戦い続けるは意外だな。知ってんだぜ、俺様の城――牙城にお前が何度も来てるのをな。まぁ、大方、ロイムの奴に命じられてんだろぅがよ……目障りなんだよ、お前は」
ユアは、ガヴィンの言葉に答えず影との戦いを無言で続けている。ユアはロイムの直属の配下だ。魔界の三すくみの敵である獣人族の城に忍び込んでいたのか。ガヴィンがユアに対して嫌悪感をむき出しにしている理由が分かった気がする。
当の本人は、私の方に一瞬だけ視線を向けたがすぐに戻した。
「よっぽどその嬢ちゃんが大事なんだな」
その言葉に驚く私に、馬鹿にするようにガヴィンは笑った。
「なんだよ。気が付かねぇのか。そいつはな。健気にも俺の影と戦いながら牽制してるんだよ。お前にこうやって手を出さねぇかってよ!!」
ガヴィンが私に向け右手を大きく上げた――刹那、ユアが私とガヴィンの間に飛び込んできた。
「残念だったな! いつもみたいに逃げてれば命は助かったかもなっ!」
そう言うとアセスに攻撃した手でユアの身体を切り裂いた。すかさず、ガヴィンの影もユアの背中から同じ技を放った。前後からの攻撃になすすべもなく、ユアが私の目の前で崩れ落ちた。
「ユア! ユア!」
自分の無力が本当に嫌になる。私は何も出来ないのか。何のために、今まで父に剣を教わってきたのか。私は誰かに守られる為に強くなりたかった訳じゃない!
「ソラ様……逃げ……て下さい」
真っ青な顔のまま呟くとそのまま気絶してしまった。
いくらロイムからの指示があるとは言え、なぜ一度見限った相手である私を、ユアは命がけで守ってくれるのだろうか。そして、私は……どうやってこの魔界の友人の働きに、報いればよいのだろう。
「さぁて、後は嬢ちゃんだけだな。言っておくが、俺は勇者も勇者の娘も、興味はねぇ。ただ、お前はリュカの寵姫なら――俺たち獣人族の敵だ。な、そうだろう? うん。なら、ここで一応死んどいた方がいいな。なぁに、後からその犬もロイムの腰巾着も全員、連れてってやるから心配するな。な?」
ガヴィンがゆっくりと右手を上げ、私に近づいてくる。
――敵わないのは分かっているけど、せめてアセスとユアを少しでも生かすために私は戦いたい。
剣を構え、立ち上がる私に、ガヴィンは嗜虐的な笑みを浮かべ手を振り下ろそうとした――とき、
「待って! あんたの狙いは私でしょ!? おとなしく付いていくから2人には手を出さないで!」
カルアが叫んだ。しかし、残忍な獣王は振り向きもしない。
「お前にその選択肢はねぇな。お前が騒ごうが暴れようが全く支障がねぇんだよ」
「だったら……2人に手を出さないなら、今すぐ舌を噛み切って死ぬわ! それ位の力は残ってるんだから!!」
「ほぅ」
ガヴィンが立ち止まり、カルアの方を振り返った。
「その選択肢はなかなか良いぞ。俺様がまぁまぁ困る結末だ」
カルアの倒れている場所へ歩み寄る。安堵した表情を浮かべたカルアの横にしゃがみ込み、
「そういうことなら、少しお寝んねしてもらおうか」
追えない速さでガヴィンはカルアの首に手刀を当てた。
すかさず、私はガヴィンの背後から背中めがけて切り掛かった――が、
「硬っ!」
まるで身体が鉛で出来ているような硬さだ。破れた服の肌には、髪の毛ほどの傷を負わせることも出来なかった。格が違い過ぎる……
「はぁ、面倒くせぇな」
頭を掻きながら、立ち上がったガヴィンに、私は再び剣を構える。
「俺様は面倒なのが嫌いなんだよ。計画通りにいかねぇとイライラしちまう。今回もそうだ。さっさと結界師の嬢ちゃんをさらって、城に帰りてぇんだよ」
ガヴィンの太い手が私の首を掴み、軽々と持ち上げた。なんでこんなに簡単に急所を掴まられるのか理解できないまま、私の足は宙を泳いだ。
「ガァッ」
苦しい……こんな魔界の洞窟で……私は本当に死んでしまうのか。
走馬灯のように、故郷の風景が頭に過る。あんなに出たがっていた村が涙が出るほど懐かしく感じる。
父さま……母さま……
もう一度……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「とんだざまだな。ソラ」
「誰だ!?」
気配を感知出来なかったことに、驚いた様子のガヴィンが振り向いた。
切れそうになる意識の中、なんとか声の方に視線を向けると、そこに居たのは、忘れたくても忘れられない顔。私を魔界にさらった元を辿ればこの窮地の元凶ともいえる男――四天王・リュカの姿があった。
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