第二話 入学式~爺さんの悪だくみは大勢を巻き込むらしい~(桃野宏文)
”有明工業高等学校の入学式を閉会いたします”
教頭先生のナレーションを最後に、俺達は端のクラスから順々に退場して行く。
正直な所、入学式自体はどうでもいいんだが。少し気になる事がある。
端的に言うと、入学式で予想通り色々やらかしたあの爺さんが、入学式が始まる前に放送でやたらと三年生を呼び出していた事だ。
”呼び出しのお知らせじゃぞ! バス…む、全員3年生じゃ。神原大悟君…。阿部川大輔君…”
入学式に3年生を何人も呼び出すのは流石に妙な感じがしたから、取り敢えず呼ばれた人数と数人の名前だけは覚えることにした。
その上で学校のホームページにアクセスした結果、呼び出した人物は総勢で14名。全員どこかしらの部活動の部長らしいと言う事だ。
部長全員をこの時期に呼ぶって事は、部活動の勧誘についての注意の話か?
”この者達は今直ぐ…今直ぐじゃぞ! 一階の校長室に集まる様に! 居ないなら代理を立ててでも必ず来なさい。以上じゃ!”
それにしてはやけに念を押した呼び出しだと感じた。そもそもここの高校は、部活動紹介を別の日に設けている筈だし。はっきりとした答えはもっと別なのだろう。
まぁ詰まる所、現状今の俺にはどうしようもないんだが…。
「…号……君」
取り敢えずは今目の前にある一番の厄介事を片付けるべきだろう。あのグラウンドにいる野球部の面々だな。
うちの高校には軟式もあるって聞いたけど、今外で練習してるのはどうみても硬式。
恐らく2・3年なんだろうけど、遠くから見ただけでもう実力がはっきりとわかるレベルで酷い。
一応事前に自分の高校の実力ぐらいは把握していたけど、もしかして指導者が悪いんかな?
昔は北海道でもそこそこ野球の名門だった筈のこの高校が、良くもまぁここまで落ちたもんだ。
「出席番号32番、桃野宏文君!」
「…えっ? あっ、はい!」
やっべ。担任の先生に目を付けられるのだけは勘弁。
「頬杖付いて外をじっと眺めるのは、気になる女の子でも居るのかな? 取り敢えず話だけはきちんと聞いていてくれな」
「すいませんでした…」
取り敢えず話はきちんと聞くか…。また何か言われたら面倒だ。
「では改めて…。君達の親御さんは、今PTA関係の方で別の教室で説明を受けているので、後から来ます。それじゃあ、入学式前にも紹介したんだが、俺の名前は覚えてるか? んー、出席番号26番の星村正史君!」
「え? あ、僕ですか! えっと…す、す、す…好きです先生!」
「俺結婚してんだわーごめんなー。君英語の中間マイナス5点な」
「げっ…」
正史のアホ…。いつもつるんでんだからお前も目立つなっての。
「冗談だぞー。じゃあもう一度改めて言っとくな。俺の名前は須藤晃。で、ついでだからボードに自己紹介しとくぞ。…あれっ、このマジックでないな…。これもか。…赤マジックで悪いけどしょうがないからこれで!」
赤マジックで書くのかよ。血の海になりそうで何か嫌だな。