秋雨1
「おお。なんだか突然涼しくなったな……」
蝉と冷たい風が共存している、季節の移り変わり、アメは外を散歩していた。まだ、秋は来ない。
「やっほー! アメ!」
川沿いを歩いていると、岩の上にカエルがいた。おいしそうなおにぎりを広げている。
「アメも食べる? 気持ちいい風が吹いているからピクニックしてる」
「おお! いいな!」
アメは喜ぶと、カエルの横に飛んで行った。
「秋が来たって感じだね!」
「そうだな……」
カエルはアメに握り飯を渡すと、空を仰いだ。澄んだ秋の空が蝉の声と重なり、なんだか変な感じだ。
「ねぇ、そろそろさ、冬眠な感じなの?」
カエルがなんだか言いにくそうにアメに尋ねた。
「……寒くなったらな」
「そっか。なんで、かえるでもないのに冬眠するの? 神でしょ?」
「冬は雪であり、雨が呼ばれることはまずない。そう言われている故、冬は寝る」
「……でもさ、雪が降らない地域は雨なんだよ?」
カエルはおにぎりを頬張りながらアメを見る。
「そうなのか? ここから出たことはない故、わからぬ」
アメもおにぎりを口に放りながら答えた。
「……なんでヤドクカエルからできた神が集まっているのかもわからないの? 不思議な島ー」
「わからぬ。わからぬが消えていないところからすると、どこかで信仰されているのかもしれぬ」
「ふーん」
カエルは再び、空を見上げる。
知らぬ間に雲が空を覆っていた。
「あれ?」
「秋雨がきた秋黴雨か?」
「あきついり?」
カエルはアメに目を向ける。
「秋の長雨のことだ」
「ちょ、ここの雨神の誰かが呼んだの?」
「この雰囲気は……コバルトだ。まだ早いだろう……」
動揺するカエルにアメは呆れた顔をした。
するとすぐに、近くでコバルトの声がした。
「……カエルちゃん、ちょっと……イチゴと遊んでいてくれないかな?」
「あれ? コバルトじゃん。なにしてんの?」
岩影にいたコバルトを見つけたカエルはにこやかに笑った。
「あ、えっと……アメと仲良くしすぎな気がして。雨を降らせてみようかなって」
「そう? ま、いいや、雨降りそうだけどさ、おにぎり食べる?」
「食べたい……」
コバルトは岩をよじ登り、アメとカエルの間に座った。
「コバルト、まだ雨には早いぞ……」
「そ、そうかな……。じゃあ消すね……」
アメに言われてコバルトは慌てて雨雲を消した。
「そうやって簡単に消せるの?」
カエルの言葉にコバルトはきょとんとした顔を向けていた。
「うん。だって、私が出したやつだから……」
「へぇ! すごいね」
カエルは素直に感動した。
「……カエルは、外から来たんだよね? 外はどんな感じなの?」
コバルトは無邪気に尋ねてきた。
「うーん……龍神が雨を降らせてるかな……」
「龍神が?」
コバルトが続きを聞こうとすると、アメがやんわり止めた。
しかし、カエルがアメをさらに手で制した。
「うん。外にはかえるの雨神はたぶんいない。私はね、雨神の使い。かえるは雨の使いなだけ」
少しだけ決心してカエルは言う。
「……え……。……でも、カエルには神力があるよ?」
「……え?」
コバルトの発言にカエルは驚いてしまった。その横でアメはなんとなく頷いていた。
カエルに感じた違和感はアメだけではなかったのだ。




