表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/27

八月の花火1

八月中頃になった。

急に、汗ばむどころではないくらいの暑さになり、カエル神のアメは一日中川付近にいた。


以前、雨神の少女カエルとよしのぼりを探した川だ。梅雨が長かったおかげか、水は干上がってはいない。


水は冷たいが、(かしま)しく鳴くセミがさらに暑さを盛り上げる。


「暑い……」

アメは木が(しだ)れて影になる場所で、川に足をつけながら、頭に川の水をかけている。


「暑くて死にそうだ。逃げ水が見える……いや、これは本当の川か……。蜃気楼なのかなんなのかわからん……」

アメは暑すぎて、本物の川かどうかすらわからなくなっているらしい。


「やっほー!」

ふと、この暑いなか、やたらと元気な声が聞こえた。


「あー……カエル。暑すぎてまいったな……」

雨神カエルはかえるフードを被ったワンピース姿の女の子だ。


「あっついねー! どうなってんだろ? 気候! あ、そういえばさ、今日、神力使った花火大会やるんでしょ!」

「ああ、自分の神力を空に打ち上げる行事だな。……ふむ、たしかに今日だ」

アメはしみじみ、もう花火の時期かと思った。


「それってさ、夜やるの? 花火だから、夜だよね?」

カエルはなんだかそわそわしながら尋ねてきた。


「ああ、皆、持ち味の神力、色があるから、夜空のが映えるのだ。何をそわそわしている?」

「あ、アメはヤドクカエルから神になったわけじゃないよねー?」

カエルの問いにアメは軽く笑って答えた。


「俺はマダラヤドクカエルだ。だから、みどりだ」

「皆ヤドクカエルかあ……」

「カエル?」

やたらとため息をついているカエルを アメは首をかしげ、見据えた。


「あ、いや、なんでも……」

「カエルも神力を長老に渡してみるか? 神力を長老にあげると打ち上げてくれる」

「いやあ……あたしは……実は……」

なんだか言葉を濁すカエルにアメは眉を寄せた。


「どうした?」

「あー、えっと……な、なんでもないよ」

「まあ、見に来るだけでも良いのだが」

アメの言葉にカエルははにかんだ。


「あ、ミンミンゼミが鳴いてる! もう夏も終わりだね。日本の、人間の子供の夏休みが終わる時期だよ」

「……そうなのか?」

アメには人間の子供の夏休みがいつなのか知らない。


「もう、夏休みが終わるんだよ」

カエルはミンミン鳴くセミの声を聞きながら、川の水を蹴った。

夕方になりつつある、青空に水滴が飛ぶ。

次第にヒグラシも鳴き始め、カナカナと夕方を誘い始めた。


「……もう、隠せないかもしれないな……雨の神が竜神に変わって行っていること……。もう、外に仲間がいないことを。私に神力がないことを」

カエルは岩で横になっているアメをせつなげに見つめた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おや、カエルさん、何か訳ありのようで…彼女には名前もないみたいですし、一体正体は…気になります。
2021/08/14 23:31 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