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ライバルは君だけ!  作者: にゃんころ
一章 高校一年生
8/19

第七話 入学式当日朝②~私がスカウトされたのはこういう事だったのね~(塩沢優理)

説明会。

長い話になります。

 朝食を食べ終わった私は、自分の部屋に戻ると急いで身支度を開始した。

「優理~。私は出るからね~。お弁当はテーブルに置いておくから、家を出る時はちゃんと戸締りを確認してから家を出てね~」

 そんな時、廊下からお母さんの声が聞こえ。

「は~い。いってらっしゃい!」

 着替え途中だった私は、動けないのでその場で大きな声で返答をしたのだった。

「さてと、それじゃあ私も」

 お母さんが出掛けて10分程過ぎた頃、一通り身支度を終えた私は、日中あまり出入りをしない畳み部屋の一室へと足を踏み入れる。

 そこには、先程までお母さんが座っていたであろう座布団が敷かれており、私はその上へ正座で座ると、両手を合わせて目を閉じるのだった。

「……」

 私のお父さんの遺影が立ててある仏壇。朝こうして手を合わせるのが私の日課の一つでもある。

 遠征で出掛けている最中でもない限り、自宅で過ごす時は何時も欠かさず、こうして出掛ける前には合掌がっしょうする。

 今日は何を祈ろう。

 日によって手を合わせる時の内容は様々だけど、いつも共通している事と言えば。

 今日も一日楽しんで参ります。

 その一言に尽きるだろう。

「行ってきます…」

 一通り黙祷もくとうをし終えた私は、その場に居ない筈のお父さんに言う様に、立ち上がる前には決まってその一言を述べる。

 そして近くに置いていた鞄を拾っては、(あわ)ただしく自宅を出るのだった。

「5時36分。もう歩いたら絶対間に合わないわね…」

 ふと私はスマホの時刻を見てそうつぶやく。

 自宅から学校までは直線距離ならとても近いのだけど、学校に着く為には急な上り坂という問題がある。

 バス通の人は、学校前に停留所があるから楽なんだろうけど、徒歩で通う生徒はきっと毎朝息を切らしながら登校している事でしょう。

「って、走らなきゃ」

 登校風景を考えて居たら更に時計が進んでいる。のんびりしていられないと悟った私は、走って学校に向かうのだった。

 ふーっ。私でも結構答えるレベルだわ、この坂道。

 坂道を走りながら、私はそう考える。

 テニスの練習も結構ハードな部類だから体力には自信あるんだけど、朝に行き成りこの坂道を走るのは疲れるわ…。

 追加でそんな事を考えながら、黙々と坂道を駆け上がると漸く校門前に到着する。

「流石にちょっと疲れた…入学式とか寝そー」

 ここまで来ると流石に平坦な道なので、私は無理に走らずゆっくりと歩き出す事にした。

 すると、途端に汗が噴き出したので、スポーツタオルを鞄から取り出して汗を拭く。

 そんな時の事。

「あれ? スプレー、家に置いてきちゃった…」

 シャワー室はあるらしいのだけど、場所もまだ知らないし見つかったとしても勝手に使って良いかも分からない。

 そもそも浴びる時間も恐らくあまり無いから、制汗スプレーを使おうかと思ったのだけど…。

「まぁ、お爺さん相手だしどうでも良いわ…」

 翌々考えれば男性と呼ぶには怪しい対象だという事に気付き、手でパタパタとうちわの様にあおぎながら、私は校長室へと向かうのだった。

「ここよね」

 私は頭上にある、プレートの名称を確認する。確かに校長室と書いてある。

 私はそれを確認した後、軽くドアをノックすると、低い男性の声で「入りなさい」と室内から聞こえるので。

 校長先生の声だよね確か。

