いよいよ国外ですよ
「アリア様!森を抜けましたよ!!」
「ようやくラズティア王国に入ったのね…。」
何十日も森を歩き続け、そこを抜けた先に見えたのは広大な草原。
やっとグランデール王国から出ることができたのだ。
正確には森の途中からラズティア王国の領域には入っていたのだが、景色が変わらない森の中ではどこが国境かなど分からない。
「それにしても、あれから追っ手に追われることは一度も無かったわね。」
「あの女騎士…、エレン様が手を回してくれたのでしょう。どうやったのかは分かりませんが、次に会う時があればお礼をしないといけませんね。」
国を抜けるまでにあと何回かは追っ手と剣を交えることになると思っていたのだが、拍子抜けするほどすんなりと国外へ出ることができた。
アリア様と話しながら草原を歩いていると話題は今後の事についての話になった。
「ところでセレナ、国外に出たはいいけれどこの後はどうするのかしら?」
「そうですね…、ラズティア王国には魔境の森があるため魔物による被害が多く、冒険者が活躍する場が多いと聞きます。旅をするならば冒険者になった方が色々と好都合ですし、まずは街で冒険者登録をしましょう。」
魔境の森とは、その一帯の魔力濃度が高いため強い魔物が数多く存在し、危険過ぎて森の奥に人が足を踏み入れることができない未だ未開拓の地である。
グランデール王国にも魔物は多く存在するが、魔境の森と隣接するラズティア王国にはその比にならないくらい強い魔物がいるという。
「他国からの逃亡者である私達でもその冒険者にはなれるの?」
「冒険者というのは命懸けの仕事ですからね。いくら人手があっても足りないこの職業は戦える力さえあれば誰でも登録できるんですよ。」
「そう…。私達はそんな危険な仕事をやっていかないといけないのね……。」
ちらりと隣を歩くアリア様を見るとその顔は不安そうだ。
「大丈夫ですよ、アリア様は私が守りますから。一応アリア様にも冒険者登録はしていただきますが、あなたを危険な目には合わせません。」
少しでもその不安を取り除いてやろうと言葉をかけたが、変わらずその顔には不安の色が残っている。
自分も戦わなければいけなくなるのではと怖がっているのかと思ったのだが、違うのだろうか。
「私はあなたが心配なのよ、セレナ。この数日間であなたが強いことは分かったわ。でも、常に死と隣り合わせの職業なんて危険だわ。」
その言葉を聞いて驚いた。
私の事を心配してくれていただなんて、やはりアリア様は優しいお方だ。
「自ら死に行くような危険な真似はしませんよ。不自由なく生活できるだけのお金を稼ぐだけです。ここまできてアリア様をおひとりにするなんてことは絶対にありませんからご安心ください。」
「…そこを心配しているのではないのだけれど…。」
ボソッと呟かれたアリア様の言葉が聞き取れず首を傾げたが、アリア様は構わず歩き続けている。
「このまま行けばいずれ街に到着するはずですし、もうひと頑張りですね。」
「そうね。…本当、屋敷にいた頃に暇つぶしで地図を眺めていてよかったわ。」
「ふふっ、アリア様がラズティア王国の街の位置まで把握していて助かりました。でなければどこへ向かうべきか分からず今頃迷子です。引きこもりも無駄じゃなかったってことですね。」
「……最後の一言は余計よ。」
ムッとした顔のアリア様を見て思わず笑ってしまう。
屋敷で過ごしていた頃に二人でお散歩していた時みたいだ。
穏やかな空気の中、綺麗な草原と青空に囲まれてとても気持ちがいい。
この穏やかな時間がずっと続けばいいのになぁ、なんてぼんやりと考えながら私達はその後もひたすら歩き続けた。