7話 オリエンテーションですわ
やってきました。オリエンテーションの日です。今日は全学年が集まり交流を深めようという場です。
さてオリエンテーションと聞いて皆さんはどういった印象を持つでしょうか、社会科見学、公園などへの遠足でしょうか。いいえ、そんな物ではありません。そもそもこの学園の生徒、先生方がいるとはいえ大勢の貴族の子供で外出などしません。徒歩で外出などしようものなら「足が痛い」だの「馬車で行く」だの「日に焼ける」だのと文句を言い出すガキ共が――――ゴホンッ! 失礼、生徒達が続出するでしょう。それに安全面も問題です。この学院の子供達は皆、貴族の子供なので営利誘拐の的になったりと……まあとにかくこの学園のオリエンテーションというのは屋内で行います。
この学園ではそれぞれグループを作り学園の作業室で作品を制作するのです。女子生徒であれば刺繍や造花など、小物や布製品などが人気です。逆に男子生徒は木から木刀を作ったり肖像画を描いたりと色々です。陶器などを造ろうとした方もいるそうです。グループで1つの物を協力して作ってもいいですし、別々に作ってもいいです。
なお交流を深める場ですので、必ず他の学年の生徒とグループを作るように決まっています。人数の上限は決まっていませんが例年大体5~8人ぐらいで一つの作業台を囲むことになります。
私も今日のために気合いを入れ震電特製栄養ドリンクをがぶ飲みしてきましたのよ。
なお、本日はカトレア様とデイジー様と一緒のグループになる約束をしています。
アリステラ様は王子様と一緒のグループになるそうで本日は一緒ではありません。
「よ、よろしくお願いします。」
「お願いします」
同じグループになった新入生の女子2名が挨拶をしてきます。
「そう緊張しなくてもいいよ」
そう言ったのは私たちの一個上の先輩ですね。私たちは先輩1人と後輩2人の計6人のグループです。
「ところで、リリアさんだったかな……その格好は?」
「はい、今日は作品制作と言うことで気合いを入れてきました。」
私ですが、少なからず今日のオリエンテーションを楽しみにしていました。震電に頼んで様々な道具も借りてきました。
まずは作業着に安全靴ですね。シンプルな衣服のようですが何かしらの作業をする際に着るそうです。
カトレア様達の方も準備万端ですね。動きやすい服装に運動靴です。
そのほかにはグラインダーやリューター等の加工機械も持ってきました。そのほかメジャーや金属ヤスリなどを作業用ベルトに挿しています。
各道具類は作業室にあるものを使用してもいいですし自分たちで持ってきてもよいのです。たまにゴテゴテと装飾を施した物を持ってきたりする生徒もいます。
そういえばアリステラ様はどうなったのでしょうか。ちゃんとアルレアン王子とグループになれたのでしょうか。
そう思い周囲を見回すといました。
アルレアン王子、そして周りにいるのは、クリストファー様、トーマス様、タール様の3名ですね。この4人はいつも一緒ですね1部の女子からは男色家では無いかとの疑惑が上がるほどです。
それぞれが動きやすそうな服装をしているようなのですが、よく見ると訳の分からない装飾が至る所に付いています。金や銀の刺繍なんかもふんだんに取り入れられていてお金がかかっているというのが分かりますが……創作活動では汚れるのでは無いでしょうか。絵画などでしたら絵の具が飛び散りますし。
ちなみにこういった場に使用人などを連れてくるのはマナー違反だと言う風潮があります(素材の運び込み等は別ですが)。と言っても絶対にダメというわけでは無く規則でもありませんが、まあ全て使用人任せにしてはオリエンテーションの意味がありませんものね。
「身の程を弁えろ!」
アリステラ様の怒声が響きます。
その声に私たちはビクッとします。ゆっくりとそちらの方を見ると、怒りの表情を浮かべたアリステラ様とそれに対するのはマリー様です。ただ、マリー様はアルレアン王子の陰に隠れおびえているようです。
「あ、あの……私はただアルレアン様と一緒にいたかっただけで……」
