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最終話 雪原の滝2

 夕暮れ、アメとカエルは龍神に会いに雪をかきわけながら歩き出した。

 「アメ、ごめんね……」

 「かまわん。俺も落ち着かなかったからな」

 雪はなかなかに深い。小柄なアメは腹あたりまで雪がきていた。


 「あたしが抱えるよ」

 カエルはアメの二倍くらい身長が高い。アメは渋っていたが、仕方なくカエルの背中に飛び乗った。


 「ヤドクカエルってちっさいし、軽いねー」

 「歩けるか?」

 「余裕だよ」

 カエルはアメを背負いながら雪の中を飛んでいく。

 しばらく雪のみの、さみしい森を進んだ。


 「雪でよくわからんが、たしか……ここから先、かなりの下り坂だ」

 アメはカエルを心配に思いながら、道すじを教えた。


 「かなりの下り坂? ラッキー!」

 「……え? 滑るし、危ないだろう」

 カエルは思ったよりも楽観的だった。アメは眉を寄せる。


 「滑るのを利用するんだよ。アメ、雪はね、思ったよりも楽しいんだよ。遊び方もいっぱいあるの!」

 「……?」

 アメはいったん、地面に下ろされた。カエルはそのまま森を眺め、太めの枝二本と細めの枝五本、そして植物の枯れたつるを長めに持ってきた。


 「これでなにをする?」

 疑問がいっぱいのアメにカエルは微笑み言った。

 「ソリを作るんだよ」

 「……そり?」

 カエルは太めの枝二本を平行に置き、細い枝五本を等間隔に、太い枝と直角に置いた。


 そしてそれを枯れてしなるようになったつるで結わいて固定する。先端の、一番目の細い枝に残りのつるを巻き付けてブレーキ兼ハンドルを作った。


 イメージは子供が遊ぶソリだ。

 太めの枝二本を下側にし、ハンドルのつるを操作して頑丈さを確かめたカエルは、満足してアメを振り返った。


 「できた! ソリ!」

 「……これはどういう……」

 アメは雪の遊びをまるで知らない。いまだによくわかっていないようだ。


 「まあまあ、ちょっと乗って」

 カエルはアメをソリの後ろに乗せた。


 「乗り物か」

 「そう! あ、ここから坂か」

 カエルはアメを乗せたまま、平坦の雪道を少し歩いた。少し歩くと、アメの言った通りに長い坂道があった。山をひとつ降りる勢いの坂だった。連日の寒さからか、やや凍っている部分もある。


 「さあ、実践!」

 カエルがアメを乗せたままソリを押しまくる。坂道をかけおり、スピードが出たあたりで空けておいた前の席に飛び乗った。


 「おお!?」

 「アメ、振り落とされないようにあたしに捕まって!」

 坂道の角度が急だからか、ソリはすごい速さで坂を滑り降りていく。


 「たのしー! はやーい!」

 「は、速すぎやしないか?」

 ソリはさらに加速し、雪の丘をかけ下りていく。すごく長いソリ滑りだ。カエルとアメはどこまでも行ける気がした。


 その時、ふとカエルの脳内にある言葉が通りすぎた。


 ……どこまでも進める。

 だけど、いつかは「帰る」。


 「……かえ……る」

 カエルが何かに気づきそうになった刹那、アメが叫んだ。


 「おい! カエル! 目の前、(がけ)だ! 止まれ!」

 「え……?」

 カエルが我に返ると、ソリはまっすぐ坂をくだり、目の前の谷底へ向かって飛び出していた。


 「崖!?」

 ソリがバラバラになって暗い谷底へと落ちていく。カエルとアメも同様に、ソリから投げ出され、暗くなりつつある夜空へ舞った。


 「か、カエル!」

 アメが空を必死で泳ぎながら、カエルの手を掴んだ。

 掴んでも意味はなく、二人は重力に逆らえず、そのまま暗い谷底へと落下していった。


 「……川だ……」

 カエルの瞳に谷底を流れる川が映った。雪に負けず、凍らずに流れ続けている。


 その後、自分達が落ちている事に気がつき、カエルは叫んだ。

 「ギャアアア!」

 「こ、これは……まいった」


 川の流れる音が聞こえてきた。

 川底が見えてしまった。

 もう、終わりだと思った直後、突然に不思議な風が吹いた。


 カエルとアメは舞い上がり、何かの上に落ちていた。


 「いてて……」

 わけわからない現象が起きる中、カエルとアメは辺りを見回す。視界に入ったのは緑の鱗に立派なツノ、動物の毛並みのような立派なヒゲだった。


 そして、星の輝く夜空へと「それ」は舞い上がっていた。


 「……龍だ……」

 カエルがつぶやき、アメが驚く。

 「龍だと!」

 「あー、あー、うるせー。耳元で騒ぐな」

 龍が突然に話し出した。


 「す、すまぬ」

 会話ができることに目を丸くしたアメは、とりあえずあやまった。

 龍は蛇のように体をくねらせると、先ほど、カエル達がソリで滑っていた方とは逆の崖へ、カエルとアメを下ろした。


 「わりぃな。お前らがソリで滑ってた方には結界があっていけねーの」

 龍は軽い調子で話しかけると、本来の神の姿になった。


 人型の、目付きの悪い青年だ。頭になぜかシュノーケルのゴーグルをつけ、黒地に金の龍が描いてある着物を片肌脱ぎにしている。

 黄緑の短髪はどことなくパイナップルの葉っぱにも見える。


 「えー……」

 「あ? ああ。俺様は流河龍神(りゅうかりゅうのかみ)。リュウって呼べや」

 リュウと名乗った龍神は得意気に胸を張った。


 「リュウ……川……。……あ!」

 カエルがようやく気がつき、叫んだ。


 「あんた、結界の境目にいる龍神! 長老の話で出た!」

 「ん? ああ、結界の境目に一応住んではいるが」

 「普段は竜宮にいて、たまにこちらに帰ってくるんでしょ」

 「なんで、知ってんだよ……」

 リュウはあきらかに困惑していた。結界内にいる蛙神が龍神のことを知っているとは思えなかったからだ。


 「あたしは外から来たから順応できるけど、アメは……」

 カエルはそこまで言ってから、疑問に気がついた。


 「……待って。あたし、なんで蛙神の結界抜けたの? リュウが入れないなら、あたしも……」

 「……まあ、なんだかわからねーけど、うちに来いよ。夜はさみぃぜ」

 リュウに言われ、カエルとアメは戸惑いつつ、リュウの家に行くことにした。確かにだいぶん寒い。

今夜、また雪が降りそうだ。

 

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