自然は美しいですよ
「さあ、アリア様!ピクニックへ出発しましょうか!」
「…もう既に帰りたいわ。」
未だ抵抗するアリア様の手を引いて森へと足を踏み入れる。
真上にある太陽の光は眩しく、整備されていない森の中では生い茂る木の葉がちょうど良い日陰となっている。
セレンディア家の御屋敷の裏にあるこの森では頻繁に魔物討伐が行われているため、襲われるような心配もない。
今この森にいるのはウサギや鹿などの動物だけだろう。
それにしてもさすがはセレンディア家の一族である。
ちらりと背後に視線をやると、そこには面倒そうな顔をしつつもしっかりと後を着いてくるアリア様の姿があった。
部屋に篭もりきりで運動もろくにしていないというのに、息も切らさず余裕な様子で森の中を歩く姿に感心する。
魔法が使えなくても確かに彼女にはセレンディアの血が流れているのだと改めて実感する。
「セレナ、目的地まではあとどれくらい時間がかかるの?」
「私も初めて行く場所ですので正確には分かりませんが、30分以内には到着するかと思います。」
「…そう。まだ結構歩くのね。」
心底嫌そうな顔をするアリア様に苦笑しながら、前方にある木を指差す。
「アリア様、見てください。クカの実がありますよ、食べてみますか?」
「嫌よ、そんな得体の知れないもの口にしたくないわ。」
「冬の保存食として重宝されている貴重な実なのですが…。貴族の方にはあまり知られていないようですね。」
私が幼い頃にはよく両親と森へ集めにいったものだ。
少し苦いが栄養満点のクカの実は平民にとっては大切な食料である。
公爵家で働くようになってからはまともな食事を頂けるようになったが、味の薄いスープや硬いパンが少し恋しくなってしまった。
とはいえ、また元の生活に戻りたいかというと答えはもちろん否であるが。
森の奥へと進むにつれて動物の姿をよく見かけるようになった。
小鳥やウサギなどの可愛らしい姿にだらしなく頬も緩んでしまう。
ふと後ろに顔を向ければ、アリア様が穏やかな表情で木に登るリスを眺めている姿が目に入る。
動物が好きなのだろうか。アリア様のこんなにも優しい眼差しは初めて見た。
驚いて目を離せずにいると、ふいにこちらに視線を向けたアリア様とばっちり目が合う。
「……なによ。早くこのくだらないピクニックを終わらせたいのだからさっさと歩きなさい。」
先程までの聖女様のような穏やかさはどこへやら、ツンツンとした雰囲気に戻ったアリア様に急かされてしまった。
森の中に佇むアリア様のお姿はどこか神秘的で美しく、まるで一つの絵画のようであった。
その光景が頭から離れず、少し高鳴る心臓を誤魔化すように私は早足で森の奥へと歩き出した。




