1話 春ですわ
皆様ごきげんよう。私、リリア=フォン=セルドランスと申します。
ただ今、目の前で修羅場が繰り広げられております。
「アリステラ=フォル=バルトシェル! お前との婚約はこの場で解消するっ!」
エルストン王立学園、その大広間での出来事です。ここには今日、学園主催のパーティーを楽しむため集っています。かく言う私も伯爵家の令嬢として着飾り、パーティーで出る料理を楽しみにしていました。
そこで周囲に聞こえるような大声で……いえ、周囲に聞かせたいのでしょう。大声で宣言する方がいます。普段の格好良いお姿からは想像できないほど怒っているようです。ちなみにこの国の第一王子ですね。
さらにその周囲には複数の男性がいます。いずれも名門貴族の男性達です。
「なっ、何を言っているのですかアルレアン様!」
先ほどの宣言に声を荒げる女性がいます。アリステラ=フォル=バルトシェルと言う侯爵令嬢です。ちなみに先ほど声を荒げていた第一王子――アルレアン様はアリステラ様の婚約者であります。
アリステラ様はその場に膝を付き、何を言われたか未だに分かっていないという顔をされております。対する王子様は怒ったような表情でアリステラ様を見下ろしております。さらにその第一王子や周りの男性方の陰に隠れるように一人の女性がいます。確かあの方は……
「お前がマリーにしてきた嫌がらせの数々、俺が知らないとでも思ったか!」
……そうそうマリー様でしたわ。男爵家の令嬢でしたわね。少し前から王子のそばでよく見かけるようになった女性です。
「そのような卑怯者と俺が婚約者など虫唾が走る。俺はこのマリーと婚約する! マリー」
そうパーティーに来ていた皆様の前で宣言なされると、マリー様の肩を抱き寄せます。
一方、婚約破棄を宣言されたアリステラ様は未だに呆然としてその場から動こうとしません。
周囲の方々はその光景を遠巻きに見つめるだけであり、誰一人として近寄ろうとしません。
しかし困りましたわ。私、何を隠そうアリステラ様の派閥の一人なのです。“取り巻き”と言うそうです。
なぜこんなことになったのでしょうか?
◇ ◇ ◇
皆様ごきげんよう。私、リリア=フォン=セルドランスと申します。え、二回目ですって? そうでしたっけ? ウフフ
隣国が奇襲的に攻めてきてボコボコにされて帰って行くという『セルドランスの悪夢』から半年以上の時が経過しました。
あの様々な経験をした夏以降、私の世界に彩りが戻ってきたようです。より一層勉学に身も入ろうという物です。しかしながらそういった決意は往々にして長続きしない物ですね。未だに私の成績は学園で真ん中ぐらいです。
文明の進み方が違いすぎるのでしょうか。各学門の専門的な知識など知っていてもこの地では学者で無いとそこまでの知識は必要ありませんので。
金クラスの冒険者となった私ですが平日は学園がありますので、冒険者としては活動しておりません。とは言ってもそれはそれで楽しいのですけれども。
あと、私、体が弱いからと今まで帰宅部でしたが、新たに『魔法研究会』なる部活動――は無理だったので同好会を設立しました。部員は私だけです。お友達にも声を掛けたのですが「何をやるのか分からない」と遠慮されてしまいました。
この『魔法研究会』は震電がこの世界特有の「魔法」という現象を知りたいと言ったために作った物であり、学園にある図書館で魔法関係の本を読んでそれをレポート形式で纏めていくのが主な活動です(その際、震電も光学ステルスで隠れて魔法書を読んでいます)。
あ、震電というのは地球という所からやってきたサポートAIとか言う種族だそうです。正八面体のカクカクボディーの頂点にカメラアイを持っており金属っぽい外観をしています。あと他2カ所の頂点からウネウネの触手を出したりしまったり出来ます。
あと、私、体の弱さを魔法で補って冒険者をやっていると言う設定だそうなのですが、実は魔法の成績も真ん中ぐらいで特筆すべき物がありません。まあ、今まで周囲に疑問に思われたことも無いので良いのでしょう。
それと、お父様に頼んで射撃練習のために屋敷の地下室を整備して貰いました。一時は庭で行っていたのですが、周囲の家から苦情が来たので、地下室で行うことになりました。
――入学式当日
さてさてそんな私ですが、季節も巡り今年も新入生が入ってくる季節になりました。ちなみに私も15歳になりました。
