色々あるんですよ
「間違っていたらすまない。…君は、七年前にダーヴォンの屋敷で保護された少女か?」
その言葉に驚きで目を見張る。
………なぜその事を知っているのだ。
「エレン、それって昔あなたが話していた子のこと?」
「ああ、そうだ。…君があの時の少女ならば、ただの侍女である君に魔物を倒すほどの力があることも頷ける。」
ただ一人、話の内容が理解できずにいるアリア様はエレンと対峙する私を不安げに見つめていた。
質問に答えないまま押し黙る私にエレンは話を続ける。
「この顔に見覚えはないか?あの頃は長い髪を結んでいたから分かりにくいかもしれないが、君とは会ったことがあるはずだ。」
太陽が沈み暗くなった森の中では相手の顔はかなり見えにくいが、目を凝らして月明かりに照らされるその顔をまじまじと見つめた。
「……ッッ!!!あなたは、あの時の騎士ですか…?」
その顔には、確かに見覚えがあった。
彼女は屋敷の地下に閉じ込められていた私をそこから逃してくれた騎士だ。
恩人である人とこのような形で再開するとは夢にも思わなかった。
「髪の色が変わっていてすぐには気付けなかったが、まさかこうしてまた出会うことになるとはな。」
そう話すエレンもまた、複雑な表情を浮かべていた。
過去に窮地から救った者と救われた者。
それが今は、追う者と追われる者として対峙しているのだ。
沈黙が場を支配する中、恐る恐るといった様子のアリア様が言葉を発した。
「ダーヴォンって…まさか奴隷商人の…?」
「そうです。アリア嬢が想像している通り、国で禁止されている奴隷を扱ったとして六年前に処刑されたビンズ・ダーヴォンです。」
「!!!…その屋敷で保護されたってことは、セレナは奴隷だったの…?」
エレンの言葉を聞き、悲痛な面持ちで呟かれるアリア様の質問に今度は私が答える。
「……いえ。私の場合は奴隷として売りに出される前に保護されましたから、そうはなりませんでしたよ。」
アリア様に自分の過去を話すのはやはりまだ怖い。
この人に嫌われたくないと思う私はどうしようもなく臆病者なのだ。
アリア様はそれ以上なにも話そうとしない私のそばに寄ると、そっとその身を寄り添わせた。
過去については今さら何の感情も抱いていないのだが、隣から感じる温もりに何故だか泣きそうになってしまった。
「君があの時の少女だと分かり、なおのこと逃がしてやりたいとは思うが立場上それはできないんだ。……すまない、アリア嬢は連れてゆくぞ。」
その言葉が耳に届いた瞬間、足元に落ちていた短剣を拾い上げてアリア様を庇うように立ち、エレンに向かって構える。
──ようやく見つけた私の大切な人だ、ここで奪われるわけにはいかない。
「君のことは生かしてこの森に置いていくと約束した。多少の怪我はさせるかもしれんが、しばらくは気絶でもしていてもらおう。」
戦う姿勢を見せる私に、エレンもまた剣を鞘から引き抜きそれを構えた。