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平民侍女は引きこもり令嬢を更生させたい  作者: いとまる。
ラズティア王国編
22/39

料理は偉大ですよ




「わあ!お客様、来てくれたんですね!テーブルはいっぱいなのでカウンター席にどうぞ!」


下に降りると変わらずガヤガヤと騒がしい空間が広がっていて、私達はカウンターへと案内された。


「いらっしゃい。アーニャの案内は問題なかったかい?あの子はやる気だけは一人前だが、たまにミスをやらかすんだよ。」

「いえ、とても立派な従業員でしたよ。丁寧に案内をしていただきました。」


そう返事をするとカウンターの厨房に立つ女主人は嬉しそうに微笑んだ。

笑った顔はアーニャととてもよく似ていて、やはり二人は親子で間違いなさそうだ。


「それならよかったよ。二人を見た時は顔を隠してるからなにやら訳アリのお客さんかと思ったが、普通にいい人そうじゃないか。」

「あはは…。ええと、注文は女将さんに言えばいいですか?」

「私でも従業員でもどちらでも構わないよ。この店の看板メニューは赤鶏の香草焼きだ。よかったら頼んでおくれ。」


そう言って作業に戻った女主人の言う通り、メニューには目立つように大きく[赤鶏の香草焼き]の文字が書かれていた。

森で逃亡している時は美味しくない保存食や焼いただけの味気ない肉などを食べていたため、しっかりと調理された料理ならばどれも美味しく頂ける自信がある。


近くにいた従業員の女性に話しかけ、お勧めされた料理の他に数品と飲み物を注文した。




目の前に置かれたご馳走に思わずよだれが垂れそうになる。

さすが看板メニューというだけある。

肉汁が溢れる鶏肉からは香ばしい香りが漂っていて、焦げ目のついた皮は噛むとパリッとしていそうだ。

それ以外の料理もどれも美味しそうで、ついにお腹がぐぅと声を上げた。


「…では、いただきましょうか。森を抜けたご褒美として今夜はお腹いっぱい食べましょう!」

「そうね、ご褒美は大事よね。さっそくいただきましょう。」


久しぶりのまともな食事にがっついていると、並んでいた料理はあっという間に無くなってしまった。


「ふう、すごく美味しかったです…。やはりちゃんと調理されたものは違いますね。」

「本当にね。屋敷にいた頃は分からなかったけれど、食事って大切だわ…。」


野営でも多少の調理はできるように器具を揃えようかと考えていると、ふいにアリア様が真面目な顔で質問をしてきた。


「それで、実際のところ私達の金銭事情はどのような感じなのかしら?」

「ええっと、急にどうされたんですか、アリ…リリア。」

「確かに私にはお金のことは分からないわ。でも、こうなった以上しっかりと勉強していくつもりよ。私達に余裕が無いのは分かるけれど、どのような状況なのかはしっかりと知っておきたいわ。」


まさかアリア様からそのような言葉を聞くことになるとは。

公爵家の令嬢であり、しかもほぼ軟禁状態で生きてきたアリア様は、いわば世間知らずというやつだ。

物の価値も分からないアリア様には今の状況を話してもピンと来ないだろうと思い話していなかったが、本人がこう言うのなら話すしかない。


「そうですね…。すぐに危なくなる訳ではありませんが、早々に働き出さなければ宿に泊まることすら出来なくなります。今夜の宿代と食事代を抜いて現在の持ち金は41500ダラーです。これで過ごせるのは4日ほどですので、その間になにかしらの依頼を受けるつもりです。」

「4日…、確かに厳しいわね。」


難しい顔をしているアリア様を見てぼんやりと思う。

逃亡生活を開始してからのアリア様はとても逞しくなった。

以前までの引きこもり状態が嘘のように生き生きとしている。

公爵家の屋敷で育ったアリア様が平民の生活に馴染めるかがずっと不安だったが、いらぬ心配だったようだ。


「お金については分かったわ。…それからずっと言おうと思っていたのだけれど、私達は姉妹なのだから姉であるレーナが私に敬語なのはおかしいと思わない?」

「!!……それは、確かにそうですが…。」

「怪しまれないためにもこうしてローブを被っているのでしょう?怒ったりなんかしないから、敬語はやめてちょうだい。」


ローブに関しては怪しさを倍増させてしまっている気もするが、アリア様の言う通り姉妹という設定であるのなら私が敬語で話すのはおかしい。

主人であるアリア様に向かって敬語を使わずに話すのは気が引けるが、状況的にもそうは言っていられない。


「……リリア、そろそろ会計をして部屋に戻ろうか。」


言われた通りに敬語を無くしてみるが、なんとなく恥ずかしくなって声が小さくなってしまった。

だが、それを聞いたアリア様は満足そうに微笑んでいる。


部屋を出た時の不機嫌さが無くなったのはいいが、これは慣れるまでが大変そうだ。

ふう、と小さくため息をつき、ちょうど近くにいたアーニャにお会計をしてもらうと私達は部屋へと戻った。


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