8話 世界の秘密ですわ
また短いです。
主人公さんは出てきません。
うふふ、この世界って最高よね。
そんな考えを抱きながらマリー=シス=ルータスは寮にある自室に向かう。
この世界に転生したときは何だろうと思ったが、やがて周囲の状況がはっきりして来るにつれて此処がどこか分かった。
「フフフ、神様も粋なことをしてくれるじゃ無い。私がヒロインなんて」
前世にてマリーがはまっていた女性用ゲーム、それがこの世界の正体だ。(と疑っていないマリー)
そのゲームに出てくる攻略対象は4人
この国の第一王子様である「アルレアン=ファル=フォルスト」。金髪の芯の強いイケメンだ。ヒロインに出会い真実の愛に気付かされる。その後立ちはだかる困難をヒロインと一緒に打ち破りやがてそれが父親である国王にも認められる。
王子と仲の良い侯爵家子息「クリストファー=フォル=ファルトラス」。父親が軍務大臣に就いている軍人の家系。本人も将来は軍の職に就くつもりの赤髪で筋肉質でワイルドな感じのイケメン。ストーリは王子様と同じように困難を克服し(やや力任せな感じで)彼の家に認められる。
「トーマス=フォン=シャスティー」伯爵家子息。父親が宮廷魔法師で自身も魔法を得意としている。そのことを誇っており、将来は国でもトップの魔法シになるだろうと言われている青髪で知的なイケメン。ストーリは同上。ただし魔法主体。
「タール=フォン=ファタス」子爵家子息。文官の家柄で本人も学力が高い。しかしガリ勉では無く眼鏡がにあう黒髪のイケメンだ。ストーリは同上。ただし知識主体。
この4人が攻略対象者だ。それぞれの個別ルートも存在するが現在マリーが行っている出会い系イベントからしてハーレムルートを目指しているのは明確だ。
「あの悪役令嬢の悔しそうな顔なんて傑作だったわ……確か王子様ルートだと戦闘に巻き込まれて死亡だったかしら」
そんなことを考えながら夕日が照らす廊下を歩いていると、前方から誰かが近づいてくるのが分かった。その人物を確認するとマリーは居住まいを正した。
「マリー、良かった、ここにいたのか」
「アルレアン様に皆様も、どうかされたのですか?」
「マリー、様はよしてくれ」
「しかし……」
「それはそうとマリー、今度のパーティーの件だが、是非私にエスコートさせて欲しい」
そう、アルレアンが聞いてくる。
「殿下がこう言って聞かねーんだ。どうだ?」
アルレアンとマリーが話しているところに横からクリストファーが割り込んでくる。
「え、よろしいのですか?」
「ええ、本当は私がエスコートしたかったのですが殿下が是非にと言うのですしね」
さらに反対側からトーマスも会話に加わる。
「まあ、仕方無いね。今回は譲るよ」
そう言ったのはタールだ。皆、マリーにパーティーに来て欲しいそうだ。
「はい、私でよろしければ。」
そう言って、マリーは微笑んだ。
そうして皆と別れたマリーは
「クスクス……ようやくね。駆け足でイベントを消化した甲斐があったわ」
そう言うとにやりと笑った。
◇ ◇ ◇
「アリステラ様、お聞きになりました!」
「あのマリーとか言う女が、次の学園のパーティーにアルレアン殿下直々にエスコートを依頼したとか。アリステラ様という婚約者がいながら信じられませんわ!」
アリステラの取り巻き――リリア達と話すようになってからは少々疎遠になっているが――からそのようなことを聞く。
「かまわない、パーティーなら出席する生徒は皆貴族の子息達だ。そんなところで変なことも出来まい。放っておけ。」
「しかし……」
それだけ言ってアリステラはその場を去った。
先ほどアリステラの取り巻きが言っていたように、マリーは今度学園主催のパーティーに王子のエスコート役として招待されている。誘われただけだというのであれば問題ない。これは学園生なら全員出席できる権利がある。親しい友人なら男女で一緒に出席したり、仲良しグループで参加と言うことも珍しくない。しかし、周囲から漏れ聞こえる声はそれだけでは無い。
曰く、第一王子が一番最初に誘った。
曰く、第一王子がエスコートする。
曰く、他の有力貴族子息からも誘われている。(これは他の攻略キャラのこと)
様々な情報や噂が聞こえてくる。
最近ではマリーを詰問したり、いじめていた者がアリステラの指示だという噂も出ている。アルレアンもそれを信じてアリステラに冷たい目を向けるようになった。
アリステラはアルレアンを慕っていた。その対象に嫌われている。そう気付いた時、アリステラは悲しかった。
最近、リリア等、新しい友人が出来た時には、悲しさが一時的に和らぎ彼女たちと居心地の良さからリリア達と良く居るようになった。
だが、それが王子との距離を広げていく。アリステラの目が無くなったからかどうかは知らないがマリーとアルレアン第一王子との距離は縮まっていく。
王国に破滅が近づく。