婚約破棄されたグルメな怪盗悪役令嬢が異世界でタイムスリップしてもふもふ妖怪とおっさん賢者を従え重課金ダンジョン経営したお金でスタイリッシュな家を建ててスローライフを送る話
その日、西園寺麗子は突然父に呼び出された。
「麗子よ、お前は婚約破棄された」
「何ですって。一体どうして」
「婚約者の伊集院雪彦君は、他に好きな人がいると言って駆け落ちしたそうだ」
麗子は、伊集院雪彦と婚約にこぎ着けるため、ありとあらゆる汚い手を使った。
他に好きな人がいるのは知っていたが、まさか駆け落ちするとは。
しかし、落ち込んではいられない。
麗子には社長令嬢の他に、怪盗という肩書きがあった。
今日は美術館のクリスタル製デザートグラスを盗む予告をした日なのだ。
グルメな麗子は、あのグラスでデザートをいただく事を考え、心を躍らせた。
「お父様、わたくしはこれで失礼しますわ」
麗子はスカートの裾をひらめかせて父に背を向ける。
細身のスーツに仮面を被り、麗子は美術館の中へいとも簡単に入り込んだ。
こんな事は朝飯前、いやデザート前だ。
美しいデザートグラスを前に、麗子はその中に何を詰め込もうかと想像を膨らませた。
麗子はグラスに手を触れる。
瞬間、時空が歪み、麗子は暗闇に飲み込まれた。
悲鳴を上げながら尻餅をついた先は、知らない場所だった。
どうやら自分が今までいた世界とは違うようだ。
だって目の前にもふもふした毛玉の妖怪がいる。
「きみは異世界から来たんだね」
「異世界ですって?」
「詳しい事は賢者から聞くといいよ」
もふもふは、隣のおっさんを毛の先で示した。
「訳あって追われてるんだ。悪いが一緒に過去に飛んでくれ」
むんずと麗子の腕を掴んだおっさんは、もふもふを頭に乗せて何やら呪文を唱えた。
足元に魔法陣が現れ、二人と一匹は次の瞬間三十年前に飛んでいた。
目の前には廃れたダンジョンがある。
「ここまで来たは良いが、これからどうやって生きていこう」
頭を抱えるおっさんに、麗子は言った。
「このダンジョンを使ってお金を稼ぐわよ。あなた達、手伝いなさい!」
おっさんともふもふに手伝わせ、麗子は重課金なくしてはクリアできない難攻不落のダンジョンを完成させた。
麗子の経営手腕は見事なものであった。
「これで左うちわよ。今流行りのスローライフを送るとしましょう」
麗子は、ダンジョン横にスタイリッシュな家を建てておっさんともふもふと住む事にした。
こうして、二人と一匹は幸せに暮らしましたとさ。