新学期
夏休みはあっという間に終わり、すっかり変わってしまった生活リズムを無理やり曲げて眠気まなこを擦りながら学校に向かう。
今日は8月25日。
僕は久我山詠翔虹尾高校に通う2年生だ。部活はバスケ部だったが骨折を期にやめた。元々やる気も無く、小中と強豪にいたため高校はのんびりやろうと弱い所を選んだが周りに合わせることに疲れ辞めることにした(それだけが理由って訳では無いけれど)。
そんな自堕落極まりない僕にも友達くらいはいるし、学校生活は楽しい。
「おっはよ!えいと〜久しぶりだな!老けたな!」
「先週遊んだばっかのお前にそんなこと言われるとは思わなかったんだけど。しばきまわすぞ。」
「うっわこっわこいつ、新学期も口悪いですねえお兄さんっ。」
「うっせ、早く教室行くよ。外暑すぎて無理。」
「りょーかいです!お兄さん!」
「だからやめろて。」
このアホは高校の友達で2年で同じクラスになって仲良くなったアホ。名前は中山吹紀。アホだけど人見知りで初めて喋った時は席が隣りになった時で、第1声は「ひっすみませんっ」だったことを未だに馬鹿にするくらい覚えてる。仲良くなるとめちゃめちゃだるいこいつ。。。
そうこうしてる間に教室についた。
「うわっ詠翔みろよこれ。」
黒板には席替えをしますと書かれていた。
「げっ席替え…」
「隣終わっちゃうなぁ。」
「1番前の真ん中でお前と隣で何回注意されたことか…やっと地獄が終わるけれど他の人と隣になると思うとやなんだよな。」
「好きか嫌いかハッキリしてよ傷つくじゃん?」
「お前はもう1回1番前でいいと思うよ。」
巻き添えで怒られんの嫌だし。
「ふっ秘策があるからだいじょーぶなのだ。」
「また女子と交換する気だな。あの子大人しいんだからそういうことして困ってると思うけどなあ。」
「へーきへーき。なかいいし!」
人見知り同士なんかあるんだろうな。まあいいか。
席替えした結果、吹紀は1番前で件の女子生徒はその隣になって僕は窓際の1番後ろの席でニヤニヤしながら吹紀を見ていた。
「ざまぁ無いな。悪は裁かれるのだ。」
しかし僕の隣になった子、喋ったこともないしそもそもこのクラスにいたことすら今日知ったくらい目立たないな。髪はボブで前髪はパッツン、大きな目で横顔がすごく整ってる。名前はたしか高橋美咲だったよな。
ずっとスマホいじってるけど大丈夫なのかこの子。認識してから言葉を発してる所を1度も見てないんだけど…。
僕は女子が隣だろうと割と話かけられる方だけどこの子に関してはイヤホンしてるし無口だし、どうしたらいいのか分からない。とりあえず窓際だから外でも見ることにした。校庭では体育をやっている。
「…ぇ。…ねぇ。…おい。」
「ふぁい?」
思わず変な声が出た。まさかこの無口から話しかけてくるとは思いもしなかったけれど話しかけてくる分にはラッキーかもしれない。
「な、なに?」
「夜、いつも何してるの?」
「それは…どういう?」
「川」
「え、」
「何してるの?」
おいおいおいおいおいおい!なんで知ってんだ???あそこは僕しかいないし周りに人なんていた事なかったはずじゃっっっ!
「何してるの?」
さっきよりも語気を強めてきた。怖…でも元カノが忘れられなくて浸ってるなんて口が裂けても言えないし…
「つ、月を観察するのが趣味でして…あのですね?僕は大学で天文学学びたいんですよ..」
「嘘だ。」
「何故そう思うんですか。」
「だって毎晩俯いて時々泣いたりしてたでしょ。」
こ、こいつ通ってやがった!めちゃめちゃ見られてた!恥ず!消えたい消えたい消えたい消えたい!
「あ、あのですね。ここでは言えません。ごめんなさい…」
チャイムがなった。僕らは始業式に行くため体育館に向かった。その後も避けに避けて何とか放課後まで逃げて無事帰宅した。
家に帰ると僕よりも先に妹がリビングにいた。1つ違いの今の母親の連れ子。義理の妹の奏音だ。去年の6月に随分前に離婚した僕の父親が突然再婚をすると言って連れ子としてやってきたのがこの子だ。未だに距離感がわからず、ほとんど口をきかない上にお互い敬語で話している。
ちなみに離婚前の母親の方には姉が2人いて、今でも時々姉とはご飯を食べに行ったりする。
変わらず僕は無言でオレンジジュースを冷蔵庫から取り出しコップに移して飲み、部屋に向かう。
「今日は3時間だったけど疲れたな…」
「嫌なこと思い出したし、寝るか」
目が覚めると夜の11時になっていた。
LINEが数軒溜まっている。
見慣れない名前が見える。
見えないことにして、もう1度寝ることにした。
着信音が鳴る。切る。
着信音が鳴る。切る。
着信音が鳴る。切る。
着信音が鳴る。出た。出てしまった。
「いつもの時間に出てこないと隣の席でセクハラしてくるって女子のグループに送るからね。」
「なんだか急に外に行きたくなったなぁ!あっはっはっはっはっ!………外道め。」
「…。」
無言で切られた。
僕は重い腰をあげ、家を出る。