6話 見ちゃいましたわ
とある日の放課後です。今日も部活動のために図書館に向かっている途中でした。ふと視界に目立つ人物がいるのに気がつきました。
その人は人目を避けるように中庭にある木々の生い茂っている場所に向かっています。
私はちょっとした好奇心から後を付けてみたのですが、
アルレアン第一王子。その人は人気の無い中庭の木々の生い茂っている場所に向かうとそこには見たことの無い女子生徒がいました。
「マリー、待たせたね。」
「いえ、アルレアン様」
そう言い合うと男女はぎゅっとお互いに抱きしめあいます。
え? ちょっと待ってください。アルレアン王子、あなたアリステラ様と婚約していましたよね。誰ですか、その人!?
「周りがうるさくてね。このような場所でしか会えないのは申し訳ないと思っている」
「いいえ、私はアルレアン様とお会いできるだけで良いのです」
その後はお互いに甘い言葉を吐きながら離れようとしません。
「し、震電、あの方は誰ですか?」
慌ててすぐ近くにいるであろう震電に声をかけます。
『マリー=シス=ルータス。男爵家のご令嬢です。お嬢様の一年下の方です。』
「ど、どうしたらよいのかしら?」
『「どうしたら」との定義が不明です。』
「あ、アリステラ様に報告すべきかしら……」
『不明です。これだけでは状況がよく分かりません。確認、もしくはもうしばらく観察すべきではと提案します。』
「そ、そうよね。浮気と決まったわけではないものね」
ちょっと焦ってしまいましたが、そうですね。確かに何かの勘違いだと言うことかも知れませんわよね。もう少し観察しましょう。
◇ ◇ ◇
あの後、イベリスにも説明し、震電にドローンを学園の各所に配置し浮気調査をして貰いました。
「お嬢様、こちらが調査報告になります」
イベリスが、王子や彼女の調査報告書をタブレットにまとめて提出してきます。それを手に取り確認します。
「ありがとうイベリス。どれどれ」
添付された動画ファイルと報告書形式の文章を見る限り白いところを見つけるのが難しいぐらい真っ黒でした。
アルレアン様と密会していた女性の名前はマリー=シス=ルータス男爵令嬢。小柄で珍しいピンク色の髪を持つかわいらしい方です。今年の新入生で私の一つ下です。
アルレアン様と彼女は頻繁に密会している……どころか、ここ最近は公の場で声を掛け合うようにもなったようです。公の場では他愛ない会話を数回やりとりしている程度ですが、密会現場の写真にはあろうことか、で、ディープなキスシーンまで……あわわ
さらにマリー様に至っては、至る所で違う男性と密会しています。
クリストファー様、トーマス様、タール様と王子のご友人の3人と密会しているところもカメラにバッチリと収められていました。確かこの3名にもご婚約者がいらっしゃったはずです。
もうこれは浮気確定ですわ。
その他にも他生徒の噂話などもまとめられておりました。何でも初対面の王子に対して声を荒げて怒ったそうです。そうしたら「そういった反応は初めてだ」とか何とかで、王子様に気に入られたとか。他の男性達にも端から見れば無礼な行為を働いたそうなのですが、なぜか関心を買ってしまっているそうです。震電は『日本の古き良き女性向けエンターテイメントのようですね』ですって。何のことかしら。
とはいえ、健全なお付き合いならとにかく――いえ、健全でもどうかと思いますが――乱れまくっているのでこれはもうアリステラ様に報告するほか無いでしょう。そう思っていた矢先の出来事でした。
◇ ◇ ◇
どうも、リリア=フォン=セルドランスです。今日も今日とてアリステラ様ご一緒させて頂いたのですが、王子様達が食堂に来たときから雰囲気は変化します。
王子様達――以前に紹介した4人ですね――が食堂にいらっしゃいました。そこでアリステラ様が声をかけたのですが、王子様達は一瞥しただけで他の席に行ってしまいました。まあ、それだけであればまだギリギリ良かったのかも知れませんが、その後にあの令嬢――マリー様がいらっしゃいました。最初彼女はキョロキョロとしてましたが、王子様達が彼女を見つけた途端、
「マリー、こっちだ」
と自分たちの席に呼び寄せました。マリー様も、
「アルレアン様、皆様も遅れて申し訳ありません。」
と言いながら、当たり前のように席に着いたのです。
隣ではその様子をアリステラ様が苦い表情で眺めていました。どうしましょう胃がマッハですわ。
「あ、アリステラ様……」
「いや、かまわない。アルレアン様も年頃だしな」
慌てたカトレア様がフォローしようとしますが、アリステラ様は平静を保って、そう言いました。その後はそれぞれ会話も少なくお茶をしました。
その日辺りからでしょうか。王子様集団とマリー様が一緒にいる姿が散見されるようになりました。
周囲はマリー様に非難の目を向ける者や、関わり合いになるのを避ける者など様々です。アリステラ様は、その様子を目にする度に苦々しそうな目をしてました。
これはもう無理かも知れません。
再び食堂のテラス席にてお茶をしている時です。
「申し訳ありません。アリステラ様、その、言おうかどうか迷っていたのですが……」
「何だ? なにか新しい事でも教えてくれるのかな?」
アリステラ様の少し期待した目が痛いです。なぜならこれからするのは今までの経過報告なのですから。
「こちらをご覧ください。」
「なんだこの板は?」
「タブレットという物です。と、それは今はどうでも良いのです。実はここ最近アリステラ様の婚約者であるアルレアン王子の動向を調査した結果をまとめまして」
「――っ!」
アリステラ様も私が何を言いたいのか分かったのでしょう。顔をこわばらせます。そうして私がタブレットの操作し現在までの浮気の証拠を並べていきます。勿論なぜそのようなことをしようかと思ったのかの説明も忘れません。変に誤解されると厄介ですし、監視というのはお世辞にも褒められた行為ではありませんから。
報告を聞くアリステラ様は終始無言でしたが眉の辺りがピクピクしていらっしゃいます。一緒にいるカトレア様やデイジー様は顔を青くしています。
「そうか……そのようなことまで」
アリステラ様は一通り報告が終わった後にそんな言葉を漏らしました。
暗い、暗いです。周囲はまるでお通夜です。
「すまない。教えてくれて感謝する。殿下には私から言ってみる」
「分かりました」