キジちゃん
太郎とワンチャン、モンキーが歩いていると、どこからか
「たすけてー」
という悲鳴が聞こえてきました。
三人があわててかけつけると、せの小さな女の子が、たくさんのくっきょうな男たちにかこまれているのに出あいました。
「たいへんだ」太郎がさけびます。「女の子がやられちゃう!」
ワンチャンが今にも飛び出しそうになったところに、モンキーがさえぎりました。
「ちょっと……よく見なさいよ」
太郎もワンチャンも、モンキーのみょうに冷静な声にわれに返りました。
そして、女の子をよく見ると……
「やめてください!」えりをつかまれた女の子が目にも止まらぬ素早さで、つかんでいた手をきゅ、とひねりました。
「ぎょるぅわわわわわわわがばばば」
手をつかまれた男がこの世のものとも思えぬ叫び声をあげました、と、同時に女の子がつかんだあたりに赤い霧がたちこめました。
赤い霧がどわっとひろがる中、男の手は粉々にくだけちりました。
「うっわ」けっこうグロい光景に、太郎のみけんに思わずしわができます。
女の子はさらに四方八方に飛びまわり、まわりの男どもを次づきと手にかけます。
「ぐゅわぶ」
「ごぺぱ」
おかしなさけびを上げる男たちのまわりに、赤い霧がもうもうとたちこめます。
そのたびに、ふしぎなことに男たちの姿もこなごなにくだけるのです。
あっけにとられて見守るうちに、太郎たちの前ですっかり、くっきょうな男たちは細かいくずの山に変わっておりました。
そしてくずの山のまん中に、肩でいきをついている女の子がひとりきり。
伏せていたおもてを上げ、女の子はみょうに低い声でこうつぶやきました。
「やめてくれ、って言ったよね確かに」
その姿から黒いオーラがまがまがしくたちこめていたせいか
「んっ」太郎はつい、力んでしまいました。
―― しゃらん
大きな桃がうまれ、それは勢いよく女の子の前まで転がっていきました。
ようやく我にかえったような女の子が、ぼんやりとしたひょうじょうで桃を拾い上げました。
むいしきのうちに、口にはこびます。
しゃく。
「……おいしい」
声は、はかなげに小さいものにもどっていました。
女の子がやっと目を上げて太郎たちを見たので、太郎はおもわずおじぎをしました。
女の子も、ぴょこんとおじぎを返します。
それからその子もついてくることになりました。
「きじま、ゆいです」
女の子は小さな声でそう名乗りました。そして続けて
「にじゅう、にさいです」
とつけ足しました。
オンナの年齢ってほんとよくわからない、太郎も、ワンちゃんも、モンキーもそう心の中でつぶやきました。しかし声に出すとじぶんたちも赤い霧になってしまうかもしれないので、だまっていました。
女の子は、なんと呼んでいいのかこまったのでとりあえず太郎は
「キジちゃん」と呼ぶことにしました。