エイプリルフールと桜2
あのお花見から三日が経過した。
アメは散りゆく桜を眺めつつ、近くの川沿いを歩いていた。透明度の高い川は心地よい水音をたてながらゆっくりと流れている。
アメは大きな岩によじ登り、川を確認した。
「ふむ。今年は雪が多かったからか、水かさが増えている気がするな」
そんなことを言いつつ、岩に座り込み、作ってきた握り飯を取り出す。
「今度はひとり花見だ」
岩の近くには大きな桜の木があった。アメは毎年、この桜で、ひとり花見をするのが習慣になっていた。
「……ひとり花見か……」
毎年やっているのだが、なんだか今年は微妙にさみしい。
「やっほー!」
ふと、よく聞く少女の声が響いた。
「この声は!」
アメは顔を明るくして声の主を探した。カエルデザインのフードを被った少女が桜の木をよじ登っていた。
「カエル! ……ん?」
よく見ると、カエルの上にはキオビがいた。キオビはカエルよりも一段上にある枝に座っていた。
「キオビもいたのか……」
「けけけー! 元気だったかあ?」
キオビは陽気に笑うと、岩に向かって軽く跳んできた。
「む!」
アメが身構えると、キオビは笑いながら握り飯に手を伸ばしてきた。
「食べたいのか?」
「ケケー! 花見したいー! けけけー!」
キオビは前回同様、不気味なダンスをしながらアメに愛嬌ある顔を向ける。
「……仕方ない。ほら」
アメはやや不機嫌そうに握り飯の乗っている葉っぱをかざした。
「あー! 私も食べるー!!」
上の方でカエルの声がした。
「では降りてくるのだ」
アメは若干の胸の高鳴りを感じつつ、カエルに声をかける。
「やったー!」
カエルはすぐさま桜の木から岩に向かって飛ぼうとした。しかし、飛ぼうとした刹那、カエルは足を踏み外してしまった。
「あっ! やばっ!」
落下するカエルに顔を青くするキオビとアメ。
「キオビ! おにぎり持ってろ!」
アメは素早くキオビにおにぎりを押し付けると、カエルに向かって高く飛んだ。
「カエル!」
「ん? お! アメ!」
アメは自分よりも大きいカエルを抱き抱えると、危なげに岩に着地した。
「おっとっと……」
アメがふらつくと、キオビが背中で止めてくれた。
「大丈夫か? けけけー!」
「ありがとう。キオビ」
アメはカエルを危なげに岩に下ろす。
「あー、びっくりした! ふたりともありがとう!」
カエルははにかみながらお礼を言った。
「怪我してないか?」
「してない。してない。アメちゃん優しいね! そういうとこ好きー」
何気ないカエルの発言に、アメは顔を真っ赤にしていた。
「うっ……」
言葉を詰まらせたアメが言葉を続けようとしたが続かなかった。
……嘘ではないよな? 今日もエイプリルフール……とか。
「アメちゃん、大丈夫?」
カエルが不安げに顔を覗きこんでいたので、アメは慌てて首を縦に振った。
「大丈夫! 大丈夫!」
「青春かもしれないぞぉ! けけけー!!」
キオビは再び愉快に踊り始めた。
「あ! 私も!」
カエルもキオビと共に踊り始めるが、三人乗ると岩も狭い。カエルはまたも足を滑らせた。
「ぎゃあ!」
「危ない!」
今度はキオビとアメが同時に手を掴み、カエルは落ちずに済んだ。
「いやあ……ごめん、ごめん。……ほんと、ありがとう」
「はあはあ……びっくりした……」
アメは早くなる心音を聞きながら、小さくため息をつく。
「もう、いっそうのこと下で花見をしないかあ? けけけー!」
キオビは握り飯を持ったまま、さっさと下に飛び降りてしまった。
「あ! 握り飯! ……はあ、仕方ない。皆で花見するか。また」
「そうしよう! いやあ、色々とごめんねー!」
カエルの苦笑いを見つつ、アメは先程の質問をしてみた。
「なあ、今日はエイプリルフールか?」
「はあ? 毎日エイプリルフールだったらやだよ」
「そうか」
カエルの答えにアメはどこか満足そうに頷いた。
桜はもう散りかけている。
桜の花の寿命は短い。