2話 キャーですわ
17話ぐらいで完結予定です。
視点変更があります。
高空10000mを高速で飛行する物体が1つ。それは後方から高熱の排気を噴き轟音を立てながらものすごい速さで飛行する。
「イベリスより震電コントロール。現在目的地上空、地上スキャンを開始します。」
『震電コントロール。周辺空域に不明機無し。ゆっくり行って結構ですよ』
機体に取り付けられた通信機でやりとりをするのはイベリスだ。【ハウンドⅡ】と同様の制御システムを採用する本機は自身の手足のように機体を動かすことが出来る。特にナノマシンのインプラント処理を受けた彼女であればこの機体性能を十全に引き出せる。
機体は高度と速度を落とし(と言っても十分高空高速なのだが)、目的地上空を旋回し始める。
「……なぜ私がこんなことを」
『イベリスが引き受けたからです。権力が無いのなら諦めましょう』
イベリスがボソッとこぼした愚痴は震電にバッチリ拾われる。金ランクは冒険者でも最上位であり、難しい依頼などが回ってくる。これもその一環で、他の銀ランク以下の仕留め損なったモンスター(と言うか返り討ちにあった)を退治して欲しいとギルド直々に依頼があったものだ。
イベリス自身は本業はあくまで貴族に仕える使用人だと言って断ったのだが、被害が増えてきていたためギルド長に泣きつかれ、最終的に承諾してしまった。
ちなみに、震電コントロールとは言っても震電が行っているのはイベリスの話し相手でこの程度の任務であればイベリス単独(無論、兵器を使用してだが)でも出来る。ただの気分である。
上空を睨む視線がある。それは大きな音を立てて飛ぶソレを見ながら呻った。大空は自身のものだ。あのようなよく分からないものに渡すわけには行かない。
自身が獲物になっているとも知らない愚か者達は翼を力強く広げ大空に羽ばたいた。
『震電コントロールよりイベリス。目標が地表を離れました。警戒を厳に』
「もう見えています。火器管制、兵装起動、交戦開始」
機体は旋回を取りやめ目標群に機首を向けようとするが対象の速度が遅すぎて上手く機首を向けることが出来ない。
『震電コントロールよりイベリス。その機体は全方位に対し攻撃が可能ですが』
「分かっています。戦果確認のためです。数6。目標固定。FOX-3」
機体性能についてはイベリスも了解していた。それでも機首を向けようとしたのは目視での確認のためであり、単純に機体前方の方が戦果確認を行いやすいためだ。
機体左右に取り付けられた複数のレーダー誘導式のミサイルがパイロンから離れるとロケットモーターに点火、目標に向かってすっ飛んでいく。上空に上がってきた獲物達はただの生物であり超音速で接近するミサイルを躱すすべは無い。数秒の間を置いて上空に轟音が響き渡った。
その後、それ等はバラバラになって地上に落ちていった。
◇ ◇ ◇
「おはようございます。お嬢様」
屋敷にいるメイドの一人が私を起こしに来てくれます。私はベッドから抜け出し伸びをします。その間にメイドは部屋の窓を開けてくれます。
朝の日差しと風が心地よいですね。今は過ごしやすい季節ですし。
「お嬢様、お着替えを」
「着替えは一人で出来ますのでもういいですよ」
「分かりました。ではお着替えが終わりましたら食堂へお越しください。朝食の用意が出来ています。」
そう言ってメイドは部屋を出て行きます。
私は扉が閉まるのを確認すると学園に行くための制服に着替え出しました。
「震電いるのでしょう?」
『はい、お嬢様。何でしょう?』
部屋の壁際、ぬいぐるみが数体並んでいる棚の中から震電がフヨフヨと出てきます。そんなところに隠れていたんですね。でも震電はぬいぐるみに見えませんわよ。だってカクカクのメタリックボディーなんですもん。
「今日は何かあったかしら? それとイベリスが昨日からいないのだけれど?」
『本日は特に予定はありません。イベリスは冒険者ギルドからの依頼で飛竜の処理に向かっています。本日午前中には戻る予定です。』
「まあ、私もそっちに行きたいですわ」
『お嬢様は学園があるので無理です。』
「むぅ~」
頬を膨らまして不本意の意を伝えて見せますが、震電は何も言いません。仕方なく着替えを終わらすと食堂へと向かいます。
さてさて新年度1日目の授業ですね。気合いを入れていきましょう。
――と意気込んでみたものの別段何かイベントがあったりするわけではありません。もう少しするとレクリエーションで新入生と顔合わせをする機会があるそうですが。
日々、授業を受け、お友達と少々おしゃべりをし、同好会で魔法の本を読み、夕方には銃をぶっ放すと言う日々が続きます。
いえ、最近は魔法の本もある程度読み終わってしまったので、震電の故郷の事を色々と聞いている最中です。技術レベルで言えば私達の世界は地球に何百年と遅れているそうですね。ですが魔法という未知の技術もあるため震電にとっては非常に興味深いそうです。
さてさて、そんな日々ですが……こんなことではいけませんわ。今年こそはと意気込んだもの、それはアリステラ様と知り合いになること。彼女は現在でも侯爵家の令嬢ですが、第一王子の婚約者であり将来の王妃候補です。お父様もアリステラ様の派閥と何年も前から親しくしており、私が学園に入学する際には第一王子やアリステラ様にお顔を覚えて頂ければと言っていたのを覚えています。
今まで体が弱いという言い訳を使いあまり自分から動くことが無かったですが、ここは一つ一念発起して――
