3話 宇宙船ですわ
視点変更があります。
宇宙探査艦【アマテラス】
超大型宇宙探査艦の5番艦として西暦2242年5月に地球圏を出航。同年9月、遭難し未確認惑星――現地人呼称【フォレスタ】――の衛星に不時着。
現地調査を行うため自立型サポートAI【震電】を投下。1日と経たずに現地知的生命体との接触を果たす。
◇ ◇ ◇
ワタシの名前は震電です。本来サポートAIに固有名詞など必要なかったのかも知れませんが、ワタシを作成した研究者達が格好いいからと付けて頂きました。
ワタシが稼働したのはアマテラスが遭難してから6年近くが経過した頃になります。
私は意図しないワープにより未知の恒星系にワープアウトした後、私の一部が損傷、現在位置の確認と周辺の調査も含め当初最も近くにある惑星に不時着する予定であったが、その惑星が地球型惑星で有り生物の存在する可能性が非常に高かったことから、該当惑星の衛星に着陸しました。
その後、その衛星の資源を使用して艦の修理をしつつ、地球との通信を試みましたが全て失敗しました。現在位置の算出も出来ていません。
対して、平行して行っていた惑星の調査は順調に進んでいます。艦にあった各種観測艇群を放出、惑星を宇宙空間から観測し始めました。その結果、この惑星には知的生命体が存在し、ある程度の文明レベルを維持していることを確認。
外部から惑星を観測するだけであった私は事態の打開のため【震電】を現地に投入することを決定しました。
6年近く経った今、既に私の機能は完全に復旧していますが、現在位置が未だに不明であり、動くことが出来ません。恒星配列より全く未知の銀河系であり帰還は絶望的であるとの計算結果が何度も出ています。地球人類が私を発見するのはいつになるのか……
西暦2248年8月1日、震電は調査対象惑星に到着しました。
その翌日、現地人との接触に成功しました。接触に関しては穏便で有り概ね成功といえます。最初に接触した知的生命体はDNAレベルで地球人類とほぼ同一の存在で有り、パンスペルミア説に通じるものがあります。
現時点で頼る元の無い震電や私にとって人類からの命令というものは、人間で言うところの存在意義の問題、アイデンティティーの損失……等とは比較できないほど大きな問題です。
現地人とはいえ人類と同じ遺伝子を持つ知的生命体というのは非常に重要であり、私はすぐに協力関係を築くことを決めました。また私は接触相手であるリリア様を失った命令系統の上位に据えることで自律意識の安定性を図ることを決定しました。
系統立てて考えればこの時点で私の精神はかなり壊れていたのでしょう。私の維持に必要な機能を残し、その他の権限を震電に委譲、私は外から静かに観測することにしました。
その後、リリア様の支援の元、現地の知的生命体の他、動植物の研究も進められました。幸いなことにリリア様は現地ではそれなりに地位のあるお方であり、各生物種の収集もスムーズに行えました。
同時に、震電が主導し世界各地に回収カプセルを投下、各種サンプル群を採集しています。
その中には地球の動植物とほぼ同じものもあれば全く違うものもあります。中には地球の常識で調査した際に、どうやっても存在し得ない生物さえいる始末です。
この世界には地球には無かった『魔法』と呼ばれる特殊なエネルギー放出現象が確認されています。これについてもリリア様の協力の下、現地人の知識を吸収しその技術体系を確認中です。現在、空間エネルギーの理論値と実測値が異なることから、この差が魔法と呼ばれる特殊な現象を可能としていると考えられるが、既存の観測機器では観測不可能なため早急な観測機器の制作と観測網の構築が待たれます。
その他にもリリア様は地球技術を様々なことに活用したいと考えているため、私は各種工廠やドッグなどの機能を強化中です。輸送用航宙艦等は既に複数がドッグで建造中です。
◇ ◇ ◇
さて私、この半年間何もしていなかったわけではありませんのよ。
成績は錬金術(科学関係)と魔法座学の成績が上がりましたの。震電や部活動のおかげですわね。
「震電の乗っていた船はあの月にあるのですよね。憧れますわ。月には妖精が住むと言う噂もありますわよね」
『よく分かりませんが、月に生物は生息しておりません。それ以前に生物の住める環境ではありません』
「え? いないのですか? それは残念です。ですが一度は行ってみたいものですわね」
『行きますか、お嬢様?』
「え? 行けるんですの?」
『肯定ですお嬢様』
ある日の夜、夜空に浮かぶ満月を見ながらそんな会話をしていました。
「お嬢様、危険です!」
