世界の法則 後編
説明が判り難かったので、書き直しました。
ちょ、ちょっと待ってください。
湖の中心で亡霊って何ですか?
「カルーノが亡霊になったのは彼が作った物の影響だよ。
その理由を知るのは、ヴィンフリート・ジンネマンの時代になってからだ。」
“ヴィンフリート”?新しい転生者ですか。
カルーノからどのくらい時間がたったのですか?
「大体、100年前後かな。
“ヴィンフリート”、仲間から“ヴィン”と呼ばれるその男が
湖の噂を聞いた時から話は始まる・・・」
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俺の名は“ヴィンフリート・ジンネマン”。
世界を旅する冒険家だ。
世の中、平和な物で、
人類抹殺を目論む魔王も、
世界征服を企む邪悪な皇帝も
存在しない。
全て俺の爺さんや父さんが倒してしまった。
だからと言って冒険者の仕事がなくなったわけではない。
各地には未踏破の遺跡は残っている。
辺境には狂暴な魔獣に苦しめられている人々がいる。
世の中はまだ冒険者の手を必要としているのだ。
かくして俺は武者修行の一環で世界を巡る旅をしていた。
旅の仲間には、幼馴染兼恋人のフレデリカ、
冒険者学校時代の先輩であるパメラ、
旅の途中で契約したドワーフのフレヤ、
この四人で旅を続けていた。
そんな俺達は一日で消えた都市の話のある湖、
フォールムーン湖で船を動かしていた。
この湖は珍しいことに真円に近い形をしている。
俺たちがここに来たのは、2,3日前に立ち寄った宿でこの湖の話を聞いたからだ。
何でも、この湖の真ん中には時々亡霊が出て、解らない言葉を話すらしい。
その言葉と言うのは
<おれの・・・・ないねん・・・どこ>
それを聞いた瞬間、俺は思った。
これは日本語だ。
湖の真ん中に立つ亡霊は日本人転生者、
しかも“ないねん”と言う言葉からすると大阪人に違いない。
同じ転生者で元日本人の俺なら亡霊の言葉が判るだろう。
でも、何が無いのだろう?
それが亡霊を成仏させる手がかりだと思う。
俺たちは亡霊に会うため、湖の中央に向けて船を進めた。
亡霊は大阪人・・・そう考えていたことがありました。
結論から言うと、大阪人ではなかった。
”無いねん”じゃなく”内燃”
エンジンの事だった。
水見の中央から戻った俺は湖畔のキャンプ地、
馬車の中で亡霊について考えていた。
彼の作り上げた内燃機関は”大型発電機”大きさも家ぐらいの物。
その発電機を動かした瞬間、真っ白い光に包まれて、
気づいたら湖の中心に立って?いた。
その上、この場所から動くことができないようだ。
白い光と言う事に俺は引っ掛かりを覚えた。
かく言う俺も、自分の記憶と記録から内燃機関、小型発動機を作ったことがある。
起動したところ発光を伴い爆発し、庭に丸い池ができた。
そして、亡霊がいる湖は”フォールムーン”と言う名前の通り丸い。
これは偶然の一致ではない。
規模が違うが、どちらも同じ内燃機関の爆発だ。
家ほどの大きさがあったため、都市一つを巻き込んだのだろう。
だが、その原因は何だろう?
亡霊はプロのエンジニアだったらしく、
転生前に作ったことのある物を参考に作り上げたと言っていた。
そして俺が作り上げた発動機も記録にある設計図を参考に作ったものだ。
どちらも転生前の世界ではちゃんと動いていた物である。
では何故爆発したのか?
転生前の世界と今の世界の違い。
転生前の世界にあって、今の世界にない物
もしくはその逆。
「ヴィン何をしてるの?
少し暗くなったから明かりを点けるわね、
光よ辺りを照らせ、灯火!」
俺の様子を見に来たフレデリカが灯火の呪文を唱える。
この世界は暗い中、懐中電灯や電気のスイッチを探す必要がない。
魔法は便利なものだ。
・・・・・・・・・・
そう、魔法だ。
転生前の世界に魔法は存在しない。
内燃機関は転生前の世界の物。
魔法の影響はない法則、
四つの力、
“重力”、
“電磁気力”、
“強い力”、
“弱い力”
で成り立っている。
この世界の物は魔法の影響を受ける。
つまり、四つの力に加えて第五の力として
“魔法力”(便宜上こう考える)
が存在する世界なのだ。
これは四方向のベクトルで成り立っている物に
別方向のベクトルを加えた状態になると言えばわかりやすいだろうか?
そして、魔法力は人の意志だけが操作できる力ではない。
自然に発生する魔法現象がその例だ。
植物が巨大になったり、巨大な島が空を飛んだり、
全て自然に発生した魔法現象なのだ。
魔法力は植物の巨大化に見られるように、
物が持つ力を強める働きがある。
それらを考えると、
魔法の力が燃焼と言う酸素と油の結合を過剰に進めた。
これでは暴発するのも無理もない。
「ヴィンどうしたの?何か思いついたような顔をしているわよ。」
「ああ、フリッカ。
発動機の問題点と都市が消えた理由が判ったんだよ!
詳しくは食事をしながら話そう。」
俺の話を聞いたパメラは驚きの声を上げる。
「えぇ!
じゃあ、都市が消えたというのは、
亡霊”カルーノ”が生前に作った”ないねんきかん”が原因なの?!」
「そう。魔法力を考慮していない機関だったから暴走したんだ。
その結果、都市を飲み込む爆発になった。
フォールムーン湖が真円に近い形なのはその為だよ。」
「そうかぁ。
でも、この事は公にはできないわね。」
「何故?何か問題でも?」
パメラはため息をつくと、
「ヴィン君、国や貴族連中に関してもう少し覚えておくべきね。」
確かに俺は国や貴族連中に関してあまり記憶していない。
だが、パメラがため息をつくほどの事だろうか?
「カルーノ王国国王はオットー家の出身よ。」
パメラの話によると、オットー家は王都が無くなった混乱の最中、
王国の名乗りを上げたのだそうだ。
亡霊の話はカルーノ王国にとって、その王権を揺るがすことになりかねない。
「これは墓場まで持って行く案件だね・・・。」
そう言えば、魔法で鉄をヘリウムに分解して極寒にするとかしているのを見たことが無いなァ。