冒険者ギルドですよ
「んっ……あれ?もう昼…?」
目を覚まし、窓の外を見るとすっかり太陽の位置は高くなっていた。
…どうやら寝過ごしてしまったようだ。
今日は冒険者登録をするだけで終わりそうだなぁと考えていると、隣から唸り声が聞こえた。
「うぅ…眩しい……。」
陽の光から顔を逸らし、眉間に皺を寄せている姿に思わず笑ってしまう。
「アリア様、起きてください。もうお昼ですよ。」
「んぅー…もうそんな時間なの……?」
寝惚けているのだろうか、眠たそうに瞼を擦る姿が子供のようで可愛らしい。
このまま眺めていたいような気もするが、そうも言っていられない。
早々にアリア様を起こして外出の準備をする。
女主人にはしばらくこの宿に滞在することを伝えてあるので、大きな荷物はそのままに一階へと向かった。
「あ!お客様!おはようございます!昨日はよく眠れましたか?」
昼時で忙しそうな店内は大勢の人で賑わっていた。
その中を白いエプロンを身につけたアーニャがパタパタとこちらに走り寄ってくる。
「おはよう、アーニャ。とてもよく眠れたよ。ここはいい宿屋だね。」
「えっへん!アーニャの宿屋は自慢の宿屋なのです!お客様はこれからお出かけですか?」
「うん、夜には帰ってくるよ。アーニャもお仕事頑張ってね。」
「はい!今日も元気いっぱい頑張ります!いってらっしゃいませ!」
アーニャに見送られて宿を後にした私達は、まずは大通りへと向かった。
憧憬の宿屋は大通りの一本隣の路地にあるため、少し歩けば着く距離だ。
昼食も屋台で適当に食べればいいだろう。
大通りは買い物をする人々で賑わい、昨日と変わらぬ活気の溢れた光景が広がっていた。
「ねえ、セレナ。まずは冒険者登録をするって言っていたけれど、それはどこで登録できるの?」
大通りを歩いていると、ふいにアリア様からそんな質問をされた。
「冒険者ギルドというところですよ。冒険者ギルドは国ごとに一つあって、それぞれの街にその支部があるんです。」
「そうなのね。それじゃあ剣を持って歩いてる人は全員そこに登録している冒険者なのかしら?」
「ほとんどがそうでしょうね。ラズティア王国は特に冒険者が多い国ですから。」
すれ違う人々をよく見れば、いかにも冒険者といった風貌の人が多いことが分かる。
この街がこれだけ栄えているのも冒険者が多いことが理由の一つだろう。
屋台で購入した串焼きを頬張りながら歩いていると、思っていたよりも早く冒険者ギルドに到着した。
冒険者ギルドの建物は想像していたよりも大きく、余裕で三階建てくらいはありそうだ。
看板を見ると魔石や素材の買取もここで行っているようで、その広さに納得する。
中央の大きな扉から中へ入ると、中央奥には受付カウンターがあり、右側にはテーブルが並ぶ飲食スペースが、左側には魔石・素材買取のカウンターがあるようだ。
多くの冒険者で賑わっている空間は正直かなり厳つい雰囲気である。
このような場所に馴染みのないアリア様が心配になり隣を見てみると、私の心配をよそにアリア様は興味津々といった様子で周囲を観察している。
だが、その片手は私のローブの裾をしっかりと握り締めていた。
「野蛮そうな人間ばかりなのね。」
「あはは…冒険者は戦いを生業としていますからね。そういう人間が多くなってしまうのは仕方ないんですよ。」
アリア様の辛辣な発言に少しだけ驚く。
引きこもり時代はもっと気が弱かったはずなのだが。
そんな事をぼんやりと考えながら、私達は受付カウンターへと向かった。