『問題はありませんイベリス。短距離ワープは確立された技術です。』
震電に伺ったところ月にある船――【アマテラス】への移動が出来るそうです。短距離ワープ(正式名称はもっと長いそうです)……転移魔法のようなものであの月へと行けるようですわ。私、ワクワクが止まりません。
「大丈夫ですわ。ちょっと行ってくるだけですわよ。危なくなったら戻ってきます」
「……いえ、簡単に行き来できるような距離では無いのですが」
絶妙なタイミングで部屋にやってきたイベリスに話を聞かれて止められています。が、私もう行く気満々です。もはや誰にも止められませんわ。
そうしてしばらくの言い合いの後、イベリスが折れてくれました。
「分かりました。ですが、私もついて行きますからね!」
イベリスも付いてくるそうです。別に問題ありませんわよ。
そうして私たちは月にある船【アマテラス】へと向かうことになりました。
『では事前に情報をインプットしておきましょう』
「なに――っっっ!! くっ! 震電! 頭にっ! 入れる際は事前に言えとあれほどっ!」
あら? イベリスと震電が何か言い合っています。仲良しですね。
転移魔法……ではなく、ワープして出てきたのは少し広めの部屋です。外の様子など見えませんわ。
ここは船の中、その固定転移室だそうです。どこへでもワープできるわけでは無く、事故などを防ぐためにワープが可能な場所というのが決まっているそうです。確かに急にお風呂にワープされたりしても困りますわね。
『こちらです、お嬢様』
私たちの目の前に浮かんでいた震電は既に壁際に移動しています。と思ったらその壁が開きましたわ。自動ドアです。ボタン一つで開閉するそうです。実物を見るのは初めてです。
『こちらをお使いくださいお嬢様』
そうして扉を出て行った先には広い廊下が広がっていました。ただし廊下の壁はどうやら金属らしきもので出来ているようです。私の知っている木造船とはかなり違います。
そうして目の前には……これも知っています。自動車というのです。以前震電に教えて貰いました。移動手段の一種です。
屋根は無いようでオープンタイプの馬車に似ているような気もします。椅子がちゃんと装備されているのでそこに座ります。イベリスも横に座ります。
そうすると動き出しました。震電が運転しているようです。
移動の途中にこの【アマテラス】のことを色々と教えて貰いました。星々を調査するための船。その全長は100㎞にもなり内部には様々な施設が存在します。
操艦設備や機関室はもちろんのこと、データ保管庫(電子データの他に植物の種子などの実物も保存)、各種工場施設、自己防衛用の兵装格納庫(私たちが以前に乗った【ハウンドⅡ】もここに格納されています)等
また、宇宙探査艦の役目を終えた後は移民船としての使用も考慮されていたらしく、人間の居住区画や食料プラントなどの施設もあるそうです。現在は人間は乗っていないそうですが。
そのほか艦内は全区画が重力区画となっており常時1Gが保たれているそうです。1Gって何です? と思いましたが、何と宇宙では上下が無くなるそうです。その辺りも詳しく聞いてみたいですわ。
やがて、私たちを乗せた自動車は一つの扉の前で停止します。
自動車から降りて目の前にある扉をくぐると――
「うわぁ……」
目の前に広がるのは緑の草や木々等が生い茂り、そして天井には星々がきらめき、そしてひときわ大きい青と緑の星が見えます。
『こちらは本艦のジオプラントです。』
【ジオプラント】――地球の植生を再現した半球状の部屋です。直径3㎞にもなるそこに地球という星の様々な植物が植えられているそうです。小さな森から草原、お花畑など様々な自然が再現されているそうです。見たことも無い花も咲き乱れています。昆虫や小動物などもいるそうです。大型の動物などは頭数管理に問題が有り、いないそうですが。
こういったジオプラントは【アマテラス】に6カ所存在し、それぞれ別の植物が成長しているそうです。
天井はガラス(正確にはガラスでは無いそうですが)張りで宙が見えます。
ひときわ大きく見える緑と青い星が私たちの住む大地だそうです。驚きですわ。青く見える部分が海、緑や茶色に見える部分が大地、そして所々白いのは雲だそうです。
イベリスも空を見上げてポカーンとしています。知識としては知っていても実際に見るとまた違った感情が湧き出てくるのでしょうね。
「凄いですわ! 凄いですわ!」
私は貴族では下品と思われるぐらいに大声を上げはしゃぎます。
だって本当に凄いんですもの。こんな! こんな場所に来れるなんて!
