転生は五歳から 後編
生まれてから半年、
俺はすくすくと?成長していた。
主に魔法が。
今ではほぼ全ての呪文を無詠唱で使える。
特に光操作による遠方視はお手の物で、
念動を利用して台所からリンゴを取って来ている。
何故か?
流石に食事が母乳だけなのは飽きるのである。
それに俺は牛乳があまり好きではない。
始めのニ、三日は我慢して飲んでいたが、やはり好きになれない。
と言うわけで、
ジュースにする為、リンゴを取って来ていると言うわけなのだ。
思い出せばこの半年、結構色々なことがあった。
音声は最初の頃よりもずいぶん上達し、
子供の声に聞こえる音を出すことが出来る様になった。
無理やり動こうとして首の骨がおかしくなったのはいい教訓だ。
その為、この半年間は無理な運動を控えていた。
両親の話によるとそろそろ“ハイハイ”をする頃だそうだ。
俺もようやく動けるという事か。
よしやるぞ!!
と、喜び勇んで動こうとするが・・・
動けない。
と言うか、力が入らない。
思ったよりも力が無い様だ。
仕方ない、念力で動きを補助することにしよう。
だけど、力が出ないのは非常に不便だ。
まともに体を動かすことも出来ない。
筋トレでもするか。
いくら何でも赤ん坊が筋トレなんてするはずが無いから、
気付かれないようにする必要がある。
起きている間では気付かれてしまう。
という事は寝ている間か・・・
筋肉は負荷をかければよかったな。
うむー
・・・・・・
そうだ!
良いことを思いついた。
重力を強くすれば解決だ。
強さは1.1倍から様子を見て徐々に強くすればいいだろう。
おっと、そろそろ母上がやって来る時間だ。
ベッドで待っていなければ。
俺は急いでベッドに戻った。
ついでに光操作で母上の姿を確認しよう。
おや?
今日は父上も一緒か・・・
他にももう一人いるぞ。
父上が司祭様と言っている所を見ると僧侶の様だ。
何だろう?
司祭様と言われた男は部屋に入ると俺の傍にやって来る。
そして、指先に光を灯した。
司祭は光の灯った指先を俺の顔の前で左右に揺らす。
次に指を鳴らしたり、手を叩いたりしていた。
その後、両手足や体を触り大きく首を振った。
「残念ながらお坊ちゃんは見えていないようです。
耳も聞こえない可能性があります。
また、手足の力も弱い。
首も座っていません。
満足に成長なさることは無いと思われます。」
それを聞くと母上は両手を顔に当て泣きだした。
その母上を父上がしっかりと抱きとめる。
「ごめんね、チャールズ。
私が元気に生んであげないばっかりに・・・」
「奥よ、泣くな。
我輩にも原因があるかもしれぬのだ。
だが、チャールズでは我が家は継げまい。
廃嫡を考えねば・・・。」
なんだってー!!
父上から驚愕の発言が飛び出した。
廃嫡って言うと俺がこの家を継げないという事じゃないか。
冗談じゃない。
何のためにポイントを使ってこの家に生まれてきたと思ってるんだ。
よし!ここは練習の成果を見せる時だ!
俺は空気を震わせて音を出した。
「チチウエ、ハハウエ、モンダイアリマセン」
よし、
いい感じに子供の様な声が聞こえたはずだ。
次は・・・
「何!何かいるのか?
もしや悪霊?!」
「ひぃぃ!!」
父上も母上も見上げ驚愕の表情でこちらを見ている。
悪霊?
今の声を悪霊と勘違いしたのか、早く誤解を解かねば。
そこで俺は念動で体を持ち上げる。
リンゴよりも重たいが、念動の効果でゆらりと持ち上がった。
「イヤダナ、アクリョウナンテ、ボクデスヨ。
チャールズデス。」
「「「!!!」」」
「チチウエガ、ハイチャクトイッテイタンデ、テイセイシテモラオウト・・・」
「・・・黙れ!」
「オゥウ?」
何故父上が怒号を上げるのだ?
「悪霊!息子を返せ!!」
悪霊?
父上は俺を悪霊と勘違いしているのか、
これは弁明しなくてはならない。
「チガイマスヨ。ワタシハアナッタノムスコノチャールズデスヨ。」
「黙れ!
幼子が、“廃嫡”や“訂正”と言う言葉を知っているはずが無い!