 推薦面接の時も散々聞いた覚えのある声だったので、私はドアノブを捻りそのまま室内へと入るのだった。

「おはよう、ぎりぎりだがまぁ良いじゃろう。そこへ座りなさい」

 入ると直ぐ私に声を掛けた校長先生。私を椅子へ座る様に促すその左手には、幾枚いくまいかの用紙が握られていた。

「お? この紙が気になるかのう?」

「えっと…はい、まぁ」

 ただの用紙ぐらいならそこまで気にならないけど、やたらと蛍光ペンで線を引かれているのが裏から透けて見えるのだから、どうしても目につくのだ。

「ほれ」

 私が座ると同時に、その一言で問題の用紙の一枚を手渡しして来る。そこには。

「はい? 道場破り?」

 どかどかとタイトルに”部活動・同好会道場破り計画書”と書いてある。

「そうじゃ。まぁ、部活破りとでも言えばいいかのう。ほれ、実施内容からずーっと読んでみなさい」

 そう言われたので、私は恐る恐る渡された用紙に目を通すことにした。

 ”実施内容:昨今さっこんの弱体化したわが校の部活動の活性化の為、新入生代表が各部活に訪問し代表者と勝負。これからの活動のいしずえとなる様、全校生徒の模範となるべき真剣勝負をご所望しょもうする。

 新入生代表:塩沢優理 対するは 各部活の代表(基本的に部長が出る事。実力が乏しい場合は別の者でも可)”

「…ってこれ! 私一人で各部活の実力者と争えってことじゃないの!!!!」

「そうじゃ。それがどうしたかの?」

 この校長…。こうなったら出るとこに出るしか。このふざけた計画書を証拠に、教育委員会にでもうったえてやるんだから。

「ちなみに。教育委員会には既に了承済みじゃからの~」

「は? 冗談でしょ?」

 私の心を先読みするかの様にそう告げる校長先生は、してやったりの顔をして此方こちらを笑顔で見ている。

「本当じゃよ。なんなら今電話してみい。ほれ」

 そう言って私に手渡して来たのは、この地区内を管轄している教育委員会に所属している人の名簿と校長先生のスマホだった。

「教育委員長の個人携帯…080…53……」

 ”も…もしもし。だ…段松さん…?”

 通話から数秒後、もそもそとした音から始まり、しばらくして声が聞こえたその声は、既に怯えきっていた。

 一体この校長、何したのよ…。

「あのーもしもし、わた」

 私は話が進まないので、取り敢えず自分の身分を言おうとしたその瞬間。

 ”君は誰だね!? と、兎に角! もう私に関わらないでくれ!!!!”

 電話の主は騒ぎ立て、向こうから一方的に通話を切られたのだった。

 駄目だコレ…。

 私は話をするのも現状無理だと察したので、校長先生から用紙を全て受け取ると、テーブルに置いては溜息をつきながら目を通し始めるのだった。

「校長先生。これを私が受ける事で、私が得られるメリットってなんですか?」

 そう、私にとっての問題はそこである。

 用紙に軽く目を通した限り、対決内容は私に多少有利な条件ばかりだ。

 今の私なら不可能じゃないものばかりで、私の能力を相当熟知してのギリギリの争いをさせようとしているのだろう。

「おや? 一番最後の用紙の一番最後の所の文章にきちんと書いておるぞい。きちんと確認せい」

 一番最後の用紙の最後の文章…あった。

 ”お主には自分が所属するであろう、硬式テニス部含めた15の部と同好会に対して勝負をして貰うのだが。注意事項が三つ程ある。

 ①指定した日時とその場所以外での勝負は無効とする。

 ②硬式テニス部のみ、部の代表は白水望が務める事。時間は本日昼食後の13時。校舎裏のテニスコートに集合。

 ③塩沢の報酬内容:勝利数で待遇のグレードアップ。

 →詳しい内容は校長に直接聞く事。

 ”

