八月の花火1
八月中頃になった。
急に、汗ばむどころではないくらいの暑さになり、カエル神のアメは一日中川付近にいた。
以前、雨神の少女カエルとよしのぼりを探した川だ。梅雨が長かったおかげか、水は干上がってはいない。
水は冷たいが、姦しく鳴くセミがさらに暑さを盛り上げる。
「暑い……」
アメは木が垂れて影になる場所で、川に足をつけながら、頭に川の水をかけている。
「暑くて死にそうだ。逃げ水が見える……いや、これは本当の川か……。蜃気楼なのかなんなのかわからん……」
アメは暑すぎて、本物の川かどうかすらわからなくなっているらしい。
「やっほー!」
ふと、この暑いなか、やたらと元気な声が聞こえた。
「あー……カエル。暑すぎてまいったな……」
雨神カエルはかえるフードを被ったワンピース姿の女の子だ。
「あっついねー! どうなってんだろ? 気候! あ、そういえばさ、今日、神力使った花火大会やるんでしょ!」
「ああ、自分の神力を空に打ち上げる行事だな。……ふむ、たしかに今日だ」
アメはしみじみ、もう花火の時期かと思った。
「それってさ、夜やるの? 花火だから、夜だよね?」
カエルはなんだかそわそわしながら尋ねてきた。
「ああ、皆、持ち味の神力、色があるから、夜空のが映えるのだ。何をそわそわしている?」
「あ、アメはヤドクカエルから神になったわけじゃないよねー?」
カエルの問いにアメは軽く笑って答えた。
「俺はマダラヤドクカエルだ。だから、みどりだ」
「皆ヤドクカエルかあ……」
「カエル?」
やたらとため息をついているカエルを アメは首をかしげ、見据えた。
「あ、いや、なんでも……」
「カエルも神力を長老に渡してみるか? 神力を長老にあげると打ち上げてくれる」
「いやあ……あたしは……実は……」
なんだか言葉を濁すカエルにアメは眉を寄せた。
「どうした?」
「あー、えっと……な、なんでもないよ」
「まあ、見に来るだけでも良いのだが」
アメの言葉にカエルははにかんだ。
「あ、ミンミンゼミが鳴いてる! もう夏も終わりだね。日本の、人間の子供の夏休みが終わる時期だよ」
「……そうなのか?」
アメには人間の子供の夏休みがいつなのか知らない。
「もう、夏休みが終わるんだよ」
カエルはミンミン鳴くセミの声を聞きながら、川の水を蹴った。
夕方になりつつある、青空に水滴が飛ぶ。
次第にヒグラシも鳴き始め、カナカナと夕方を誘い始めた。
「……もう、隠せないかもしれないな……雨の神が竜神に変わって行っていること……。もう、外に仲間がいないことを。私に神力がないことを」
カエルは岩で横になっているアメをせつなげに見つめた。