「リリアさん、リリアさん」
「はい、何です?」
クラスメイトで友人の一人が声を掛けてきます。
今いるのは校舎にある生徒の歓談用の広間です。様々な生徒が休憩時間にここを利用します。ソファーなどが置いてありリラックスするのにちょうど良いからです。教室の椅子は木製で固いですからね。
「今週末のお茶会はリリアさんの家でいいの?」
「ええ、おもてなしさせて頂きますわ。」
そこで話し合っていたのは週末の予定です。激しい運動こそ出来ませんがお茶会などは普通に参加できますからね。
開催するお茶会の予定とその参加者探しです。と言っても本当にこぢんまりとしたお茶会ですが、気兼ねなくお話が出来るので気に入っています。持ち回りでホスト役を決めているのですが、今回は私の番ですわ。
震電も紹介したいですわね。実は未だにお友達に震電のことを紹介できていないので、出来れば次のお茶会ぐらいには。
『ワタシを紹介して頂けるのですか?』
「ええ、お友達には紹介してもかまいませんでしょう。」
『権力者に漏れた場合、お嬢様に問題が起こる場合があるかと思いますが』
「私のお友達はそこまで口が軽くは無いですよ? 皆、貴族の子なのですから情報の重要性は理解している方達です」
『お嬢様が言うのであれば信用しましょう。』
そのような話をしていたところ、急に周囲が静かになりました。何事かと思いましたが、部屋の入り口を見て納得しました。
王子様とその御友人達が歓談の間に入ってきたからでした。
「アルレアン=ファル=フォルスト」第一王子様ですね。金髪のイケメンです。
「クリストファー=フォル=ファルトラス」侯爵家子息。父親が軍務大臣に就いている軍人の家系ですね。赤髪でワイルドな感じのイケメンです。
「トーマス=フォン=シャスティー」伯爵家子息。父親が宮廷魔法師という役職に就いており、自身も魔法を得意としているそうです。青髪で知的なイケメンです。
「タール=フォン=ファタス」子爵家子息。文官の家柄で成績が学年トップだそうです。黒髪でこれまたイケメンです。
大体この4人がよく一緒にいるそうです。何でも幼なじみで非常に仲が良いそうですね。え、なんで知っているかって? 今、震電が教えてくれたからです。
震電ったらもうこの学園の全生徒を覚えているそうですのよ。凄いですね。
まあ、何にせよ全員イケメンですね。不細工は仲良くなってはいけないのではと思われるぐらいイケメンしかいません。女子生徒はその4人組の登場に小さな声でキャーキャー言っています。
「アルレアン、今度のお茶会の件なんだが――」
「ああ、ボクも参加していいかな――」
王子様達もお茶会の予定を話し合っているようですね。やはりこの辺りはまだまだ学生なのでしょう。子息令嬢というものは親が権力を持っているだけで子供自体に権力はありませんし、お金も親からのお小遣いです。公式に友人同士で遊ぶとなるとお茶会ぐらいしかありません。
ちなみに私は冒険者として自分で稼いだお金があります。
さてさて、私も友人達とおしゃべりを再開しようかと言うときでした。
「殿下、少々お話が」
凜々しい声が聞こえてきました。あら、あれは
「アリステラか、何の用だ?」
そう、アリステラ様ですね。今日も凜々しいですわ。対する王子様は何というか鬱陶しいものを見る目をしています。
アリステラ様にそんな目を向けるんじゃねぇ、ぶっ殺すぞ! ――なんてことは淑女である私は言いませんが、自身の婚約者に向ける目では無いと思いますわ。
「次回のお茶会の件です。私の実家での開催を――」
「いや、必要ない」
アリステラ様にかぶせるように王子様が言い放ちました。
「お茶会の話をしていたのでは?」
「そうだが、お前のは堅苦しい。身内で楽しみたいんだ」
「…………わかりました」
それだけ話すと王子様達4人はまたどこかへと行ってしまいました。同時にこのホールにいた女性と数名もいなくなっています。後をつけていったのでしょうか。
そのあとにはしょんぼりとしたアリステラ様が。
少々気まずい雰囲気です。
ここは勇気を出して私がこの空気を払いましょう。そのぐらいやってのけて見せましてよ。
座っていたソファーを立ち上がりアリステラ様の元へと向かいます。アリステラ様は未だ気付いていないようで、王子様達の立ち去った方を見ています。
「あの、アリステラ様」
「ん、誰だ?」
「失礼しました。私、リリア=フォン=セルドランスと申します。……あの、週末のお茶会の件なのですが、もしよろしければ、アリステラ様も私たちとご一緒にいかがですか?」
周囲はザワッとなり、アリステラ様の方も驚いていらっしゃいます。友人も「ちょ、ちょっと……」等と声を掛けてきますが
アリステラ様自身も自分が誘われる側に回るとは思っていなかったのか、少しビックリしていたようです。
「セルドランス家の……あ、ああ、考えさせて貰おう」
それだけ言うと、アリステラ様は広間を後にしました。
後に残ったのはほっとした空気だけでした。
「ちょっとリリアさん、私ヒヤヒヤしたよ」
「私も」
「ごめんなさい、でも仲良くなるチャンスではなくて?」
「……なんだか積極的になった?」
主要人物達がいなくなったので周囲は自然と以前の空気を取り戻していきました。
さて、アリステラ様をお茶会に誘ったわけですが、何とその日の夕方にご本人より参加したいと伝えられました。
キャー♡ ですわ!
マスターアームオン! とかフォックス3! とか言ってみたかっただけ。