人間こそいませんがそれがまたこの場所の神秘性をあげています。まるで噂の妖精達の住む都みたい。いえ、月には精霊が住むと言う噂があるのでしたよね、ならそれもあながち間違いでは無いのかも知れません。
そうして私は草原を駆け回り――
「ぜぇ、ぜぇ……」
――すぐにバテてしまいました。
「お嬢様、無理をなさるから……」
すぐにイベリスが駆け寄ってきてくれますが、それでも私の興奮は収まりません。バテて息切れしていようともこの感動は。
『お嬢様こちらをどうぞ』
「気が利きますね。お嬢様どうぞ……震電、濁っているのですが?」
『スポーツドリンクです。問題ありません。』
震電がいつの間にか飲み物を持って近くに来ていました。それをイベリスが受け取り私に飲ませてくれます。
あら、水ではありませんわね。何でしょう、飲みやすいですわ。
そうして一通りジオプラントを堪能した後に家に戻りました。今日は夜も遅いですし、そのほかの紹介はまた今度にと言うことです。
ただ、イベリスはアマテラスに行く際は「必ず自分もついて行きます!」と言っていたので私とイベリス、震電の3人でアマテラスを見て回る事になりました。そんなに強調しなくてもイベリスを仲間はずれにしたりはしませんよ。フフフ。
そうして私たちは休日の度にアマテラスへと出かけることになります。
お父様やお母様から休日にどこへ行っているんだい? と聞かれることが何度かありましたが、はぐらかしています。もし、お父様達をここへ招く際はやはり私が案内したいからです。
でも実際には震電やイベリスの方が詳しいのですが。イベリスはこの船の一部ブラックボックスとなっている部分以外の知識を数日掛けて転送されたそうです。
6つのジオプラントはそれぞれ違う気候で植物が育てられています。亜熱帯気候のジオプラントへと行った際には気温の高さですぐにダウンしてしまいましたわ。私達が住む国の夏よりも暑いのでは無いでしょうか。
逆に非常に寒いジオプラントもありました。あんな寒さでも植物は元気に育っています。自然って凄いですわね。
ですが私はやはり最初に見たジオプラントが一番良かったですわ。気候も私の暮らす国と似ていて過ごしやすかったですし。そういったことを言うと何と震電がここにワープポータルとログハウスを建ててくれるそうです。ここで星空を見ながらお泊まりなんてロマンチックですわ。
少し残念なことは、窓から見た月の景色でしょうか。一面灰色の砂だらけでまさに死の大地でしたわ。外(月)のことを震電に教えて貰いましたが、空気が無くて生き物はいないそうです。妖精など所詮夢物語だそうです
人間の居住区画というものを見てみましたが、なんだか味気無かったです。本来は十万人規模の収容人数を誇っているとのことですが、緑が全然無くて無機質な壁や天井があるだけでした。コンクリートジャングルと言うそうです(コンクリートでは無いですが)。この船は移民船としても造られているそうですが、湿度や温度管理など人間が暮らしやすいように造っているとのことでした。こういった所で長期間過ごしたくはありませんね。ただし船として見た場合は非常に快適な空間なのでしょう。船旅と考えれば、なるほど快適な旅になりそうです。
宇宙食というものも食べてみました。見た目は多少彩りに欠けますが美味しかったです。ちょっと味付けが濃いですね。材料を聞いたところこの船の食料プラントで造った物だそうです。
「お嬢様、危険です!」
『毒性はありませんが?』
「地球人にはでしょう。私たちが大丈夫だとは限りません!」
イベリスと震電が言い合いをしている内に口に運びます。
「美味しいですわ。」
「ああっ!」
現在、震電が私たちの大地【フォレスタ】の食料を収集、研究中だそうで、近いうちに私達に合わせた食事も提供できるそうです。
格納庫は凄かったです。【ハウンドⅡ】がいっぱい並んでいる姿は圧巻でした。少し見た目が違うものもあったりと面白かったです。用途が違うようです。
そのほかには戦闘機という空を飛ぶ兵器や、自動車――軍用の大型車両なども多数ありました。それらにもいつか乗ってみたいですわ。
宇宙服という専用の服を着て月の表面に立ってみたこともあります。体のラインが出て少し恥ずかしかったです。イベリスは……何であんなにスタイルがいいのでしょう。宇宙服でそれが強調されていますわ。きぃーですわ!
月の大地は事前に聞いていたとおり何もありませんでしたわ。砂を掬ってみましたがさらさらと落ちていくだけでしたし。ただ聞いていた、体重が軽くなると言うのは本当でした。私でも凄いジャンプが出来ましたわ。宇宙空間という所はこの重力が0になるそうです。そこにもいつか行ってみたいですわ。ただし長期間いると体が弱くなるそうです。あと【アマテラス】を外から見る事が出来ました。改めて大きいですわ。全体が見えませんわ。少し離れてみましたが大きな壁があるような感じでした。こんなものを人が造ったなんて未だに信じられません。
操艦設備や機械室は私が見ても仕方ないので見ませんでした。この船の動力など、一度説明されましたがちんぷんかんぷんでしたし。
そうこうしているうちにジオプラントにログハウスが完成しました。喜び勇んで両親に外泊の旨を告げてそこに泊まってみました。直接ジオプラントへとワープしログハウスで迎える夜。ベッドから見る私たちの大地と言う物も幻想的でしたわ。
更新時間ていつ頃がいいんでしょうね。