モンキー
ふたりが歩いていると、向こうから、まただれかがあるいてきました。
ずいぶんケバイかんじです。
しかも、じょうきげんに、歌いながらこちらに迫っています。
ワンチャンはすでに、せんとうたいせいに入りました。
この男は、ものごころついてからずっと、たたかうことで生きてきた人だったので、つい、あやしいものにたいして、たたかうしせいを見せてしまうのです。
ケバイ人は、どうも男の人みたいでした。しかし、色とりどりのなりをしておりました。
歌声は、ふざけてうなったりしているところもありましたが、中低音部はつややかにかがやいていて、高音部が高くすみ渡るようでした。ビブラートとかこぶしもぜつみょうです。
青いベリーショートのかみの毛に、金のカチューシャが光っていました。
真っ赤なミニのワンピースにピンクのフェイクファーのえりまきをふわりと垂らし、グリーンのタイツ、カチューシャと同じく金のヒールでさっそうと歩いています。
太郎が思わず、息をのむほどのうつくしさです。
「んっ」
つい、力んでしまいました。そして
―― しゃららららん、しゃららららららら
また、ももがたくさん生まれました。ももはころがって、ケバイ人のところにもとどきました。
「なにこれ~~~!」
ケバイ人はももをひとつ、もうひとつ拾って黄色い叫び声をあげました。そして、こしをプリプリふりながら、太郎たちの方に近づいてきました。
「これ、食べてもいいの~~~ぉ?」
あまりのこうごうしさに、つい太郎は「はい」とうなずきました。
ワンチャンも、どくけをぬかれたように、ぼうぜんと立ちつくしています。
ケバイ人は、ももをひとくち、もうひとくち、たまらずもうひとくち……と食べていきました。うつくしくとがったあごからじゅるじゅると果汁がしたたるのを、もう片手のこうでぬぐいながら、さいごはむさぼるようにももにくらいついていました。
ケバイ人、ももをとても気に入ったようでした。
ねえ、これどうしたら実が成るの? ときいてきたので、太郎はしょうじきに、ぼくがうみました、と答えました。
「しりから?」
「はあ、尻から」
「ケツから?」
「はあ……」少し赤くなって太郎はふし目がちに答えます。「ケツから」
うきききききき、と急にげびた笑い声になって、それからまた、ケバイ人はまがおにもどり、もう片手に持っていたももをじっくりながめます。
「でもさ……味も香りも、極上よね~、それにさ、生むのにとくに、けいひはかからないから、じゅうぶんビジネスになるわ……よしっ」
そしてケバい人も、太郎についてくることになりました。
ケバい人は、猿投リョウシュンと名乗りました。
「でもリョウコと呼んでほしい」
と言ったのですが、太郎はやっぱりめんどうくさかったので、『モンキー』とよぶことにしました。