不正は最低ですよ
「すごい…。人が大勢いますね。」
「そりゃあクドゥカの都は王都の次に栄えている街だからな!」
クドゥカというのはここの地名で、それがそのまま街の名前になっているらしい。
道の両脇には店がずらっと並んでいて、そこを歩く人の波も途切れない。
しばらくはこの街を拠点にするのもいいかもしれない。
「宿に行くならこのまま送るが、なにか買い物がしたいんならここで降りた方がいいぞ。どうする?」
「そこまでお世話になるわけにはいかないので、ここで降ります。本当にありがとうございました。大したお礼もできず申し訳ありません。」
「俺も話し相手ができてよかったんだ、気にするな。俺の名前はガルシアだ。しばらくはこの街にいるから何かあったら声をかけてくれ。」
ガルシアさん、か。
あまり人と関わるのは良くないと思っていたが、いい人と知り合えてよかった。
馬車を見送りながらちらりと隣にいるアリア様を見る。
結局アリア様は一度もガルシアさんと話さなかったな。
最後にお礼だけはなんとか言っていたが、これはかなりの人見知りのようだ。
「無事に街まで来れたことですし、まずは屋敷から持ち出した宝石を売りに行きましょうか。もう夜になりますし、冒険者登録は明日にしましょう。」
「ええ、そうね。久しぶりにベッドで眠れると思うと今から夜が待ちきれないわ。」
私はお給金のほとんどを孤児院に寄付していたため、今ある手持ちのお金だけではかなり心許ない。
私達は人混みではぐれないように手を繋ぎながら、宝石を売れる店を探すべく歩き出した。
「全部で8000ダラーだな。」
「なっ!?有り得ません!なぜそんなに安いのですか!?」
屋敷から持ち出した宝石の数は4つ。
どれも小さいものではあるが、宝石の買取価格がそんなに安いはずがない。
「この店にある宝石と見比べてみろ。上手く似せてはいるが、4つとも偽物だ。8000ダラーでもまだ高い方だぞ。」
私には本物と偽物の違いなどよく分からないが、確かに屋敷から持ち出した宝石は少々色が濁っているように見える。
たとえアリア様に与えるものだとしても、公爵家として偽物の宝石を渡すはずがない。
恐らく使用人の誰かが不正をしたのだろう。
「……分かりました。その金額で売ります。」
なんとなく気まずい雰囲気で大通りを歩く。
現在の持ち金は合計53000ダラー。
宿の宿泊料がどのくらいかは分からないが、毎日の食事代を含めても一週間は過ごせないだろう。
これは早々に冒険者登録をして依頼を受けなければまずい。
「……セレナ、ごめんなさい。私の宝石は偽物だったのでしょう…?」
「なぜアリア様が謝るのですか!恐らくですが使用人の誰かが本物とすり替えたのでしょう。いくら使わずにずっと保管していたとはいえ、これは酷すぎます。」
「…私が屋敷内での自分の立場をもう少し上げることが出来ていたら、こんな事は無かったと思うわ。」
悲しそうに目を伏せるアリア様を見て、胸が締め付けられる。
アリア様はなにも悪くないのに。
「……アリア様!なんにせよお金は手に入ったことですし、まずはローブを買いに行きませんか?ここではアリア様の可愛らしさは目立ってしまいます。」
「…ふふっ、そうね。私も目立つのはあまり好きじゃないわ。」
こんな時に気の利いたことのひとつも言えない自分が嫌になる。
…でも、アリア様の顔に笑顔が戻ってよかった。
やっぱりこの人には笑顔が一番よく似合う。
その後、無事にローブを購入することができた私達は、ガルシアさんから勧められた宿屋へと向かったのだった。