エイプリルフールと桜1
春の暖かな風が頬をかすめていく。現在は四月。今年は暖かくて桜が早く咲いた。雨神のアメは小さな体を揺らしながら桜の下でお花見の準備をしていた。
「はあ、暖かくなったものだ。桜がきれいだな。風が桜をどんどん持っていってしまうのが悲しいのだが」
「やっほー!」
ふとのんきな声が響いた。この声は聞き覚えがある。
「カエルだな」
「せーかい!」
アメの背後から声をかけていたのはアメよりも身長の高いカエルという少女だった。
「これから花見をするんだがどうだ?」
「花見? いいね! 一緒にやりたい!」
カエルは飛び跳ねながら、舞う桜の花びらを一枚一枚掴もうとしている。
「そんな簡単には掴めないぞ」
「何言ってるの? 私は全日本カエル競技一位だよ!」
カエルはアメにふんぞり返りながら得意気に言った。
「なんだ……それは……」
「トビハネはセカイイチさ! 名高いカエル達との一戦! 莫大な優勝賞金! 私はそのすべてを持っている!」
眉を寄せたアメにカエルは意気揚々と語った。
「おお! なんかよくわからんがすごいのだな!」
「何話してんだあ? けけけけ」
アメが目を輝かせ始めた時、アメとは違う男の声がした。
「ん? 誰?」
カエルが声のした方を向くと紫色の毒々しい色合いをした少年がこちらを見ていた。目付きの悪い少年だが、アメと同じくらいの身長であり、なんだかお人形みたいでかわいい。紫色のカエル帽子にダボダボのジャージのようなものを着ている。
「ああ、キオビか。……彼はキオビという名前の雨神で仲間だ」
アメはカエルに仲間を紹介した。
「黄色くないのにキオビなの? ムラサキじゃないの? おもしろ!」
「一応、キオビヤドクカエルから神になったのさあ。ムラサキだけどなあ! けけけー!」
愉快なキオビは躍りながらカエルに握手をした。
「けけけー!」
カエルも真似して踊る。
「なあ、キオビも花見するか?」
「いいねえ。桜だあ! 桜あ! けけけー!」
キオビは愉快に躍りながら手を叩き始めた。
「うわあ! おもしろい! 私もー! けけけー!」
カエルも真似を始める。ふたりが楽しそうにしているのをアメは不満そうに見ていた。
なんだかわからないが、カエルが他の男と楽しそうにしているのが気に入らない。なぜだかはわからない。
「桜を見よ! 桜を! それから山菜のおひたしを作ってきた。早く食べよう」
アメはふたりのダンスをいったん止めると竹の葉っぱに乗せられた菜の花などのおひたしを、たまたまあった切り株の上に置いた。
「わあ! おいしそう!」
「だなあ。けけけー!」
ふたりはすぐにおひたしを食べ始めた。
「おー! 上手い!」
「だなあ。けけけー!」
カエルもキオビも愉快に笑いながら桜を見上げる。
「はあ、きれい。ところで、君はさ、私のこと好きなの? 間に入ってきちゃったりして」
カエルは唐突にアメに尋ねた。
「え……」
アメは口に含んでいた山菜を咀嚼するのをやめる。なんだかよくわからない。もやもやはするのだが。
「好きか嫌いかとの二択ならば好きだな」
アメは少し頬を染めてつぶやくように言った。
「そっか! 私はアメのこと大好き! 愛してるよ!」
「ぶっ……」
カエルがさらりと当たり前のように言ったのでアメは山菜を吹き出してしまった。
「まことか?」
アメは眉を寄せつつ、緊張した顔で尋ねる。
「けけけー! 今日はあれだなあ!」
カエルが返答する前にキオビが口を挟んできた。
「なんだ? 今は大事な……」
「エイプリルフール!」
「は?」
カエルが呪文のような言葉を発し、アメは口をパクパク動かしていた。
「だからエイプリルフールだよ!」
「ん?」
カエルが手を広げてアメを見るが、アメにはなんだかわからなかった。
「知らないの? 嘘をついていい日なのさ!」
「嘘か……。知らなかった。では、嘘をついているのも嘘なのか?」
「ん?」
アメの言葉に今度はカエルが首を傾げた。
「嘘をついたのも嘘なのか? つまり本当なのか?」
「けけけー! わけわかんねぇ! わけわかんなくなってきたあ!」
キオビは愉快そうに笑い始めた。
「う、うーん……ま、まあ、とにかく、桜を見ようか!」
カエルは返答に困り、花見を再開させた。
それを眺めながらアメは首を傾げる。
……カエルよ。どこまでが嘘だったのだ?
……あの言葉ももしや、嘘?