プロローグ
一年ほど前に投稿したヤツの続き? 第2部? とかそんな感じ。
少し未来。日本主導により製造された宇宙探査艦【アマテラス】が地球圏を出航。
その後の重力断層に捕まり意図しない星系へのワープを行ってしまう。帰還の道を閉ざされた【アマテラス】は近くに存在した地球型惑星への調査のため支援AI【震電】を投入した。
惑星に投下された【震電】はすぐに現地住民と接触を果たす。そして現地住民であるリリア=フォン=セルドランス及びその侍女であるイベリスと良好な関係を築く。
【震電】はこの惑星の情報収集を、リリアは地球の科学でヒャッハーするため、お互い協力し合うことを了承。
その後、リリアは地球の科学によりドラゴンを倒して金クラス冒険者になったり、隣国の侵略を退けたりして勲章を貰ったりと大活躍していった。
◇ ◇ ◇
パラララッ! という軽快な音共に吐き出された弾丸が10m先の人型の的を射抜く。
セルドランス伯爵家が所有する王都の邸宅の庭でその家の令嬢であるリリアがPDWを構え的に向けての射撃練習を行っていた。
リリアは生まれつき体が弱く、激しい運動が出来ず、また力も同年代に比べ劣っていた。そのためサブマシンガンならばともかくアサルトライフルは保持するのがやっとの状態で射撃などしよう物なら1発撃っただけで後ろに倒れ込むだろう。
そのため“震電”がより軽いPDWに属する火器の中から小型で扱いやすい物を選び彼女に持たせることとなった。そのPDWですら力の無さから移動しながらの命中はほとんど期待できない。
それと彼女であればハンドガンの方が扱いやすいのだがストックの有無よる命中率の問題のほか、本人による「フルオートで打ちたい」という希望があっての物だが。(なおハンドガンにもフルオートで打てる物があるが保持性の問題で彼女が使うと命中率がひどいことになる)
リリアの病気は現時点の地球の科学、そして【アマテラス】にある施設を使用すれば完治させることが可能である。
しかし先天性の遺伝子欠陥のため、修復しようと思ったら【アマテラス】にある医療施設の治療用カプセルの中で2~3ヶ月ほどの時間をかけたものとなる。仮にも伯爵家令嬢が目的は明かせないが2ヶ月以上行方知れずとなればどうなるか。体は健康になるかもしれないが、社会的に問題がある。
さらに彼女はそれなりの地位の人物であるので幼い頃に有名な医師による診断も複数回受けており、結果、彼女が不治の病であることはある程度知れ渡っている。それが完治したなどと分かったら事情を根掘り葉掘り聞かれる可能性がある。
以上の理由により彼女の治療は現状保留となっている。
「お嬢様、旦那様が呼んでおられます」
しばらく射撃の練習をしているとリリアに声を掛けてくる者が居た。リリア付きのメイドであるイベリスである。彼女は伯爵令嬢専属従者という立場でありながら奴隷の出身と言う珍しい過去を持つ。見目は非常に麗しい女性である。
「あら、お父様が? 何でしょうか?」
「おそらく昨日の戦闘のことだと思われます」
久しぶりの父親との再会、それが呼び出しという形であったことに疑問を持つリリアであるが、イベリスの方はなぜ呼び出されたか知っているようだ。
「私も同席するようにと言われています。」
「そうなの? まあ、早く行きましょうか。あまり待たせるわけにも行きませんからね。」
リリアはそう言いながら持っていたPDWのマガジンを抜きボルトハンドルを引きバレル内の弾を抜くと安全装置を掛ける。そうして何者かに預けるような仕草をするとそれがスッと宙に消えた。これは彼女の持つ魔法……では無く“震電”の持つ短距離転移の技術である。首に巻かれたチョーカーによる脳波制御技術の一部。れっきとした科学技術の産物である。
そうしてリリアはイベリスを伴い屋敷に入っていった。
◇ ◇ ◇
屋敷に戻ったあとお色直しをして伯爵――父親の書斎を訪ねるリリア。すぐ後ろにはイベリスが付き従う。
やがて一つの部屋の前に来ると、リリアが扉をノックする。コンコンという軽い音が鳴りしばらくすると「入りなさい」と、部屋の中から声が聞こえてくる。
なお、扉越しにこれだけはっきりと声が聞こえるなんて、この部屋の防音はどうなっているのであろうと、とりとめも無いことを考えるリリア。
