八月の花火2
日も落ちて、やや涼しくなった。
夏の虫が鳴いている。
雨神達が河原に集まり始めた。
この川で花火大会が行われるようだ。皆、川魚を焼いて、おいしそうに食べている。お祭り騒ぎだ。
「ついに始まるな。カエル。カエルの神力、楽しみだぞ」
アメがうちわと川魚を持ってカエルの近くに腰かけた。
「う、うん……」
カエルはひどく暗い顔をしていた。
「……? どうしたのだ? 具合が悪いのか?」
「え、えーと……その……」
カエルが言葉を詰まらせた刹那、真っ赤な花火が美しく輝きながら広がった。
「お、あれはイチゴのだ」
アメが花火を指差して笑う。
「あたしのー!! かっこいいだろー!」
イチゴの元気な声がカエルにも届く。
「……純粋な神力だ……。きれいだなあ」
次は青い花火が上がる。
「あれはコバルトだ」
控えめな青い花火が夜空に消えた。続いて陽気な黄色い花火が上がる。
「あれはキオビ? 紫じゃないんだ」
カエルは少しおもしろくなり、笑った。
「ところで……カエルはどんな神力を……」
アメに問われ、カエルは固まる。
「……一体どうした? 今日はなにかおかしいな?」
「……たぶん、もう隠せないから……言うとね……」
カエルは言う決心をし、唾を飲み込んだ。
「あたしは……神じゃなくて、神の使いなんだ……」
カエルの言葉を聞いてアメが今度は固まる。
「でも……雨神なのではないのか?」
アメの言葉にカエルは首を横に振った。
「本土……わね、竜神が雨の神もやってるんだ。あたしは……竜神の神格の内の、『雨神』の部分の使いなんだ。『竜神』の方の神格はカメが使いなんだよ」
「……」
「だからね、あたし、神力……ないんだ」
カエルが苦しそうにつぶやくのと、緑色の花火が上がるのが同時だった。
「それでね、ある日、雲の中で純粋な雨神の神力を感じたの。今の……みどりの花火みたいな……。だから、純粋な雨神に会ってみたくなって来たんだ。ごめんね、期待はずれで」
「……いや、そんなことはないぞ」
アメはカエルの背中をさする。
「……これを言うとね、今の関係が崩れちゃう気がして。あたしは神の使いなだけだから、皆より下なんだよ。皆みたいに雨を呼ぶ力も、今はないんだ。あたしができるのは、純粋な雨神の神力と会話をして、雲を借りるだけ。竜神のはもらえない」
「上下の問題に関しては関係ない。上下は元々なかっただろう。神は区別をしただけだ。名称をつけただけで、下に見ようとは思ってない。もちろん、俺達も。むしろ、気づけなくてすまなかった。変わらず楽しんでくれ。花火はまだ上がる」
「アメ……ありがと」
カエルは目にわずかに涙をためると、アメに微笑んだ。
アメは顔を赤くするとカエルに花火を見るように促した。
そこからカエルはいつも通りになり、イチゴと川魚の奪い合いをしたり、キオビとダンスを踊ったり、コバルトと青い花火を見上げたりして楽しそうだった。
……しかし……
アメは思う。
外では雨神がいないのか……。
なぜ、この地域にのみいる?
他にもいるのか?
カエルは神力がないと言っていたが、神力のようなものを感じるのはなぜなのか……。
まだまだ疑問は残る。




