お仕事ですよ
翌日、私達は午前中から冒険者ギルドを訪れていた。
「うーん、やはりFランクの依頼は報酬金も低いですね…。」
ギルド内の掲示板に貼られている依頼票を眺めながら呟く。
これは早々にランクを上げる必要がありそうだ。
「これなんかどうかしら?北の森に生息するホーンラビット5体の討伐。これならこの街に来る途中に何度か倒したことがあるでしょう?」
「Eランクへの昇格依頼ですか。確かにそれなら問題なく遂行できそうですね。」
アリア様が指差す依頼票を手に取り、受付カウンターへと持っていく。
受付は冒険者証と依頼票を提示してすぐに終わり、さっそく私達は北の森へと向かった。
北の森はクドゥカの街からしばらく歩いた先にあり、森の入口付近には他の冒険者達の姿も見える。
身に付けている装備を見るに、この辺りには駆け出しの冒険者が多いのだろう。
「ホーンラビットは警戒心の強い魔物ですから、人の少ない奥の方へ行ってみましょうか。」
「街から近いところなのに魔物が多いのね…。」
「退治してもどんどん湧いてきますからね。だからこそ冒険者稼業が活発なんですよ。」
魔境の森はここよりもずっと北の方にあるが、それでもこの辺りの魔力濃度は普通よりも高い。
よほど奥へ行かない限りはそう危険では無いと思うが、念の為警戒はしておくべきだろう。
周囲に人がいなくなったことを確認し、ローブを脱いで背嚢の中へ詰め込む。
白のローブでは血の汚れが目立ってしまうので、面倒だがこうするしかないのだ。
「!…そこの茂みの奥になにかいるようです。」
森を歩いているとふいに前方から気配を感じ、足を止めて茂みを睨みつける。
足元に転がっていた石を拾い投げ入れると、ガサガサッと茂みが大きく揺れ、標的であるホーンラビットがこちらに向かって飛びかかってきた。
素早く鞘から剣を引き抜き、ひと薙ぎでその命を絶つ。
エレン様から頂いた剣はかなりの業物のようで、切れ味も鋭くとても使いやすい。
さすがは第二騎士団の副隊長が使う剣なだけある。
「よくそこにいるって分かったわね…。全然気付かなかったわ。」
「意識して気配を探っていればなんとなく分かるようになりますよ。」
「本当かしら…。セレナは普通じゃない気がするのよね。」
じっとこちらを見つめるアリア様に苦笑いを浮かべ、討伐したホーンラビットを解体していく。
ホーンラビットの肉は食用にもなるため、出来れば持ち帰りたいのだが今回は荷物になってしまうので諦める。
討伐証明の角と魔石を革袋に詰めて、私達は次の標的を探すべく再び歩き出した。
「!この先に二体いるのが見えます。複数の相手は危険ですので、今回も私がいきますね。」
「……ねえ、ちょっと。さっきからそう言って一向に私に戦わせてくれないじゃない。」
アリア様に睨まれ、思わずたじろぐ。
確かにここへ来るまでにもホーンラビットとは3体遭遇しているが、すべて私が始末している。
アリア様が依頼を受けることは承諾してしまったが、それでも魔物と戦わせるのは気が進まないのだ。
「今回は私がやるから、セレナはなにもせずに見ていて。いいわね?」
そう言い放つと、アリア様は私の返事も待たずに歩き出してしまった。
引き止めたい気持ちを必死に抑え、急いでその後を追う。
……危険だと判断したらすぐに助けに入ろう。
だが、そんな心配は必要無かったのだと私はすぐに知ることとなった。