まあそんなことを考えても仕方が無いので「失礼します」と断ってから扉を開き中に入る。
室内にいたのは、大柄な男性であった。
「元気そうだな、リリア」
「お父様もお元気そうで何よりです。」
室内にいた大柄な人物はリリアの父であるセルドランス伯爵である。元々セルドランス伯爵は武門の家柄であり彼――セルドランス伯爵も軍人として恵まれた体格をしていた。
そんな父親が自身のデスクに腰掛け難しい顔をする。
「お前を呼び出したのは他でもない。先日の件だ。」
「……先日?」
リリアはよく分からないといった風に首をかしげる。それもそのはずであり、震電と出会ってからのリリアは短期間で色々とあり、先日という言葉だけでは何を指すのかが全く分かっていなかったからだ。
「おそらく、1週間前の隣国との戦闘のことであると思われます。」
そっと、耳打ちしてくれるイベリスに感謝し、「ああ、アレか」とリリアは思い出す。アレは非常に得がたい経験だった。宙か見下ろす己の住む大地。その壮大さと言ったら無かった。自分がとてもちっぽけな物に思えた。大地の偉大さと言ったら――
「――おい、聞いておるのか?」
「あら、すみません。少々思い出に浸っておりました。……それで、先日の件ですが、それがどうしたのでしょうか?」
「いや、どうしたというかな……アレは何だ?」
「アレは何と申されましても……どれでしょうか?」
リリアは再度首をかしげる。アレと言われても困る。どれだ?
勿論、アレとは戦場に投入された【ハウンドⅡ】と呼ばれる人型兵器のことで、アレの挙げた戦果でありアレの持つ力である。
「はぁ……イベリス。頭の良いお前なら分かるだろう。陛下から詳細な戦闘報告書を提出するように言われているのだ。」
伯爵はリリアに聞くことを諦めイベリスに説明を求める。勿論イベリスには伯爵の聞くアレやその他の真意についても理解している。だからこそ、
「理解しております、旦那様。アレは……そうお嬢様の持つ魔法、それで作り上げたアイアンゴーレムです。」
「……いや、あれアイアンゴーレムじゃ無いだろ!? もっと違う何かだったろ!」
しれっと嘘を述べるイベリスに伯爵はつい大声を出してしまう。
「おそらく旦那様は疲れていらっしゃるのです。どうしてあのような物が魔法以外で存在しましょうか。そう、あれらは魔法に目覚めたお嬢様が使用された魔法であったのです。」
ばばーん! と言う効果音が付きそうなぐらいごとにすっとぼけるイベリス。しかし今あれらのことを知られるわけには行かない。この世界の文明レベルではあれらは争いの元であり、戦争のネタになり得る代物であるのだ。
なので、イベリスはごまかすことにした。アレは魔法である。ちょっと強い魔法使いになったお嬢様が敵を混乱させて自滅に追い込んだのである。そう言う筋書きである。
「詳細な報告書はこちらに」
イベリスが伯爵の前に進みデスクに紙の束を置く。こんなこともあろうかと作っておいた先の戦闘における偽の報告書だ。
伯爵がペラペラとその報告書をめくる。矛盾点など存在しない完璧な報告書だ。ただ一点、目撃者が大勢いたと言う点を除けばの話であるが。
「いや、まあ、辻褄は合うのだが……絶対こんな状況じゃ無かっただろ!?」
「何をおっしゃるのですか。旦那様、疲れていらっしゃるのでは?」
「いや、だって……」
「疲れていらっしゃるのでは?」
「でも……」
「魔法ですよ。そうでしょう? その方が皆さんが幸せになれます。」
「……う、うむ、……そうだな。」
やがて伯爵が折れた。
もっとも伯爵は恵まれた体型であるし軍人として国のために働くことは苦には思っていない。しかし性格的には平凡なのだ。戦場で武功をあげるよりも部下を死なせないことの方を優先する。その程度の男なのだ。問題は少ない方が良い。
結果としてイベリスの作った書類を元に伯爵が特筆することの無い平凡な報告書を作成し王宮に報告することになる。
その結果、リリアとイベリスはさすがは金ランクの冒険者であり優秀な魔法使いだと言う、ある意味、普通の評価を受け勲章と報奨金を受け取ることになった。
ちなみに、リリアは魔法使いとしては平均より少し下程度である。