まして我が子は耳が聞こえ無いのだ。
お前はいったい誰だ?!」
どうも話が通じていない様だ。
“廃嫡”や“訂正”と言った単語を知っている理由を話す必要がありそうだ。
「イヤダナァ、チチウエ。
ボクハウマレタトキカラボクデスヨ。
イセカイカラテンセイシタノデ、
タショウコトバヲシッテイルダケデスヨ。」
俺の言葉を聞いた父上は絶望に満ちた顔をした。
そして
「何という事だ・・・
初めから・・・
初めから異界の者に乗っ取られていたのか!!」
そう言って父上は剣を構えた。
「許せ、チャールズ。
お前を救えない不甲斐ない父を。」
そう言って父上は剣を振りかぶり、
一刀の元に俺を切り捨てようとした。
ガキィィィィィイン!!
父上の剣筋は素晴らしい物だったが、
俺が張った障壁に阻まれる。
危ない所だ。
もしもの為に障壁を張っておいてよかった。
何とか初撃は防げてが、次はどうするか?
ここはやはり、父上には冷静さを取り戻してもらう為、
しばらく眠ってもらおう。
そう考え、睡眠呪文を唱えようとした。
その時、ここまで傍観者だった司祭が動いた。
「悪霊よ!お前の好きにはさせません。
対魔法結界!!」
司祭が呪文を唱えると、
対魔法結界、
呪文の発動や効果を阻害する結界が広がる。
そして、対魔法結界の呪文が完成した瞬間、
俺は暗闇に閉ざされた。
―――――――――――――――――――――
対魔法結界ですか。
凄い呪文ですね。
どんな呪文でも無効化するのですよね?
「いや、相手の抵抗が高ければ無効化できないよ。」
え?
抵抗可能なのですか?
チャールズは呪文抵抗の特典は取っていなかった?
「それがきっちりとっていたんだよ。
状態異常に対する抵抗も含めてね。」
?????
「彼の抵抗力が低いのは、特典が無いからじゃなくて
基礎抵抗が低い、
いや、基礎抵抗が0、つまり無いからなんだよ。
呪文抵抗の特典は基礎抵抗を何十倍にもする能力だけど、
元々0だと幾ら掛けても0にしかならないんだ。」
なるほど・・・・・
でもなぜ彼の抵抗は0何でしょうか?
それに視覚や聴覚が機能しないのは何故でしょう?
体の発育も悪いみたいだし・・・
「それが五歳以下の転生は禁止された理由だよ。
彼、チャールズの問題点は大きく分けて三つ。
その一つが呪文で視覚の代わりをしたことなんだ。
赤ん坊は生まれた時はほとんど見えない。
時間をかけて視力を脳が調整するのさ。
だが、彼はこの調整期間に呪文による視力を使ってしまった。
その結果・・・」
その結果?
「脳はきちんと見えていると誤解し、
視力の調整を行わなくなった。」
という事は、耳も・・・
「そう。
耳も同じことなんだ。
目と同じ様に音も処理の為の調整期間があるんだ。
呪文を使って聴覚の代用をしたために、
音の情報を脳がちゃんと処理できない様になってしまっていたんだ。
そして、それは体にも言える。それが、問題点その2。
体を動かさなかった事。
彼は呪文に頼るあまり、あまり体を動かしていない。
だから発育が遅れ、首も座っていなかったんだ。
そして最後の問題点が、
母乳をあまり飲まなかったこと。」
母乳?
それが問題点になるのですか?
「当然だ。
生き物の抵抗力、免疫と言うのは後からつく場合と親から受け取る場合がある。
母乳はその親から受け取る場合に該当し、
それを飲まないと言うのは抵抗力を放棄したのと同じ。
肉体の発達にも関係する。
チャールズは動こうとしなかった為、余計に発達が遅れたと言うわけさ。」
だから基礎抵抗が0だったんですね。
「そうだ。
だけど、これらの事は赤ん坊なら早い遅いの違いはあるが
普通に出来る様になる。
なまじ記憶があるから悪い方向へ行くのだと考えられたんだ。」
じゃあ、呪文が使えなければそうならない?
「残念ながら、呪文が使えない場合、
現状を変える為にいろいろやってしまうのだ。
その結果、赤ん坊の時の怪我が多くなり、その後の成長にも影響した。
情報も得られず、身動きできない環境は精神を疲弊させるらしく
色々な心的外傷を抱える事になる。
だから、転生はそれらの影響を受けにくい五歳以降となったんだ。」