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ライバルは君だけ!  作者: にゃんころ
一章 高校一年生
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第十五話 入学式放課後~落ち着きなさい私~(水白望)

第十一話目をこの前修正して、部室に来た時にロッカーの奥で挟まってた子の自己紹介を追加しています。日に焼けた女子は副部長の神杉佳夏(かみすぎかな)です。


用語解説(追加分)。テニスを理解している方であれば見る必要はありません。

・インターバルトレーニング→基本的な意味は、ダッシュを短い間隔で繰り返し限界に挑戦するトレーニング法。テニスの場合はサイドライン等目印になる線が元から引かれている為、時間を決めてサイドライン間で行う場合がある。反復ダッシュ→短い休憩(20秒)の繰り返し。

 その時私は、最終セット前のセットブレークを利用して部室へと来ていた。

「お、休憩中かな?」

 部室に入って来た私に声を掛けたのは、先程の昼食時に一緒に居た副部長だった。

 試合前も部室の端で狭い場所に挟まっていた副部長は。今も呑気(のんき)に同じ場所に居るのである。

「セットブレーク中です。着替えますね」

 そんな場所に居て何が楽しいのだろうかという疑問をぶつけたくもあったが、現状そんな場合じゃないので、自分の用事を優先するべく後回しにする事にした。

「……」

 着替え途中、肩を回したり首を軽く捻りながら、疲れ具合を自分の物差しで測る。

 調子が良い分疲れもそこまで感じてはいない気がするけど、休憩に入ったばかりで体が火照(ほて)っているから何とも言えない。時間が立ってみないと何ともという感じだ。

 私がそんな事を考えていた時だった。

「これ使うかい?」

 私に声を掛けながらホットタオルを渡してくれたのは。部屋の隅にずっと居た筈の副部長だった。

「…有り難うございます」

 丁度濡れタオルが欲しかったから、凄く有り難かった。

 ちゃんとした試合とかだと、ホットタオルとか用意してくれる所もあるにはあるんだけど。

 今回みたいな当事者以外は殆ど突発的というこの試合で、まさかちゃんと用意して貰えるとは思わなかった。時期的に冷たい濡れタオルで体は拭きたくないから、今一番欲しかった部類のアイテムである。

 最初にあった時は狭い所が好きなただの変人っぽかったけど。案外真面(まとも)な人なのね。

 先輩に対してそんな失礼な事を考えつつ、私は急いで着替えを終わらせる事にした。

「ああ、そのタオル回収するね。私は試合中ずっとここにいるから。怪我とかした場合とかも此処に来るよう周知をお願いねー」

「はい、伝えておきますね」

 私は返事をしながら時間が余りない事に気付いたので、近くにあった全身鏡の傍に行き、身なりを整えるとテニスコートへと急いで戻るのだった。


 *********


 そんな休憩時間の終わり際の事。

「おーい、(のぞみ)ー。聞こえるかー!」

 テニスコートの休憩場所で椅子に座っている私の後方から、正史(ただし)の声がしたのだ。

「聞こえてるわよ正史。と言うかギャラリーの中にいたのね、そっちの部活はどうしたのよ」

 本当は前のセットの中間あたりから、ぞろぞろと野球部員がギャラリーに溶け込みだしたのを知っている。大方、部活動にならないからこっちに来たのだろう。

「上級生が皆こっち来たから一時中断だよ。それよりお前の疲れは大丈夫か?」

「それは大丈夫だけど。それよりも…」

「それよりも?」

「…塩沢さんってこの休憩時間中、一体何をしていたの?」

 私が今一番聞きたかった事は彼女の事だ。

 私が着替えから戻ってからも、ずっとコート上で立ち尽くしたまま微動だにせず目を(つぶ)ったままなのだ。丸で休憩時間を休憩として使っていない様な感じが、私からは見受けられた。

「えーっと、お前が部室に行った時に水分補給と軽く何か食べてたな。それが終わってからはずっとあの場所で目をつぶったり、かと思ったらその場で軽く素振りしたり。まぁ、そんな感じだな」

「そっか。…有り難う」

 そして休憩時間終了一分前になったのを確認した私は、椅子から立ち上りラケットを持つとベースライン上へと歩きだした。

 そして歩きながら、私はじっくりと彼女を観察する。

 印象だけで言えば、休憩なんて全く要らない体が軽そうな感じかしら。

 第1セットは私と同じぐらいの運動量だった筈だけど、直前の第2セットで向こうは私の倍以上動いている筈なんだけどなぁ。

 それにも拘わらず、休憩らしい休憩は無しとか…。一体どんな体してるんだか。

 対象的に私の体は若干重い。休憩直後はまだ軽かったんだけど、時間が経つにつれて腕に蓄積していた疲労が否が応でも実感しちゃうし、握力も最初の頃より幾分落ちた感じは否めない。

 つい、一年前の彼女との試合の時を思い出しちゃうわ。

 最初の1ゲームはそこそこ良い勝負していたと思って私は浮かれていた。そして、そこから彼女のギアチェンジに全く対応出来なくてずっと振り回される。結果的に、残りのゲーム全てでボールを真面(まとも)に返す事も出来ず、殆ど棒立ちの状態で誰が見ても私のボロ負けだった。

 今回は明らかに何らかのハンデを私が貰っていて、彼女を散々走らせて有利な状態の筈なのに。それでも私の方が先にガス欠状態?

 彼女と比べて私に足りないのは矢張り体力? それとも体力だけじゃない精神(メンタル)的な部分の何かが彼女と比べて私には足りないの?

 自問自答にもならないこの質問に、私は中々自分で答えを出せない。

 彼女に負けてからのこの一年間。私に足りないと思っていた体力を補うために、インターバルトレーニングを課題としてやって来たから、ゲーム中の疲労は余り感じなくなったけど。どうやらそれだけじゃない何かが彼女との決定的な差としてあるのだろう。

「何て自己分析しては見たけど、私の性には合わないわね」

 私は思わず声を出す。

 ネガティブになるのは反省をする意味ではいいけど、今は試合中であり反省をする時ではない。

 第1セットの時に思った通り、勿体ないミスだけは出来るだけしない事を心に刻みつつ。最終セットへ向けて作戦を練るのだった。

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