よしのぼりとこいのぼり1
五月に入り、とたんに暑くなった。空は濃い青色になり、木々も緑になってきた。鳥もかしましく鳴くようになる。
「それで、虫も現れる!」
簑傘に羽織袴姿の雨神アメは額の汗を拭いつつ、虫の観察に全力を注いでいた。
「だんごむしだ! 丸々してるな、お前」
アメは川の近くにある石をどかし、だんごむしを発見した。
「おお! 目の前にはてんとう虫! バッタもいるではないか!」
ちなみに、彼はかえるから雨神になったようだが、虫は食べない。
顔を緩ませたアメはさらに、虫を探す。
「ねー、ねー、虫より川に入ろうよ!」
ワンピースの裾をまくって、足踏みしながら、野性的に川の水を辺りに撒き散らしていた少女、カエルが口を尖らせてアメを見ていた。
「川は入ったらまだ、寒いだろう?」
「そんなことないさ! 川にも生き物いるよ! ほら! いたよ! よしのぼりー!」
カエルは近くの岩の下を指差し、アメに来るように促した。
「おお! よしのぼりか!」
アメも嬉々とした顔で、カエルの元へ向かった。
「そーっと来なよ!」
「さっきまで、足踏みしていたヤツに言われたくない」
ふたりはいがみ合いながら岩の下を覗き、よしのぼりの姿を確認すると、笑いあった。
「よしのぼりで思い出したのじゃが……」
ふと上から男の声が降ってきた。
「ん?」
首を傾げつつ、ふたりは同時に岩の上を見上げる。
岩の上にアメに似た雨神があぐらをかいて座っていた。カエルを模した帽子にマントのような布を肩にかけ、眠っているかのように細い目をこちらに向けている。
「ああ! 長老! こんにちは」
「ちょーろー?」
カエルが首を傾げる中、彼の姿を確認したアメが慌てて挨拶をした。
「ああ、こんにちは。私は長老。ここに住んで一番長い雨神じゃ」
長老とやらはカエルに自己紹介をしたようだ。長老と言っているが、外見はアメと変わらない。
「へぇー、なんのかえる?」
「私はモウドクフキヤカエル。ヤドクカエルの一種じゃ」
「猛毒!?」
カエルは後退りするが、長老は愉快に笑っていた。
「大丈夫じゃ。毒はもっておらん故」
「あー、びっくりした。あ、でさ、さっき言っていた、よしのぼりで思い出すってなに?」
カエルは一通り驚いた後、一番最初に長老が言っていた事を思いだし、尋ねた。
「ああ、それはズバリ、こいのぼり!」
「こいのぼり!?」
長老の言葉にアメとカエルは同時に声を上げた。アメはどうやら違う方面を思い浮かべているようだが……。