「取り敢えず③の報酬教えて! 今直ぐ教えて!」

「えらく食いつきが良いのう…ほれ」

 すると校長先生は、ふところから一枚の紙を取り出して私に手渡してくる。

「こ、これほんとですか?」

「うむ、儂の権限で勝利した分の条件分免除とするぞい。無論、きちんと勝てたらの話じゃがのう」

 元々、頻繁にテニスの大会に出場する予定の私に対して、足りなくなる出席数の一部免除と言う形でこの高校に推薦入学した訳なんだけど。

 更に今回の報酬で、4大大会に出場した時と同時期に行われる各中間・期末テストを受けるか受けないかをそれぞれ選べるって訳。正直無茶振り過ぎるけど。

 仮に受ける場合も、文面を見る限りきちんと別の時間を設けて、個人的に受ける事が出来るらしいから美味しい案件だと思う。

 ちなみに、私はきちんと放棄しないで受けるよ! 私悪い女子高生じゃないよ!

「そういえば詳しく書くのを忘れとった。①は基本的に、儂が立会人となりその場に行くからのう。そして、儂が判定をした時の結果のみ有効とする。もし万が一、どちらか欠席となった場合は、欠席となった方が自動的に敗者となるから忘れない様に。何か質問はあるかの~?」

 質問かぁ…。

「私が例えば、全敗した時のペナルティは何かあります?」

「無しじゃ。ただし! 一度でもわざと負けたと儂が思った場合は、それなりの罰があると思いなさい」

「そうですか。それじゃあ、相手の方が負けた時のペナルティって何です?」

「なーに簡単な事じゃ。部費のカット。そもそもインターハイにも殆ど出ておらん部活が多いからのう。部費の削減は至極当然じゃ」

 高校総体(インターハイ)にも出れない程度だと、身体能力はそうでもないって人が多そうね。新入生が良く分からないって感じかしら。

「それじゃあ、最後の質問! ②の本日行う対戦相手の白水望さんって、確か同じ学年のあの子ですよね? あの子ぐらいの実力だと私は先ず負けませんよ?」

 確かプロに転向する為にこちらに戻って来た時だったかしら。その時に丁度大会があったから出場した時に決勝で相手だった子。

 アマチュアではかなり強い部類だとは思うけど。例えば、高熱でフラフラになったハンデを私が持ったとして、それでようやく互角になるぐらいの差がある。

「そんな事分かっとる。前の用紙に戻って、勝負方法一覧の硬式テニス部の項目をちゃんと見てみるのじゃ」

「硬式テニス…硬式…あった…はい?」

 私は思わず問い掛けてしまう。

 そこに書かれていた勝負方法は至ってシンプルだった。

 普通の勝負ではあるのだが、結果として私にかなり大きなハンデを抱える形での勝負。

「どうせテニス漫画で良くある、アンクルウエイトでも着けて試合するとかそのたぐいだと思ったのに。これは正直ちょっときついかも…」

「ふぉふぉふぉふぉ。どうした、さっき儂に食ってかかった時の威勢は!」

「む~!」

 お父さん。どうやら高校生活も、随分と楽しい物になりそうです。

 私はそんな事を思いながら、本日から開始される道場破りで全勝する計画を、着々と立てるのだった。

先に言っておきますけど、校長先生と塩沢優理がその内くっつくとか、そう言う事は100%ございません(一応


補足↓

段松先生の経歴は。

この学校の卒業生→教育大に進学→就職浪人無しで教師の道へ→最初の赴任先がこの高校→都合上、何度か別の高校に赴任→数年前に教育委員会に執行(そこで色々と工作紛いの事をする)→現在の高校の学校長に→塩沢達が卒業するのと同時期に定年で退職(の予定)

です。


この学校の創立も校長先生の退職の時期に丁度100周年になります。

この100周年というOBも沢山集まるであろう時期に、何としてもかつての賑わいを取り戻したいという思いで活動している様です。

ですので。

塩沢優理をスカウトしたと書かれてはいますが、単に不足分何かあればポケットマネーを出そうとも考えている。程度のものです(あくまでも

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