マリー様がおどおどとしながらそう言い返します。それを庇うようにアルレアン様が前に立ちます。
「アリステラ、脅すな。彼女は俺が誘ったんだ。」
「殿下、殿下はその者と共に行動すると?」
「ああ、この学園では私達は一生徒だ。別に不思議は無いだろう」
「しかし――」
そう言い合っていると、マリーを取り巻いていた男性陣が前に出てきます。
「オイオイ、あんまり怒るなよ。同じ学園の生徒と親交を深めようと言うだけなんだ。いいだろ」
「アリステラ様、殿下を束縛しすぎでは?」
王子様の取り巻き達は口々にアリステラ様に言葉を放ちます。
その言葉に、周囲の反応は様々です。「婚約者に対して……」みたいな嫌悪感を示す者や、「誰あの子なれなれしすぎない?」とマリー様に疑惑の目を向ける者など。
「わ、私は殿下のためを思って……」
「そう言うのがお節介だって言うんだよ」
「……殿下もそう思われるのですか?」
「ああ、アリステラ様。君は私の婚約者だが学園までその関係を持ち出さないでくれ」
「……分かりました」
周囲や殿下の言葉があり、アリステラ様が最後には納得されたようで、その場は収まったようです。
そうしてありステラ様は王子様グループから離れて行き……あれ? こちらに来ましたよ。
「すまない、こちらに入れてもらえないだろうか?」
「え、あ、ああ、もちろんです。アリステラ様!」
王子様グループには入れなかったアリステラ様がこちらのグループにやってきます。アリステラ様はてっきり王子様のグループに入ると思っていたため、他の取り巻きや、アリステラ様を慕っていた生徒達も既にグループを作ってしまっています。彼女はその中で私達を見つけ声をかけたのでしょう。
私達の所は今更1人増えたところで問題ありません。
◇ ◇ ◇
「はい皆さん、ではオリエンテーションを開始します。各々のグループで何を制作するのか話し合ってください」
そう先生が宣言すると、作業室内がガヤガヤと騒がしくなりました。
「ところでこのグループは何を作るんだ?」
「人物をモデルにした彫刻か粘土細工です。モデルは……誰がする?」
アリステラ様の問いに答え先輩が答えます。そうです。私達のグループは人物を立体で制作するのです。そのための材料も持ってきました。
さてモデルですが、誰も立候補しませんね。まあ自分がモデルになると言うのは恥ずかしいというのもあるのかも知れませんが、ここにいるのは貴族の令嬢達です。勿論彫刻などしたことがありません。なので、不格好な出来になることが分かりきっているのです。
「ふむ、なら私がモデルになろう」
立候補が無い現状を見てアリステラ様がモデルを買って出てくれました。これは不格好に作ることは出来ませんね。
全身全霊を込めて作らせて貰いますよ。
「リリアさん……何やっているの」
「フィギュアですわ」
そう私、フィギュア製作をしています。モデルはあのアリステラ様ですので最高の物ができあがるでしょう。今回は1日だけなので速乾性のパテを使用し大まかな形を整えヤスリやグラインダーで細かい部分を削り込んでいきます。コンパウンドで表面を仕上げ云々――――
――――エアブラシで塗装を行います。サフを吹いた後に色を乗せていきます。一部別パーツとし塗装の邪魔にならないように云々。
そうしてできあがりました。全高40センチのアリステラ様フィギュアです。
「こ、これは何というか……」
「会心の出来だと思うのですがどうでしょうか」
この日のために密かに特訓し震電にOKを貰った腕です。くーるじゃぱん? だそうです。
「ちなみにこれ、キャストオフが可能なのです」
「キャスト……? なんだそれは――ぎゃぁぁぁ! やめろ! 脱がさなくていい」
ドレスの中は想像ですが貴族にしては恥ずかしくないグレードの下着を身につけたミニアリステラ様がいらっしゃいます。
なお、後日男子生徒の一部から売って欲しいとの問い合わせが来ましたのでアリステラ様に確認したら、「売るなよ、絶対売るなよ」と言う答えを頂きました。