そして新年度、学年も一年上がり、私の後輩となる方々が入学されてきました。
大講堂に全学年が集まり席に座っています。非常に大勢の生徒の中、私は真ん中ぐらいに座っています。一番前にある壇上では学園長によるこの学園の理念などの話が終わり、続いて在校生代表の挨拶なのですが、
あら? 本来は在校生代表は最高学年から選ばれるはずなのですが、なぜか今年は私と同学年のアルレアン=ファル=フォルスト様――この国の第一王子様です――が行われていますね。アルレアン様は綺麗な金髪に整った顔立ちのとても素晴らしい王子様だと聞きます。私自身は知り合いでも何でも無いので噂でしか知らないのですが、外見に関してはなるほど噂通りですね。
「凜々しいお姿ですわ」
そういった声が聞こえてきました。誰が発した言葉かは分かりませんが、確かに王子様は女性から見れば、顔が良く成績優秀、社会的地位もあると文句無しのお方です。あちらこちらから似たような声が聞こえてきました。
しかしながら私はあまり好みではありません。私の好みは…………恋をしたことが無いのでよく分かりませんが王子様のような人では無いみたいですね。確かに格好いいと思いますが黄色い声を上げるほどでは無いです。
この王子様も良く聞く美麗字句を並べていますが、私、飽きてきました。
ふと興味本位で辺りを見回してみると、男子生徒は熱心に聞いている者はごく一部で他は退屈そうにしています。堂々と眠っている方もいらっしゃいますね。
逆に女子生徒は獲物を狙う肉食獣の目で壇上の人物を睨――ゴホンッ! 見ていらっしゃいますね。
あ、アリステラ様がいらっしゃいますわ。アリステラ=フォル=バルトシェル様、バルトシェル侯爵家の長女にして成績優秀、容姿端麗という完璧な方です。かく言う私も密かに憧れています。あの綺麗に整えられたストロベリーブロンドの髪、キリリとつり上がった意志の強い瞳。ああいった強そうな女性に憧れるのは私の体が弱いからでしょうか。
何度かお茶会に招かれたものの、一言二言交わして終わってしまっています。今年こそはお近づきになりたいものですわね。
そんなことを考えていたら王子様の挨拶も終わり、その後は新入生代表の挨拶となりました。今年の新入生代表は眼鏡を掛けた、いかにも頭の良さそうな男子です。その男子生徒が入学できた喜びや今後の抱負などを語っていきます。ただ、あまり興味は無いので聞き流しますが。ああ早く終わらないかしら。
入学式のあとは各クラスに行き今後の予定などを聞き、今日は解散です。尚、クラス替えのようなものはありません。そのため周囲は見知った顔であふれています。
「リリア様、今年もよろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそ」
特に去年から親しくしている方々か声を掛けてきてくれます。今年もよろしくお願いしますわ。
そうして今日のスケジュールが終わると、学園内の図書館に行き魔法研究会の活動です。と言っても以前言ったように本を読むだけなのですが。
「私、部活動というものはもっとワイワイとやるものだと思っていましたわ。」
『ならば、新入生を誘ってはいかがですか? お嬢様』
「そうですね。それもいいかもしれませんね。」
私、部活動というものはもっと熱血! 友情! 達成感! とかがあると思っていましたが、現実は一人で本を読みまとめるだけです。ちょっとつまらないですわ。
あ、ちなみに今日もすぐそばに震電が隠れていますのよ。
まとめるのは簡単です震電に頂いたチョーカーによる機能、コンピューターなる物で素早くまとめられます。ブラインドタッチも出来るようになりましたのよ。
その機能は素晴らしく実際に体を動かさなくとも、PC上で大体のシミュレーションが出来てしまいます。とはいえ基本プログラムは魔法の無い世界の物なので、魔法に関してはカバー範囲外でしたので今必死にサンプルを集めている状況ですわ。
以前このPCの文章作成ソフトを使用してレポートを提出したら不正を疑われました。私達の住む世界では印刷技術は未だ個人では使用できないからです。結局手書きで書き直す羽目になりましたわ。
そうして学院から帰ると着替えて夕食までの時間を、射撃練習等をして過ごします。
パンッ! パンッ! と軽快な音が地下室に響きます
『お嬢様 ハズレまくっています。お疲れなのでは?』
「そうかも知れませんね」
今日は早く寝ることにします。